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がん性皮膚潰瘍マネジメントの現場から-施設インタビュー-:CASE1.聖路加国際病院(東京都中央区) 第2回:薬剤師の目線から


    各医療スタッフの専門性を持ち寄り
    相乗効果のあるがん性皮膚潰瘍ケアをめざす

    施設データ

    診療科・部門
    オンコロジーセンター、ブレストセンター、皮膚科など
    チーム体制
    医師(腫瘍内科医、乳腺外科医、皮膚科医など)、がん専門薬剤師、がん看護専門看護師、がん化学療法看護認定看護師、乳がん看護認定看護師
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    高山慎司氏

    高山 慎司 氏
    聖路加国際病院薬剤部 アシスタントマネジャー(オンコロジーセンター薬剤室)

    【略歴】
    聖路加国際病院薬剤部 がん化学療法専任薬剤師。現在は千葉大学で非常勤講師も務める。
    日本医療薬学会認定薬剤師、日本医療薬学会認定がん指導薬剤師、日本医療薬学会認定がん専門薬剤師、日本病院薬剤師会がん薬物療法認定薬剤師、日本薬剤師研修センター認定薬剤師、JADA公認スポーツファーマシスト。

    がん性皮膚潰瘍ケアの体制

    聖路加国際病院薬剤部のがん性皮膚潰瘍ケアの体制をご説明下さい。

    当院の薬剤部には50名の薬剤師が所属しており、専従、専任、兼任のかたちで、調剤室、注射調剤管理室・製剤室、注射調製室・周術期薬剤室、臨床薬剤室、医薬品情報室及びオンコロジーセンター薬剤室に配属されています。がん性皮膚潰瘍をはじめ、がんの患者さんのケアはオンコロジーセンター薬剤室の薬剤師が担当しており、入院中の患者さんには病棟薬剤師と連携しながら介入しています。

    オンコロジーセンター薬剤室の薬剤師の主な業務は、抗がん剤の調製と服薬指導の2つです。服薬指導は、外来での化学療法中や薬剤師外来で行っています。薬剤師外来は、薬物治療の開始・変更・追加時など薬剤師介入の必要性が高い患者さんをピックアップし、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、外来がん治療認定薬剤師の資格を有した薬剤師5~6名が交代しながら毎日実施しています。

    がん性皮膚潰瘍ケアの実際と工夫

    オンコロジーセンターの薬剤師はがん性皮膚潰瘍ケアにどのように関わられていますか。

    当院の薬剤師は、外科や緩和ケア科の医師や看護師らとのチーム医療を実践する中で、1995年頃からがん性皮膚潰瘍の臭いに対して院内製剤である2種類のメトロニダゾール外用薬(親水軟膏を基剤としたメトロニダゾール親水軟膏、カーボポールを基剤としたメトロニダゾールゲル)を調製するなど、がん性皮膚潰瘍ケアに携わっていました。しかし、院内製剤は製剤の材料費が病院の持ち出しになること、調製に手間と時間がかかるため薬剤師の負担が大きいこと、適応外使用であることなどの問題があります。また、院内製剤を調製できる施設は全国で約30%との報告1)もあり、患者さんの間に治療格差、不平等性が生じていました。こうしたことから種々の変遷を経て、2015年5月に『がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減』に対する適応症でメトロニダゾールゲル(ロゼックスゲル)が発売されました(図1)。以後、当院では、がん性皮膚潰瘍の臭いに対して院内製剤の使用を中止し、ロゼックスゲルを用いています。薬剤師のがん性皮膚潰瘍ケア、とくに臭いに対する関わりは、院内製剤の調製から、ロゼックスゲルの適応患者さんの拾い上げやその服薬指導へとシフトしました。

    1. 渡部一宏ほか:日病薬師会誌, 43:371-373, 2007
    図1:メトロニダゾールゲル製品化までの変遷
    記事/インライン画像
    図1:	メトロニダゾールゲル製品化までの変遷

    渡部一宏:昭和薬科大学紀要, 50:15-19, 2016

    ロゼックスゲルを使用したほうがよいと考えられるがん性皮膚潰瘍の臭いがある患者さんはどのように拾い上げられているのですか。

    10年以上前の院内製剤時代の話になりますが、がん性皮膚潰瘍の臭いがかなり強く、勤務先でも臭いのことで接客部門から裏方部門へ配置換えとなり、ひどく落ち込まれている患者さんがいました。その患者さんにメトロニダゾールゲルを使用したところ、臭いが改善し笑顔を取り戻されたことがありました。がんの患者さんはがんであることで落ち込まれているのに、臭いという症状がでてくると、「周りの人に迷惑をかけている」「周りの人を不快にしている」と罪悪感にかられていることもあります。こうした経験から、臭いへの治療提案は非常に重要だと考えるようになりました。

