かゆみの正体と
かゆみ治療について
監修:生駒晃彦先生
(日本専門医機構認定 皮膚科専門医
マルホ株式会社シニアメディカルディレクター)

なぜこんなにかゆいの?どんな治療法があるの?
その我慢できないかゆみ、お医者さんに伝えてみませんか?

アトピーのかゆみの
正体とは?
かゆみと“搔破”の悪循環
アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が弱まっているため、外からの異物(刺激物質・アレルゲンなど)が皮膚の中まで入り込みやすくなっています。
皮膚の中まで侵入した異物は炎症をまねき、その結果、かゆみを引き起こします。かゆみのために皮膚をひっかくと、その部位の皮膚を傷つけて炎症をさらにまねいたり、バリア機能をさらに弱めたりすることによって、かゆみが強まるという悪循環に陥ります。
この悪循環は、アトピー性皮膚炎が長引き、悪化する原因となります。
かゆみと“搔破”の悪循環
「イッチ・スクラッチ・サイクル」

- 皮膚のバリア機能異常
- 皮膚をかくと、皮膚表面のバリア機能が低下して炎症を引き起こします。
- アレルギー炎症
- 炎症が起こると、かゆくなります。
- かゆみ
- かゆみは我慢しづらく、睡眠中でさえ、無意識にでもかいてしまいます。
ステロイド外用薬や免疫抑制外用薬は主に炎症を抑え、保湿剤は主に皮膚のバリア機能異常を防ぎ、悪循環の進行を防ぎます。
このため、外用薬や保湿剤はアトピー性皮膚炎の治療やスキンケアには欠かせません。

かゆみに対する不安
かゆみは睡眠不足や集中力の低下など、生活の質(QOL)に大きな影響を与え、また、かゆみに対する不安があると、通常よりもかゆみを感じやすくなることがわかっています。

かいてしまうのは
悪いこと?
かいた後、
自己嫌悪に陥ってしまう人へ
多くの患者さんはかゆみに悩まされているものの、皮膚をかくと症状が悪化することをお医者さんや親から言われているので、普段から「かいちゃダメ」と自分をいましめているのではないでしょうか。
ですが、かゆみが我慢できなくなると、ついついかきむしってしまいますよね。そして、かいた後の皮膚を見て、自己嫌悪に陥ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

アトピー性皮膚炎のような病的なかゆみはそうそう我慢できるものではありません。かゆいときにかいてしまうのは、ごく自然の、当たり前の反応です。何も悪いことはありません。自己嫌悪に陥ることはないのです。
逆に、「かいちゃダメだ」と自分をいましめて、日々、かゆみを我慢しているご自身をほめてあげて良いくらいです。
このように、かくことは決して悪いわけではないのですが、かいてしまうと悪循環に陥ってしまうので、お医者さんは患者さんに、「かかないようにしてください」と言わざるを得ないのです。
かゆみにはどう対処すれば良いのでしょうか?
この悪循環のどこかを断ち切ることができれば良いのです。
たとえば、保湿剤をぬって皮膚のバリア機能の低下を少しでも防止する「スキンケア」なら、毎日のことなので、大変な作業にはなってしまいますが、なんとかチャレンジできそうではないですか?
とはいえ1人でかゆみに立ち向かうのは大変です。今の治療やスキンケアで十分な効果が得られない、毎日かゆくてつらいという方は、遠慮なくお医者さんに相談してみてください。


かゆみの重症度を
測ってみよう
かゆみの重症度を知ることのメリットとは?
かゆみの度合い(重症度)は自分にしかわからないので、それをお医者さんに説明するのって難しいですよね。
そこで、そうしたかゆみの重症度を評価するために「NRS」「かゆみスコア」と呼ばれる指標を使うことがあります。
こうした指標を使ってかゆみの重症度を知ることにより、次のようなメリットがあります。
- 患者さんがご自身のかゆみの程度をお医者さんに伝えやすくなる
- お医者さんも患者さんのかゆみの重症度を把握しやすくなる
- 定期的に重症度を記録し、日々の経過を見ていくことで、かゆみが改善したか、悪化したかが把握しやすくなり、治療にいかすことができる
主な評価指標
NRS(かゆみの程度の評価指標)
NRSは、患者さん自身によるかゆみの程度を評価するための指標です。かゆみの度合いは患者さん自身にしかわからないので、かゆみの強さを説明する際にも役立ち、医師もかゆみの重症度を把握しやすくなります。直近24時間のかゆみの程度を、「かゆみなし」0、「想像されうる最悪のかゆみ」 10として、整数で表します。


