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第1回:すぐに試せる問診ハック

監修:矢吹拓先生(国立病院機構栃木医療センター内科部長)

毎日の診療がちょっとラクになる、そんな診療のライフハックが診療ハックです。膨大な経験を積まれてきた先生方の「臨床の知恵」、すなわちハックを全6回にわたり連載形式でお届けします。前半はすぐに臨床に活かせる問診・診察のハック、後半は知っておくと一歩上のマネジメントスキルが身につくハックを厳選してご紹介します。

聞き方や伝え方の工夫を少し変えるだけでより精度の高い診察につながるだけでなく、問診自体がちょっとラクになります。第1回は「いますぐに試せる問診ハック」として、効果的な身体診察のための問診ハック、生活習慣をより正確に把握するための問診ハックの2つをご紹介します。

身体所見にだまされない4つの診療ハックー 患者の「訴え」のほうが役に立つ!

執筆:岸田 直樹 先生

2コマ漫画(ビフォアアフター)

2コマ漫画(ビフォアアフター)

身体所見は、臨床推論に欠かせない重要な情報源です。しかし実際の診察場面では、他覚所見よりも患者自身の訴えが病態をより正確に反映していると感じることが多々あります。特に開口障害、関節炎、浮腫、しびれといった症状については、患者の訴えを重視することで診断の精度が向上します。本項では、現場で役立つ「“患者の訴え重視”の聞いたほうが100倍速く正確な診療ハック」について具体的に解説します。

どんな診療ハックスキル?

患者の訴えを優先し、身体所見の限界を補う診療スキルです。患者の自己認識に基づく「感覚」を重視することで、身体所見で見逃されがちな徴候とともに、うまく取りにくく身体所見で陽性と勘違いしてしまいがちなものを的確に評価します。身体所見の質がまだ高くはない、研修医など初学者に有用なスキルです。

用意するもの・準備するもの

特に必要なものはありません。大切なことは、自分の身体所見の限界を常にしっかり把握できているか? ということでもあります。

実際の方法

  • 開口障害

    通常、医師は患者に「口を大きく開けてください」と指示し、2横指入らなければ開口障害と判断しますが、これは体格や口のサイズにより偽陽性・偽陰性のリスクがあります。診察では、患者に「いつもと比べて口が開けにくいですか?」と聞くだけでOK!「いつもと比べて開けにくい」という場合は開口障害陽性と取りましょう。身長や体格が小さい成人ではもともと口を大きく開けられない場合が多く、偽陽性を防ぐのに役立ちます。よくよく聞くと、「もともとお寿司がギリギリです」とか、「歯科治療の際に、もっとちゃんと口を開けてくださいと怒られるんです」という方が一定数いらっしゃいます。また、この質問は、もともと口が大きい方での偽陰性も防げます。こうした患者の訴えを重視することで、過剰な検査や不必要な治療を避けることができます(例:咽頭痛の患者で開口障害ありとして、扁桃周囲膿瘍を確認するため造影CTをしたが、いつも口が大きく開かない人だった)。

  • 関節炎

    関節の発赤、熱感、腫脹、疼痛がある場合、関節炎が疑われますが、診察上は特に熱感や腫脹の有無が難しいことがあります。また、関節炎にはなっていなくても、関節痛がある場合は少なくありません。患者に「いつもと比べて関節が腫れている感じがありますか?」と直接尋ね、「腫れている」という場合は、関節炎としてアプローチするのがよいでしょう。関節炎まできたしているか?で大きく鑑別が変わります。このアプローチにより、発見しづらい軽度の関節炎の診断につながります。

  • 浮腫

    浮腫は身体所見で診断されることが一般的ですが、初期の浮腫は見逃されやすいです。患者が「普段より足や手がむくんでいる」と感じる場合、診察ではっきりしなくても、浮腫があるとみなしたほうが正確な診断につながります。実際、浮腫のつらさは患者の日常生活に顕著に表れ、たとえば「靴がきつくなった」「指輪が外れにくくなった」などの訴えがあれば、見た目がわかりにくくても浮腫の存在を疑うべきです。たとえば、成人のパルボウイルス感染症の浮腫はわかりにくく、上記のような指輪のきつさの病歴が有用です。

  • しびれ

    診察上、しびれの所見を正確に取るのは難しいことがあります。特に軽度のしびれや一時的なしびれは診察で検出するのが困難であるという認識をもつことが、まずは重要に思います。患者が「しびれている」と感じる部位については、診察で明確に感覚障害(の左右差など)が確認できなくても、しびれ陽性としてアプローチしましょう。「下手な(雑な)診察による偽陰性」が研修医では多発します。

上記ハックをかっこよく述べていますが、すべて私が経験し、患者さんから怒られたことがある切り口なのです。「この手首、腫れてますね」と言ったところ「私の手はいつもこのくらいの太さです!」とか、「ホントにむくんでいますかねぇ」と言ったところ「私はむくんでいてつらいんです!」と言われたことがあります。これはすべて私の身体所見のスキルが未熟であるだけなのですが、未熟ゆえに生まれたハックだともいえます。髄膜炎を疑う身体所見のneck flexion testも、顎が胸につくかではなく、「いつもと比べて首を曲げにくいですか?」のほうが有用に感じます。

ハックポイント

  • icon他覚所見に頼らず、患者の訴えに耳を傾けることが診療精度の向上につながる。
  • icon開口障害、関節炎、浮腫、しびれの症状では、患者の訴えを重視することで、より正確な評価が可能になる。
  • icon患者の訴えと身体所見を上手に組み合わせ、偽陽性・偽陰性を減らし、無駄な検査や治療を避けることができる。
  • icon上記以外にも、基本的に診断推論は、病歴でほぼほぼ片がついていることを、身体所見や検査で再確認しているだけのことが多い、という事実に気がつくことも重要です。
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生活習慣を正確に把握するために、少し高めのボールを投げてみる

