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第3回:小児の予防接種を乗り切る診療ハック

監修:矢吹拓先生(国立病院機構栃木医療センター内科部長)

毎日の診療がちょっとラクになる、そんな診療のライフハックが診療ハックです。膨大な経験を積まれてきた先生方の「臨床の知恵」、すなわちハックを全6回にわたり連載形式でお届けします。前半はすぐに臨床に活かせる問診・診察のハック、後半は知っておくと一歩上のマネジメントスキルが身につくハックを厳選してご紹介します。

第3回は前半の問診・診療のハック最終回として、小児の予防接種を乗り切る診療ハックをご紹介します。予防接種のワクチンのほとんどは注射のため痛みが伴い、大人でもできれば避けたいものです。特に子どもへの注射においては安心させるハックを知っておくと、医療者の対応にも安心感が生まれます。そこで今回は「子どもに予防接種を行う際には大きいシリンジも用意しておく」「痛くないワクチンの打ち方」の2つのハックをご紹介します。

子どもに予防接種を行う際には大きいシリンジも用意しておく

執筆:松村 真司 先生

子どもでなくとも注射は嫌なものです。またワクチンは必要なものだということ、針でチクっとするのも一瞬の出来事だと頭でわかっていても、できれば避けたいのは十分理解できることでしょう。自分が子どもの頃に、どんな想いだったか、大人になると忘れがちです。そのため、注射の恐怖を和らげるために最大限の工夫と努力は常に必要です。もちろん、相手が子どもとはいえ、誠意をもって正直に対応することが基本ですが、ちょっとズルいものの、怯える子どもを少し安心させる方法がありますのでご紹介します。

2コマ漫画(ビフォアアフター)

2コマ漫画(ビフォアアフター)

どんな診療ハックスキル?

予防接種を行う前に、実際に用いる 2.5mLの予防接種用のシリンジよりも大きな採血用のシリンジを用意しておき、接種前に子どもに両方を見せ、「大きい注射器と小さい注射器、どっちがいい?」と、どちらを用いるか子ども自身に選ばせる。そのうえで、「じゃあ、小さいほうを使うね」と言って予防接種用シリンジで接種を行う。

用意するもの・準備するもの

10mLのシリンジ、2.5mL(ないしは1mL)の予防接種用シリンジ

実際の方法

予防接種の実施の手順は大人も子どもも原則は同じです。ある程度理解が進んだ子どもに対しては、同伴の保護者だけでなく、子ども自身にも予防接種の必要性について十分に説明し、事前にその恐怖心をほぐし、安全に配慮しながらできるだけ手早く接種を行うことが基本です。まずは、子どもの気持ちを優先し、恐怖心を減らす工夫をします。できるだけ子どもの目を見て、温かい雰囲気で声かけをします。「注射は嫌だよね、でも強くなるために必要なものだから頑張ろうね。少しだけチクっとするけど、頑張ったらすぐに終わるからね。痛くないように、いろいろ工夫するからね」と話をしたうえで、「注射器で打つからね。その前に、この大きい注射器と、小さい注射器、どっちで打てばいい?」と2種類のシリンジを見せて本人に選んでもらいます。通常は小さいほうを選びますが、もしもどちらも嫌がるようだったら「じゃあ、こっちの小さいほうが痛くないはずだから、こっちを使うね!」と言って、当初から用意してある予防接種用のシリンジを用いて接種の準備に入ります。あとは通常の接種を標準的な手順に沿って行います。
もちろん接種がすんだら、「よく頑張ったね!偉い!」と、心から最大限に褒めることが肝心です。接種用の小さなご褒美を用意している施設もあると思いますが、やはり頑張った子どもに対して心からの賞賛を与えることが、一番効果があると思います。1人ではなく、親御さんも含め、接種に関わったスタッフ全員で、褒めすぎるくらいの褒め方でちょうどよいくらいです。
地域で数十年以上診療を行っている当院には、子どもの頃に当院で予防接種を受け、その後大きくなって今度は親として自らの子どもの予防接種のために来院する方が何人もいますが、子どもの頃の予防接種体験を思い出して語ってくれる人もいます。よい思い出にせよ嫌な思い出にせよ、そのときの体験は大人になっても忘れがたいようです。予防接種の体験は今後の医療への安心感、信頼にもつながります。そのため、正直に、そして誠実に行うことがもちろん基本ですが、時には嘘も方便、予防接種の恐怖を減らすための工夫は必要なことだと思います。

