ぬり薬の蘊蓄 第2章 主薬の特性と経皮吸収について:経皮吸収の促進方法について
経皮吸収の促進方法には「化学的アプローチ」と「物理的アプローチ」があります。
化学的アプローチは、エタノール、プロピレングリコール、メントールなどの化合物を添加剤*として用いる方法です。これらの化合物には主薬の経皮吸収を促進する効果があり、経皮吸収の面ではメリットとして働きますが、デメリットとして皮膚刺激性が高いことも知られており、添加剤として用いる場合は、そのメリットとデメリットの兼ね合いを考慮することが重要です。プロピレングリコールはステロイド外用剤の可溶化剤としても使用されています。
物理的アプローチは、何らかの力を外部から与えることにより経皮吸収を促進させる方法です。次に、その代表的な方法を示します。
*:医薬品添加物事典2021(日本医薬品添加剤協会編集)では直腸膣尿道適用剤としてカプリン酸ナトリウムのみが「吸収促進剤」として記載されており、外用剤には吸収促進剤としての添加剤は記載されていません。
閉鎖密封法(ODT*)
高温多湿の日本では1~2日、場合によっては半日、外用剤の塗布部位をラップなどで覆うことで皮膚からの水分蒸発を防ぎ、角質層を水和させ(ふやけさせ)ます。これを閉鎖密封法(ODT)と呼びます。水和により角層細胞が膨潤するとともに、角質細胞間脂質に挟まれている水が増えることで、角層バリア機能を低下させ、主薬の経皮吸収を促進させます。ODTにより、通常は5~15%の角層水分量が約50%にまで増加することも報告されています14)15)。また、塗布部位を覆うため、その温熱効果(皮膚表面温度が32℃から37℃に上昇したという報告がある16))により血流が増加することからも、経皮吸収が促進されます。
ステロイド外用剤をはじめとして、多くの薬物の経皮吸収がODTにより促進されますが、全ての薬物ではありません。
*:Occlusive Dressing Techniqueの略語
イオントフォレーシス
皮膚に微弱な電気(数ボルト)を流すことで、主薬の経皮吸収を促進させる方法です。その原理として、皮膚に電気を流すと電圧差や電気浸透流(溶媒流とも呼ばれ、陽極から皮膚の内側へ向かう水の流れのこと)が生じることを利用しています。主薬が陰イオンとなる酸性物質の場合は陰極側のリザーバーに入れ、中性物質や陽イオンとなる塩基性物質の場合は陽極側に入れます(図8)。
イオントフォレーシスを利用した装置は既に製品化されており、局所麻酔薬などの経皮吸収の促進に利用されています。
なお、高電圧の電気を流すと不可逆的に角質層に小孔が生じることを利用して経皮吸収を促進させる方法を、エレクトロポレーション(電気穿孔法)といいます。

フォノフォレーシス
皮膚に1~3MHzの超音波を負荷することで主薬の経皮吸収を促進させる方法です。この周波数の超音波はマッサージにも用いられています。フォノフォレーシスの原理は正確には分かっていませんが、超音波により生じるキャビテーション(微細な泡)が主に関与しているとされ、その他に皮膚温度の上昇や角質細胞間脂質への干渉などが考えられています。この方法の欠点として、主薬を効率的に経皮吸収させるための超音波の条件設定が難しいことが挙げられます。
その他(無針注射法、マイクロニードル法)
無針注射法は、液体や粉末の薬剤に空気圧を負荷することで強引に角質層を通過させる方法です。この方法は注射針を用いないために、感染などのリスクが少ないことがメリットの1つです。高分子のワクチンを皮膚内に注入するために、無針注射法を利用したデバイスや、より痛みを軽減できるデバイスの開発も進んでいます。
マイクロニードル法は、角質層(10~20μm)のみを通過する針を有する剣山のようなものを皮膚に適用することで、神経に到達させず(痛みを感じさせず)に角質層に穴を開け、バリア機能を低下させる方法です。
これらの経皮吸収の促進方法のうち、閉鎖密封法は臨床でよく用いられている方法であり、イオントフォレーシスやフォノフォレーシスは美白やシワ取りなどの美容目的でも用いられています。
まとめ
外用剤が薬効を発揮するためには、主薬が経皮吸収され標的となる部位に到達する必要があります。
その経皮吸収過程では皮膚バリア機能や代謝などの影響を受けます。これらの影響は主薬によって異なりますので、主薬がどのような影響を受けるのかを理解していただき、服薬指導にお役立て頂ければと思います。
主薬の経皮吸収に影響を与える因子として「生体側の因子」と「製剤側の因子」があり、ここまで「製剤側の因子」を中心に説明しました。第3章では、「生体側の因子」を中心に説明します。