ぬり薬の蘊蓄 第3章 皮膚の状態と経皮吸収について:年齢による違い
小児における経皮吸収
成人と比較して、小児の角質細胞は小さくて角質層の厚さも薄いなどの理由から、主薬の経皮吸収は一般的に小児では成人よりも高いと考えられます。アトピー性皮膚炎診療ガイドライン202122)では、小児へのステロイド外用剤の適用について、「年齢によってランクを下げる必要はないが、短期間で効果が表れやすいので使用期間に注意する」とされています。
高齢者における経皮吸収
一般的に、主薬の経皮吸収は高齢者では低くなる傾向があります。図3に各種薬物を若年(22~44歳)と高齢(65~86歳)の健康人の皮膚に適用したときの累積経皮吸収率を示します23)。
テストステロンやエストラジオールの累積経皮吸収率には若年者と高齢者で大きな差はありませんが、ヒドロコルチゾン、安息香酸、アセチルサリチル酸、カフェインでは高齢者で減少する傾向が見られました。この原因の一つとして、加齢にともない皮膚表面の皮脂量や角層水分量が低下することが挙げられます。各薬物のLogP(表1)と照らし合わせると、脂溶性が低い(LogPが低い)薬物で累積経皮吸収率が減少する傾向があり、角層水分量の減少が影響するものと考えられます。その他、加齢にともなって角質層の厚さは変化せず24)、角質細胞が大きくなる25)26)という報告もあり、主薬の主な経皮吸収経路である細胞間隙が狭くなるために、高齢者では経皮吸収が低下する可能性もあります。

表1:各薬物のLogP
薬物(LogP) | ||
---|---|---|
テストステロン(3.32) | エストラジオール(4.01) | ヒドロコルチゾン(1.61) |
安息香酸(1.87) | アセチルサリチル酸(1.19) | カフェイン(-0.07) |
なお、全ての薬物で高齢者の方が低い経皮吸収を示すわけではありません。例えば、非ステロイド系消炎鎮痛剤であるジクロフェナクナトリウム軟膏において、高齢者のAUCが成人の約5倍であるなどの薬物動態パラメータの変動が示されています(表2)27)。
表2:ジクロフェナクナトリウム軟膏塗布後の薬物動態(出典27 一部改変)
投与量 | 被験者 (被験者数) |
t1/2 AUC 算出 例数* |
薬物動態パラメータ | |||
---|---|---|---|---|---|---|
製剤(有効成分) | Cmax (ng/mL) |
Tmax (hr) |
t1/2 (hr) |
AUC0-∞ (ng・hr/mL) |
||
2.5g(25mg) | 成人(10) | 4 | 1.3±1.1 | 9.2±2.9 | 4.8±3.0 | 13.7±10.2 |
5g(50mg) | 成人(7) | 3 | 1.6±0.9 | 12.6±2.5 | 6.6±1.6 | 24.1±10.6 |
7.5g(75mg) | 成人(7) | 4 | 1.1±0.6 | 14.6±6.2 | 8.5±5.8 | 20.0±6.6 |
7.5g(75mg) | 高齢者(7) | 4 | 2.4±1.5 | 22.6±7.4 | 39.0±24.8 | 108.1±58.2 |
mean ± S.D.
*:血漿中濃度対数値-時間曲線の消失相の直線部分より、消失速度定数Kelを求めることができ、t1/2およびAUC0-∞が算出可能であった例数。
その他の注意点
経皮吸収以外に注意すべき年齢による違いとして、小児は成人と比較して代謝能が異なること、体表面積に対する体重の割合(体重/体表面積)が小さいことなどがあります。加えて、小児では成人と比較して循環血液量が少ないため、例えば、片腕全体(小児、成人とも体表面積の約10%)に同じように外用剤を塗布しても、血液(血漿)中の主薬濃度が高くなることが考えられます。
高齢者で注意すべき点は、代謝能や排泄能が低下している可能性が高いことです。例えば、活性型ビタミンD3外用剤は主に腎臓から体外に排泄されますが、腎機能が低下すると容易に体内から排泄されず、高カルシウム血症などの副作用の発現につながります。
外用剤の服薬指導を行う上で、年齢による経皮吸収の違いに加え、適用面積に対する体の大きさや体内に移行した後の薬物動態が重要です。このような点に留意することが副作用の軽減につながります。