ハックポイント

  • icon「大きな注射器、小さな注射器、選べるよ。どっちがいい?」と言いながら、子どもに小さいほうを選んでもらうのがコツ。
  • iconとにかく頑張った子どもたちの努力と我慢に最大限の賛辞を贈ることが肝心。この言葉かけが将来の患者-医師関係の形を作ると信じて。
icon

痛くないワクチンの打ち方

執筆:中山 久仁子 先生

患者さんから「予防接種は痛いから打ちたくない」という声を聞くことがありますか?ほとんどのワクチンは注射で接種するため、接種時の痛みを避けられません。でも痛みは主観的なものですから、ちょっとしたコツでその痛みを緩和することができます。接種後に「全然痛くなかった!」「これまでの中で一番痛みを感じなかった」と喜ばれる、痛いはずのワクチンの痛みを減らすスキルです。

2コマ漫画(ビフォアアフター)

2コマ漫画(ビフォアアフター)

どんな診療ハックスキル?

痛くないワクチンの打ち方

用意するもの・準備するもの

特になし。

実際の方法

  • 子ども

    子どもにワクチンを接種する際には、痛みを感じにくくする方法として、抱き方や気を紛らわせる方法があります(表11)

    気を紛らわせる方法
    • 乳児(1歳まで):おもちゃで遊ぶ、歌う、シャボン玉を見せる、キラキラ動く飾りを見せる、など

    • 乳児(1歳以降):自分でシャボン玉を吹く、接種部位の反対の手でノック型ボールペンを早押しする、ゲームをする、歌う、数を数える、関係ないことを話す、など

    表1|小児のワクチン接種時の痛みを軽減する方法

    痛みを軽減する方法

    推奨グレード・
    エビデンスレベル

    母乳を飲ませながら接種する

    A・Ⅰ

    乳児で接種中に授乳できない場合は、甘い飲み物を飲ませながら接種する

    A・Ⅰ

    局所麻酔を使用する(あらかじめ接種部位にペンレス®テープやエムラ®クリームなどを塗布)

    A・Ⅰ

    筋肉注射では内筒を引いて血液の逆流を確認しないで、速やかに接種する

    B・Ⅰ

    ワクチンが複数の場合、最も痛みを伴うワクチンを最後に接種する

    B・Ⅰ

    3歳以上の小児は接種中に深呼吸をさせる

    B・Ⅰ

    接種中に小児の気を紛らわせる

    B・Ⅰ

    4歳以上の小児は接種前から接種中にかけて、接種部位付近の皮膚をさする

    B・Ⅱ-1

    小児に「痛くないよ」と言わない

    D・Ⅰ

    仰臥位で接種しない

    E・Ⅰ

    【推奨グレード】A:強い科学的根拠があり、行うよう勧められる。B:科学的根拠があり、行うよう勧められる。C:行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない。D:科学的根拠があり、行わないよう勧められる。E:強い科学的根拠があり、行わないよう勧められる。

    【エビデンスレベル】Ⅰ:ランダム化比較試験。Ⅱ-1:非ランダム化比較試験
    〔Taddio A, et al:Reducing the pain of childhood vaccination:an evidence-based clinical practice guideline. CMAJ 182(18):E843-E855, 2010 より抜粋〕

  • 成人

    成人では座り方やリラックスするような声かけ、深呼吸などによって、接種時の痛みを感じにくくすることができます2、3)

    被接種者(ワクチンを打たれる人)にできること
    • あらかじめ、ワクチンとその病気について説明を受け、接種の必要性を理解する

    • 背筋を伸ばして座り、リラックスする

    • 深呼吸、または息止め、軽い咳などで気晴らしをする

    • 局所麻酔を使用することもできる(あらかじめ接種部位にペンレス®テープやエムラ®クリームなどを塗布)

  • 接種方法(子どもと成人に共通)
    • 同時接種のときは、一番痛いワクチンを最後にする

    • プランジャー(内筒)を引かない(吸引しない)。血液の逆流確認は不要(接種に適切とされている部位は神経と血管が少ない部位)

    • ワクチンを素早く注入する。ゆっくり注入すると痛みを感じやすい

    • 筋肉注射は筋肉内に打つ(筋注できるワクチンを皮下に打つと痛い)

    • 接種後、針を抜いた直後に接種部位を圧迫する

    • 気を紛らわせるように話しかけ、笑顔で接種する(怖い顔で打つと痛く感じるため)

    接種時にしても鎮痛効果がないといわれていること
    • ワクチンを温める

    • 解熱鎮痛薬の内服

    ただし、接種後数日間の痛みや熱には、解熱鎮痛薬を内服することで症状を緩和できます4)

