ぬり薬の蘊蓄 第2章 主薬の特性と経皮吸収について:皮膚における代謝について
代謝されると失活(活性が低下する場合も含む)する薬物を「アンテドラッグ」といい、逆に代謝されることで活性化(活性が高まる場合も含む)する薬物を「プロドラッグ」といいます(表2)。
表2:皮膚外用剤のアンテドラッグとプロドラッグ
アンテドラッグ | 局所作用型 | ステロイド外用剤の一部や 活性型ビタミンD3外用剤など |
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン |
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プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル | |||
ジフルプレドナート | |||
マキサカルシトール | |||
全身作用型 | 存在しない | ||
プロドラッグ | 局所作用型 | ロキソプロフェンナトリウム水和物 | |
全身作用型 | 本邦には存在しない |
局所作用型の「アンテドラッグ」は、全身性の副作用を軽減することを主な目的としています。例えば、活性型ビタミンD3は全身に多量に存在すると高カルシウム血症や急性腎不全などの副作用を発現する場合があります。このような副作用を軽減させるため、活性型ビタミンD3外用剤では主薬を皮膚で代謝させること(図7)で、できるだけ活性型の主薬が全身に移行しないように工夫されています。

局所作用型の「プロドラッグ」であるロキソプロフェンナトリウム水和物は皮膚及び直下の筋肉中に局在するカルボニル還元酵素によりtrans-OH体(活性代謝物)に代謝13)され活性化し、薬効を発揮します。
皮膚で代謝され失活する「アンテドラッグ」は全身に移行してもほとんど効果を示さないため、全身作用型の外用剤には用いられません。全身作用型の「プロドラッグ」は局所では効果(副作用)を発現せず全身での効果が期待できる理想の薬物ですが、本邦の外用剤には用いられていないのが現状です。 外用剤の中には、経口剤などに用いられていた主薬を使用しているものが少なくありません。経口剤などに用いられている主薬を外用剤化(特に経皮吸収型製剤)するメリットには、主に以下の7つがあります。
- ① 消化管や肝臓でのファーストパスエフェクト(初回通過効果)を受けにくい
- ② 食事の影響を受けない
- ③ 安定した血中濃度推移により、安定した効果が期待できる
- ④ 最高血中濃度(Cmax)を抑えることにより、副作用の軽減が期待できる
- ⑤ 貼ったことを確認できるため、誤投与が防げる
- ⑥ 作用部位が局所の場合には効率よく主薬を到達できる
- ⑦ 製剤を容易に適用・除去でき、効果(吸収)のオン・オフが簡便である
このように外用剤化にはメリットが多いですが、単純に皮膚に適用しただけでは皮膚バリア機能により効果発現に必要な量が経皮吸収されない場合も多々あります。そのような場合には主薬の経皮吸収を促進させる必要があります。