治療のゴールとは、疾患の治療を行うことによって達成したいこと、つまり「この問題を解決したい」「こんな状態になりたい」という目標のことです。 疾患が同じであっても、目指すゴールは患者さんによってそれぞれです。患者さんと医療者が具体的なゴールを描いて共有することは、治療に前向きに取り組むために、そして満足できる結果を得るために大切なことです。本記事では、巻き爪治療を行う上でのゴール設定について、治療の目的や基本的な治療方針を踏まえながら解説します。

監修：ひかり在宅クリニック 皮膚科 今井亜希子 先生

巻き爪治療の「目的」は？

◇痛みを取り除くため

巻き爪の患者さんが治療を希望される原因のほとんどは「痛み」です。治療の第１の目的は、現在生じている痛みをなくすことです。炎症に対する薬の内服や外用、爪の変形に対する矯正治療によって、この痛みは多くの場合、速やかに緩和されます。 患者さんの中には、痛くなくなればもう治療を終えてもよいのでは…とおっしゃる方もいます。しかし、治療が不十分な状態で中断してしまうと、早期に再発する可能性が高くなるので良くありません。痛みがない状態を長く保つために必要な治療期間には個人差があるため、担当医師と相談しながら進めましょう。

◇爪の形を良くするため

巻き爪の変形のために「自分で爪が切れなくて困る」「見た目が気になる」ということも多くの患者さんが解決したい問題です。爪の形を正常に近づけることも、治療のもう１つの目的です。爪の形の改善には矯正治療が有効です。巻き爪の形にはさまざまなタイプがあり、その程度にも個人差があります。（例：「ホチキスの針のような形」「つの字のような形」「くるりと輪のようになった形」）変形のタイプや程度によって、医師の判断でより適切な方法を選択することもありますし、複数の方法を組み合わせて行うこともあります。爪のわん曲は矯正治療が終了した後、数か月から数年経つと再発してくることがあります。その場合には矯正治療を繰り返し行うことができます。

巻き爪は「治る」のでしょうか？

みなさんが思い描く『理想的な巻き爪治療』は、「１度治療を行えば痛みはなくなり、爪の形が正常に戻り、その後もずっと再発しないこと」でしょうか？しかし、これをゴールとして設定することは現実的ではありません。治療には、ある程度の通院回数と期間がかかります。またその効果にも限界があり、症状の再発を確実に防ぐ方法はないというのが現状です。巻き爪の発症には、足の変形・歩き方・靴などのさまざまな要素が複合的に影響しているので、すべての問題を根本的に解決することは難しいためです。

では、巻き爪は「治らない」のでしょうか？そんなことはありません。

巻き爪の治療方針

「治療で痛みをなくし・正常な形に近づける　→　ケアで再発を抑える」

先にお話したように、巻き爪による痛み・変形は、ともに治療によって改善することができます。しかし治療後に時間が経過するにつれて、再発することが多い状態であると言えます。したがって巻き爪の治療方針には、まず速やかに痛みを取り除き、爪の形を正常な状態に近づけること、さらにその状態を維持するためのセルフケアを行うことが欠かせません。足の洗浄、正しい爪切り、保湿など、自宅でできるケアを続けることで、巻き爪による痛みや炎症を繰り返しにくくすることができます。また、足に合った靴を履くことや、適度な運動を行うことも有効といえます。

（参考）足をトラブルから守るためのセルフケア

巻き爪の進行を防ぐ生活習慣　靴の選び方と履き方・歩き方 

巻き爪に対する治療法の選び方

ひと昔前まで、巻き爪は「治らないもの」として扱われていました。1990年頃から巻き爪矯正治療が開発され、爪の変形そのものに対する治療ができるようになってきました。その後、さまざまなタイプの矯正器具が開発され、それぞれ効果の早さ、適する巻き爪の形、治療費などが異なり、患者さんの病態やライフスタイルに応じたものが選択できるようになっています。

（参考）巻き爪治療の主流となる矯正治療

治療のゴールは人それぞれ…具体的な目標を設定しましょう

治療によって目指すゴールは、年齢や運動量、ライフスタイルなどによって人それぞれです。自分に合った具体的な目標を設定しましょう。

〇ゴール設定の悪い例

〇ゴール設定の良い例

巻き爪の治療ゴール・まとめ

巻き爪治療が目指す一般的なゴールは、「①痛みがなく、かつ、②爪の形が正常に近い状態に保たれていること」で巻き爪の症状や悩みから自由になることと考えています。これを患者さんのライフスタイルに合わせて具体的なゴールに落とし込みましょう。長期的なゴール達成のためには、ご自分に合ったペースで適切な巻き爪治療を行うことに加えて、正しい足のケア・靴の選び方などを生活習慣として続けることで、できるだけ良い状態を長く維持していくことをおすすめします。

＊本ページをご覧になって、矯正治療をご検討されたい方は、ぜひこちらの記事もお読みください。

（参考）巻き爪の矯正治療を検討されている方へ