声かけも重要です。注射針を刺すときの声かけは、中立的な言葉を使い、偽りの言葉や不誠実な言葉を避けます3)

よい声かけ

避けたほうがよい声かけ

中立な言葉づかい

はい、いくよ

刺すよ

偽らない

ちくっとするよ

痛くないよ

ワクチン接種の痛みや針に対する恐怖は、ワクチン躊躇の原因になりうるため、痛みのコントロールは重要です。上記に記したとおり、効果的で実行可能、費用なし、文化的に受容可能、年齢に応じたエビデンスに基づく戦略を使って、ワクチン接種時の痛みを軽減しましょう3)

ハックポイント

  • icon被接種者の年齢によって工夫が異なります。
  • icon接種者の接種方法は、すべての年齢に共通のハックです。
参考文献
  • Taddio A, et al:Reducing the pain of childhood vaccination:an evidence-based clinical practice guideline. CMAJ 182(18):E843-E855, 2010. PMID 21098062
  • Taddio A, et al:Reducing pain during vaccine injections:clinical practice guideline. Reducing pain during vaccine injections:clinical practice guideline. CMAJ 187(13):975-982, 2015. PMID 26303247
  • WHO:Reducing pain at the time of vaccination:WHO position paper-September 2015. Wkly Epidemiol Rec 90(39):505-516, 2015. PMID 26410893
  • CDC:Vaccine administration. General best practice guidelines for immunization. Best Practices Guidance of the Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP).〈https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/imz-best-practices/vaccine-administration.html?CDC_AAref_Val(最終アクセス2025年3月)〉
icon
監修者より

今回の2本のハックは、「ワクチンを上手に打つ技術」というよりは、「ワクチンを受けた体験をよりよいものにする技術」だと思います。松村先生の「大きいシリンジと小さいシリンジ、どっちがいい?」という工夫は、松村先生らしいユーモラスな取り組みですが、本質は子どもに「自分で選んだ」という感覚をもってもらうことにあります。一方、中山先生は、気を紛らわせる工夫や声かけ、注射手技についてのエビデンスに基づいた痛みを減らす実践を紹介してくれました。共通しているのは、「注射をする側」ではなく、「注射を受ける側」の体験を中心に考えていることです。子どもにとって予防接種は、「病院って怖い」「2度と来たくない」という記憶になる嫌な出来事になる可能性があります。しかし、この体験は医療者のちょっとした振る舞いで大きく変わる可能性があります。小さな工夫の積み重ねが、将来の医療への信頼を育てることがあります。何より「痛くなかった!」と言ってもらえるのって嬉しいですよね。

監修

矢吹 拓 先生

国立病院機構栃木医療センター内科部長・診療管理部長

2004年群馬大卒。前橋赤十字病院にて臨床研修修了後、国立病院機構東京医療センター総合内科を経て、2011年より国立病院機構栃木医療センターに勤務。『総合診療』誌編集委員。 編著に『外来診療ドリル―診断&マネジメント力を鍛える200問』、『薬の上手な出し方&やめ方』、そして注目の『診療ハック―知って得する臨床スキル125』(いずれも医学書院)など。

執筆

松村 真司 先生

松村医院 院長

1991年北海道大卒。東京慈恵会医科大学病院にて研修後、国立東京第二病院(現・国立病院機構東京医療センター)総合診療科、東京大学大学院内科学専攻博士課程、UCLA総合内科プライマリケアフェロー、同大公衆衛生大学院ヘルスサービス学科修士課程、東大医学教育国際協力研究センターを経て2001年より現職。編著に『帰してはいけない外来患者 第2版』『外来・病棟・地域をつなぐ―ケア移行実践ガイド』(ともに医学書院)など。

執筆

中山 久仁子 先生

医療法人メファ仁愛会マイファミリークリニック蒲郡 理事長・院長

1996年藤田医大卒。淀川キリスト教病院、聖路加国際病院にて研修。2005年東大大学院医学系研究科内科学生態防御感染症学専攻博士課程修了。マラウイでの臨床を経て、07年英ロンドン大衛生熱帯医学部熱帯医学・国際保健学専攻修士課程修了。日本と途上国の医療に携わる中で家庭医療の必要性を実感し、帰国後は家庭医研修プログラムを経て11年に開業。日本プライマリ・ケア連合学会理事・家庭医療専門医、感染症専門医。編著に『糖尿病・内分泌疾患の常識&非常識』(医学書院)、『おとなのワクチン』(南山堂)など。

クレジット

本記事の内容は『診療ハック―知って得する臨床スキル125』矢吹 拓 編(医学書院、2025)を基に再構成したものです。

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