正しい治療で症状をコントロール

治療方法について

監修:中原剛士先生
(九州大学大学院医学研究院 皮膚科学分野 教授)

薬での治療

外用療法
(塗り薬を使って行う治療)

炎症やかゆみを抑える塗り薬 :
抗炎症外用薬

炎症やかゆみを抑える塗り薬には4種類あり、いずれも過剰な免疫反応を抑えます。症状がでているところに薬を塗り、炎症(湿疹)やかゆみを抑えます。

①ステロイドの塗り薬

ステロイドの塗り薬は免疫反応を抑えるはたらきがあります。
「ステロイドの塗り薬は怖い」と考えて、「なるべく少なく、短期間だけ使おう」と考える人もいるかもしれませんが、中途半端に使うとかえって症状を悪化させたり長引かせたりすることがあります。医師の指示通りに、必要な量を必要な期間、必要な部位に使い続けることが大切です。

ステロイドの塗り薬について

炎症やかゆみを抑える塗り薬には、ステロイドと異なる以下の薬もあります。
ステロイドの塗り薬を長期間使い続けることによる副作用が不安な場合や、ステロイドの塗り薬で効果が不十分(湿疹が治らない、かゆみが残るなど)と感じる場合、またステロイドの塗り薬である程度炎症が落ち着いた場合などに使われます。ステロイドとほかの塗り薬を組み合わせて使用することが大切です。

②カルシニューリン阻害の塗り薬

細胞内の信号を伝達するカルシニューリン(酵素)を抑えるはたらきがあります。有効成分の粒がステロイドの塗り薬と比べて大きいため、健康な皮膚への影響は少なく、バリア機能が低下した炎症部位でよく吸収され効果を発揮しやすい性質があります。刺激やほてりを感じることがあります。

③ヤヌスキナーゼ(JAK)
阻害の塗り薬

炎症やかゆみが伝わる信号の経路である「JAK-STAT(ジャック・スタット)経路」を抑えることで、炎症を引き起こす原因物質をブロックするはたらきがあります。

④ホスホジエステラーゼ4(PDE4)
阻害の塗り薬

PDE4(ピーディーイーフォー)は身体の中の細胞に存在する酵素(タンパク質)で、炎症を抑えるシグナルを分解するはたらきがあります。アトピー性皮膚炎の患者さんの炎症細胞で増えていることが知られており、PDE4のはたらきを抑えることで、炎症を抑制するシグナルを上昇させるはたらきがあります。

プロアクティブ療法

頻回に再燃をくり返す場合には、症状改善時に治療を中止し、再燃するごとに治療を再開する(リアクティブ療法)のではなく、プロアクティブ療法を行います。まずは寛解(症状が落ち着いて安定した状態)を目指した治療を行い、保湿剤によるスキンケアを行いながら、少ない頻度で抗炎症外用薬を用い寛解状態を維持する治療法がプロアクティブ療法です。

【プロアクティブ療法のポイント】

まずは寛解導入を確実に行います。寛解のためには、適切な用法・用量の抗炎症外用薬を塗布することが重要です。
寛解導入後、寛解を維持できる頻度で、塗布回数を減らしながら塗布を継続します。抗炎症外用薬を減らしている期間には、皮膚バリア機能と水分保持のために保湿剤を使用してください。
プロアクティブ療法で、抗炎症外用薬を最小限に使用し、最大の効果を得るためには、悪化因子の対策を継続することが大切です。

日本アレルギー学会・日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」アレルギー2021;70:1257-1342

全身療法
(飲み薬や注射、紫外線を使って行う治療)

炎症やかゆみを抑える飲み薬

炎症やかゆみを抑える作用があり、塗り薬と一緒に使用されることがあります。飲み薬は塗り薬に比べて全身にはたらきかける可能性があります。使うときは注意しましょう。

①カルシニューリン阻害の飲み薬

強い炎症を伴う湿疹が広範囲に生じている16歳以上の患者さんで使用されます。最大3カ月まで続けることができますが、そこでいったん休薬する必要があります。また服用中は、血圧が上昇したり腎臓の機能が低下することがあるので注意が必要です。

②ヤヌスキナーゼ(JAK)
阻害の飲み薬

炎症やかゆみが伝わる信号の経路である「JAK-STAT(ジャック・スタット)経路」を抑えることで、炎症を引き起こす原因物質をブロックするはたらきがあります。ステロイドの塗り薬やカルシニューリン阻害の塗り薬などを一緒に行うほうがよいといわれています。また、服用により、単純ヘルペスウイルス感染症になったりニキビができることもあります。

③ステロイドの飲み薬

急な悪化がみられた場合に、ごく短期間に限って使うことがありますが、基本的にはあまり使うことはありません。自己判断で服用を途中でやめたり量を減らしたりすると、思わぬ副作用や症状の悪化をまねくことがあります。医師に指示された飲み方や量、期間を必ず守りましょう。長期間漫然と飲み続けることは好ましくありません。

注射剤 : 生物学的製剤

アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす原因と考えられているIL(インターロイキン)-4とIL-13の過剰なはたらきを抑える注射剤と、アトピー性皮膚炎のかゆみの原因となるIL-31の過剰なはたらきを抑える注射剤があります。これらの注射剤を投与できるのは、今までの治療で十分な効果が得られない成人(IL-31のはたらきを抑える注射剤は13歳以上)の患者さんです。
これらの注射剤で治療するときには、ステロイドの塗り薬やカルシニューリン阻害の塗り薬などの炎症やかゆみを抑える塗り薬を一緒に用いる必要があります。

紫外線療法

紫外線療法は、抗炎症外用薬や抗ヒスタミン薬、保湿剤などでよくならない患者さんや、従来の治療で副作用が生じている患者さんで行われます。紫外線は皮膚の免疫に関係する細胞のはたらきを抑制する作用があり、UVAとUVBを照射するナローバンドUVB療法などの治療法があります。

保湿、
補助療法

保湿剤

皮膚の乾燥は症状を悪化させたり治りにくくさせたりするので、保湿剤でうるおいを保つことが大切です。水分やセラミドを補うもの、油分で皮膚をおおって水分の蒸発を防ぐものなど、いくつかのタイプがあります。剤形にもクリーム、ローション、軟膏、フォーム剤などがあり使用感が異なります。医師と一緒にあなたの好みや皮膚の状態に合ったものを選んでください。

保湿剤について

抗ヒスタミン薬の飲み薬
(補助療法)

皮膚をかくと皮膚が傷つき症状が悪化するため、かゆみ止めとして、塗り薬と一緒に使うことがあります。これらの飲み薬は、鼻炎、花粉症、じんましんなどにも使われています。

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