執筆:前野 哲博 先生

2コマ漫画(ビフォアアフター)

2コマ漫画(ビフォアアフター)

食事、運動、飲酒や喫煙などの生活習慣を確認する場合、患者さんは少し「盛って」答えることがよくあります。たとえば、飲酒量を尋ねた場合、患者さんから「普段は2合くらいですかねえ。まあ、たまに3合飲むこともありますが……」という答えが返ってきたときは、たいていの場合「ほとんど3合、たまに2合」と思ったほうがよいと思います。患者さんの心理としては、医師の前では、後ろめたいことは少しでも控えめに言いたいもの。こちらが正確な情報を得るためには、どのような言葉をかけたらよいでしょうか。

どんな診療ハックスキル?

生活習慣を尋ねる際に、あえて悪い数値を投げかけてみる。

用意するもの・準備するもの

特になし。

実際の方法

生活習慣について、患者さんが正直に答えることをためらうのは、患者さんの心の中に「医師から期待されているよい生活習慣」のイメージがあり、それと現実のギャップがある場合に後ろめたさを感じてしまうからではないかと思います。そのため、正直に話すと怒られるのではないか、心証を損ねるとよく診てもらえないのではないか、先生をがっかりさせるのは申し訳ない……といった心理が働き、つい答えを「盛って」しまう、ということになりかねません。

患者さんに正直に答えてもらうためには、患者さんが「医師が期待している(=守らないと医師が気を悪くする)」と感じてしまう「圧」を、意識的に下げる必要があります。そのために有効なのが、「こちらから、あえて悪い数値を投げかけてみる」という方法です。たとえば、飲酒量を尋ねるときは「多いときで1日5合以上飲む日はありませんか」と、あえて大きめの数字をぶつけます。そうすると、患者さんは少しほっとした表情を浮かべながら「いえ、そんなには飲みませんよ。多くても3合くらいです」と、比較的正直に答えてくれます。同じように、「間食するのは毎日ですか」「たばこ1箱を1日で全部吸ってしまう日も多いですか」のように聞くと、「いいえ、間食は週に3日くらいです」「いいえ、多くても1日10本くらいです」のように、患者さんが罪悪感を抱くことなく、正直に生活習慣を答えてもらうことができます。ちなみにこの方法は、服薬状況を確認するときにも使えますので、ぜひ試してみてください。

ハックポイント

  • icon生活習慣を正しく把握するために、あえて悪い数値を投げかけてみる。
  • icon患者は、その悪い数値を否定する形で、自分の生活習慣について正直に話してくれることが多い。
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監修者より

今回の2本のハックは、一見すると小手先のテクニックのようですが、実はどちらも診療の本質を突いています。われわれは「患者さんの語りをどう扱うか」を問われているのです。

岸田先生の提案は、身体所見の文脈の話でもあります。身体診察は単独で考えずに病歴や患者固有の情報と合わせて考えるべしというメッセージです。「2横指入るか」よりも「いつもと比べてどうか」。この“いつも”という時間軸を導入するだけで、診察は一気に患者さん固有の物語に接続し、身体所見で得られる情報を個別化していくことができます。

前野先生の「少し高めのボール」は、医師の無意識の“期待”が問診を歪めるという鋭い洞察に基づいています。われわれが思っている以上に、診察室には「よい患者でありたい」という空気が漂っています。そこにあえて極端な数字を投げることで、その圧を下げる。これはテクニックであると同時に、関係性のデザインでもあります。

どちらのハックにも共通するのは、「正しさ」を押しつけるのではなく、患者さんが本来持っている情報を、いかに自然に引き出すかという姿勢です。

監修

矢吹 拓 先生

国立病院機構栃木医療センター内科部長・診療管理部長

2004 年群馬大学医学部卒。前橋赤十字病院にて臨床研修修了後、国立病院機構東京医療センター総合内科を経て、11 年より現職(現在、内科医長)。『総合診療』誌編集委員。 編著として『外来診療ドリル―診断&マネジメント力を鍛える200問』(2016)、『薬の上手な出し方&やめ方』(2020)、そして注目の新刊本『診療ハック―知って得する臨床スキル125』(2025)など多数。

執筆

岸田 直樹 先生

Sapporo Medical Academy/東京薬科大学 客員教授

東工大(現東京科学大)中退後、2002年旭川医大卒。静岡がんセンター感染症科フェローを修了し、手稲渓仁会病院総合内科・感染症科を経て2014年Sapporo Medical Academyを設立。その後、北大MPH、PhDコースで感染症疫学を学び(西浦研)、20年から札幌市危機管理局参与としてコロナ対策に従事。北海道科学大・東京薬科大客員教授も務め、新時代で活躍する薬剤師の育成にかかわる。著書に『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版』(2019)、編著書に『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(2023)など多数。

執筆

前野 哲博 先生

筑波大学医学医療系地域医療教育学 教授/筑波大学附属病院総合診療科

1991年筑波大卒。河北総合病院で初期研修の後、筑波大病院総合医コース修了。川崎医大、筑波メディカルセンター病院などを経て、2000年筑波大講師、09年より現職、18年4月に同大病院副病院長。総合診療科で診療・教育に従事する傍ら、地域医療教育学分野の研究にも取り組む。編著書に『帰してはいけない外来患者 第2版』(2021)『医療職のための症状聞き方ガイド』(2019)など多数。

クレジット

本記事の内容は『診療ハック―知って得する臨床スキル125』矢吹 拓 編(医学書院、2025)を基に再構成したものです。

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2026年5月27日(水)
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