    しかし、臭いは、患者さん本人が慣れてしまっていることや、周りの人が気づいていても患者さんに伝えられないことがあるなど、患者さん側からの訴えとしてあがりにくい問題です。そのため、臭いに関しては、医療スタッフ側から積極的に治療提案していくことが重要になります。オンコロジーセンターの薬剤師はその一翼を担っていることを念頭におき、患者さんが「臭い」について話された場合には、医師や看護師と情報共有し、チームとして患者さんが一歩前進するきっかけを掴めるように心がけています。

    具体的にがん性皮膚潰瘍の臭いのある患者さんをどう拾い上げるかですが、あからさまに「臭いですよ」とは絶対に言えません。患者さんが何かを話すまで待ち、何かを話せば共感を示しながら傾聴することを基本スタンスとして、私の場合は、例えば「普段、生活していて何か気になることはありますか」「お食事は今までどおり美味しく感じますか」などから聞いていき、その中で「味が変だ」「臭いがおかしい」といったことや、あるいは滲出液の量から聞き始め、「滲出液に色がついていますか」「滲出液に臭いはないですか」といったことから、遠回しに1歩ずつ臭いの話に近づけていくようにしています。そうすると、最終的に患者さんから「最近、臭いのよ」と医療スタッフが欲しい答えを引き出すことができるように思います。こうなれば、次のステップとして、「臭いの原因は嫌気性菌なので、抗菌薬が入った塗り薬を使えば、嫌気性菌がいなくなって、臭いも改善してきます」といった説明をします。それで、患者さんに薬を使いたいという意思があれば、薬剤師から直接、あるいは看護師を介して医師にその旨を伝えています。

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    インタビューに応じる高山慎司氏

    ロゼックスゲルの服薬指導のポイントを教えて下さい。

    薬についての説明として、薬剤師にとって重要になるのは副作用です。とくに潰瘍が大きく、ロゼックスゲルを広範囲に塗布する必要のある患者さんには、皮膚吸収がゼロではないことを考慮して、副作用の発現に注意が必要であることを伝えています。それと同時に、薬の効果を必ず説明します。患者さんが一番知りたいことは「どれくらいの期間でどの程度の効果がでるのか」です。なぜなら、男女問わず、+αで自分自身もしくはご家族で行わなければならない皮膚ケアはやはり手間がかかるため、効果が期待できなければ適当になることがあるからです。ロゼックスゲルは国内第Ⅲ相試験において、治験責任(分担)医師による2週間又は試験中止時の臭いの改善率(治験責任(分担)医師によって『においがない』又は『においはあるが不快ではない』と評価された割合)は95.2%(20/21例、90%信頼区間:79.3%~99.8%、正確法)であり、患者さんによる2週間後の評価でも80%の患者さんが『においがない』と評価した結果2)を踏まえ、化学療法のために1週間ごとに受診している患者さんならば、例えば「〇〇さんは几帳面だから、皮膚ケアは絶対にできますよね」といったリップサービスを含めて、「来週来られる時には効果がでていて、再来週来られる時にはかなり臭いが改善しています」と前向きになる言葉がけを心がけています。

    ロゼックスゲルの使い方について、薬剤師も患者さんに製薬企業のパンフレットを用いて説明したり、どのように使われているのかを確認したりしますが、実際の手技(ケア)の詳細な説明や指導はそのプロである看護師が担当しています。薬剤師の使い方に関する服薬指導で大きなポイントとなるのは、「使い方を間違えないようにするために、起こり得ることへの注意喚起」と「使用量が適切かどうか」です。前者に関しては、ロゼックスゲルは過剰に水分を吸い上げるところがあるので、患部を覆っているガーゼを剥がす時に乾燥していると皮膚が荒れたり、出血したりするため、ガーゼ等を交換するときにはしっかり湿らせてからゆっくり剥がすようにといった説明を行っています。

    使用量については、少なすぎると十分な効果が得られず、多すぎると副作用の心配がでてきます。そこで、薬剤師は自分自身で確認したり、看護師から情報を得たりして、潰瘍の大きさや滲出液の量などを把握し、潰瘍が大きいあるいは滲出液の量が多くてドレッシング材を頻回に交換する必要がある場合などは1日1本使用する必要があるなど、次回の診察までに必要となる量をおおよそ算出し、医師が処方する際に役立てていただいています。また、患者さんは薬が足りなくなることを恐れて、少なめに使う傾向があります。患者さんには必ず1回使用量と次回の診察までに必要な量の目安を示し、「薬が足りなくなるという心配はしないで、しっかり使って下さい」とアドバイスしています。その上で、次回の診察時には残薬を確認し、過不足があれば適切な使用量をあらためて説明するようにしています。

    1. ロゼックスゲル承認時評価資料:Watanabe K. et al.: Support Care Cancer., 24, 2583, 2016

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