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第1回:皮膚科医の私がALSを発症してから(前編 私は難病ALSを発症して8年になる42歳の皮膚科医です)

(2024年3月4日掲載)

いきなりこんなタイトルを見ても、とまどう方が多いでしょう。まずは、私が“何者なのか”、そして今回このコラムを連載することになった経緯をご説明したいと思います。

私は2008年に北里大学医学部を卒業後、2010年に北里大学病院皮膚科に入局しました。そして横浜労災病院 皮膚科に出向し、昭和大学藤が丘病院 形成外科にて皮膚外科研修を終えた後、北里大学病院に戻って臨床医として働きながら「毛包幹細胞」について研究していました。研究のためにUniversity of California, San Diego(UCSD)に留学したのは2015年のことです。同年、皮膚科専門医を取得しました。

他の医師たちの経歴と決定的に違うことは、UCSDに留学していた34歳のときに、難病ALSを発症したということです。

その後帰国し、在宅で皮膚科の遠隔診療をしながら、「ALSになっても前向きに、自分らしく生きていくことができる!」をテーマに、少しでも同じALS患者さんのお役に立ちたいという気持ちでコラム『enjoy ALS』をwebで連載していました(皆さまもぜひ読んでみてください!)。
そのときに、北里大学病院の皮膚科を担当されていたマルホ株式会社のMR(medical representatives)さんが、私が病気のため大学病院を退職した後も私のことを覚えていてくださり、この『enjoy ALS』を読んで連絡をくださったことが、今回このコラムを連載することになったきっかけです。

本コラムでは、難病ALSを抱えながら今でも皮膚科医として診療を続けている、私の経験談を混えながら、「私なりのハンデの乗り越え方」をお伝えしていきたいと思っています。

ところで、ALSという病気のことを詳しく知らない方がほとんどではないでしょうか。私もALSを発症したときはALSがどんな病気かよく知りませんでした。
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は、筋肉を動かす運動神経が選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。
初期症状は上肢に現れることが比較的多いです(40%)が、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になったりしていきます。
口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。一方で、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。意識ははっきりしており、精神的なはたらきは障害されないことも大きな特徴です。

日本における患者数は1万人弱にのぼると報告されており、10万人あたり7~11人程度の有病率であるといわれています。好発年齢は50~70歳くらいですが、稀に若い年代で発症することもあります。私のように30代前半で発症するのは全体のわずか10%程度です。発症する原因はわかっておらず、治療方法もありません。
人工呼吸器を付けなかった場合、平均余命は2〜5年と言われています。しかしながら、この過酷な病気と共に生きていく人は少なく、日本では気管切開して人工呼吸器を付ける人は20~30%程度に過ぎません。欧米では数%~10%強であるので、これでも日本は世界から見たら飛びぬけて気管切開して人工呼吸器を付ける人が多い国と捉えられています(荻野美恵子.“日本におけるALS終末期”.臨床神経学.48,2008,973-5.より)。

そんな難病中の難病と言われているALSですが、映画やドラマでもたびたび取り上げられています。2014年には「アイス・バケツ・チャレンジ」というALSの研究を支援する運動がアメリカから始まり、日本も含め世界各国に広がりました。なので、どんな病気なのかは何となく知っている人も多く、治療法もない、つらくて残酷な病気というイメージが浸透しています。
確かにそのような一面もあるのは事実です。ただ、それがすべてなのか?というとそんなことはありません。ALSは運動神経が選択的に障害される病気のため、体は動かせなくなっていきますが、思考力は衰えません。人間の原動力は考える力です。考える力さえ残っていれば、人間は無限に活動的になれるのです!

今の私は、自分の力では呼吸することができないため、人工呼吸器を装着しています。また、体はまったく動かすことができず、声も出せません。目と口がわずかに動かせる程度です。
しかし、それだけ動かせれば、できることは山ほどあります。
歯のわずかな動きでiPadを操作して、今でも皮膚科医として月100~300人の患者さんを遠隔診療(次回以降に説明します)しています。それとは別に、東京の練馬と中野で訪問診療を行う「さくらクリニック」の非常勤医師として、私のように在宅療養を必要としている方たちの皮膚科診療もしています。
他にも、パソコンを使って、目の動きだけでPowerPointを操作してスライドを作り、看護大学や介護福祉士専門学校で、外部講師として「ALSとはどんな病気で、どのように在宅での生活をおくっているのか」などの講義も行っています。

簡単ですが、第一回前半は、私の自己紹介をさせていただきました。後半は、アメリカでALSを発症してから在宅療養を行うまでの過程を書きたいと思っております。


ちなみに、この文章もすべて歯で書いています。

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