かゆみスコア
過去24時間のかゆみの程度を、「なし:0」~「高度:4」の5段階で示すもの。


2002;56:692-697.より改変
白取らの基準を改変

アトピーのかゆみの薬・治し方
一般的に、アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬で炎症を抑え、保湿外用剤で皮膚のバリア機能の低下を防ぐという組み合わせが基本となり、補助療法として抗ヒスタミン薬が使用されていますが、中等症~重症の患者さんの中には、このような従来の薬では症状がなかなか改善しない方がいらっしゃいます。
そのような患者さんの新しい選択肢として、近年、これまでとは異なる作用機序をもつ新しいタイプの薬が続々と登場しています。
今まで受けている治療で十分な効果が得られない、毎日かゆくてつらいという患者さんは、お医者さんに相談してみましょう。
代表的な新たな治療薬
外用薬(塗り薬)・内服薬

- ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬・
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬 - アトピー性皮膚炎の病態に関わる物質(サイトカイン)の働きを抑制・阻害します。
注射剤

- 生物学的製剤
- アトピー性皮膚炎の病態に関わる物質(サイトカイン)の働きを抑制・阻害します。炎症を引き起こす物質であるIL-4/13を抑える薬剤があり、また、かゆみを誘発するIL-31※を抑える新たな選択肢も登場しています。
※IL-31のはたらき
神経に作用してかゆみを引き起こしたり、かゆみを引き起こす神経をのばしてかゆみ過敏状態にする(通常は感じない程度のかゆみをかゆいと感じる状態にする)。

かゆみ治療をはじめる方法
通院中の場合
かゆみは、患者さんご自身にしかわかりませんので、どれほどかゆいのか、どのように困っているかを、お医者さんに正しく伝えることが重要です。
「いつ」「どこで」「どれくらい」かゆいのかといったことを診察時に伝えられるようにしておきましょう。
初めて受診する場合
初対面のお医者さんには、ご自身のアトピー性皮膚炎にまつわる情報を効率よく伝えるとともに、かゆみについてどれほど困っていて、かゆみをどうしたいのかを伝えましょう。
かゆみの相談・記録ツール
かゆみ相談メモ

かゆみについて相談したいことを箇条書きにしたものです。
受診前に、かゆみの具体的な内容や程度、かゆみのためにどう困っているのか、かゆみをどうしたいのかについて、シンプルにまとめておくことができます。
受診時にこのメモをお医者さんに見せる、またはメモを見ながらお医者さんに相談することで、相談したいことを過不足なく伝えることができます。
Itch Tracker

Itch Trackerは睡眠中の掻き時間が計測できる世界初のiPhoneアプリです。
睡眠中、どれくらい掻いていたか教えてくれます。
かゆみ治療の相談Q&A
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Q
アトピー性皮膚炎のかゆみだけでお医者さんに相談しても良いものでしょうか?
Aかゆみはアトピー性皮膚炎の主な症状のひとつです。
主治医は、患者さんのいろいろな症状を見て、知って、アトピー性皮膚炎が良くなっているのか、悪くなっているかの判断材料にします。
こちらから見える部位の皮膚にかいた痕(あと)や、かきこわしの痕が残っている患者さんであれば、主治医も「かゆいんだな」とわかります。
ですが、通常は、かゆみは患者さんご自身にしかわからない「自覚症状」ですので、相談して良い悪いというよりも、相談していただきたいです。
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Q
どの程度のかゆみなら、お医者さんに相談しても良いものでしょうか?
A相談して良い悪いの線引きはありません。患者さんご自身がかゆみで困っているなら、相談していただくことに迷う必要はありません。
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Q
今まで診てもらってきたお医者さんに、突然かゆみについて相談しても大丈夫ですか?
Aなんの問題もありません。さきほども言いましたように、かゆみのつらさは患者さんご自身にしかわかりません。
かゆみで困っているのだということを相談してもらうことによって、かゆみ対策のスキンケアや生活へのアドバイスをしたり、治療の別の選択肢を提案したりできる可能性もあります。
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Q
かゆみを治療することは重要なのですか?
Aとても重要です。
かゆくて皮膚をかくと炎症をさらにまねいたり皮膚のバリア機能をさらに弱めたりして、かゆみが悪化し長引くことがわかっています。
この悪循環は放っておけば延々と続きますので、どこかで断ち切らなければなりません。かゆみを治療することは、この悪循環を止めることにつながります。

薬の塗り方&スキンケアNG集
「一生懸命、かゆみ対策をしているのに効果が出ない」とお悩みの方。もしかして、こんな“間違い”をしていませんか?
あらためて薬の塗り方や、スキンケアの方法を復習しましょう。