Case6 当院の巻き爪治療計画―同意取得から矯正具を取り外すタイミングまで―


<お話を聞いた人>
済生会宇都宮病院 皮膚科 外山雄一先生
IT業界で約12年間働いた後、医師の道へ。とちぎメディカルセンターしもつがで研修医を務め、自治医科大学の皮膚科に入局し、現在に至る。一般企業で働いた経験も活かしつつ、患者さんの目線に立った治療を実践。患者さんが症状を忘れるくらいの“普通の日常生活”を送れるようになることを目指して日々の診療に取り組んでいる。
(解説) Case.4では、巻き爪の治療経過がどのように進んでいくのかがわかるように「治療ロードマップ」を共有することの重要性について触れました。これを最初に患者さんに説明し、治療の同意が得られたら、具体的に今後の治療計画を立てていきます。治療開始から矯正具を取り外して元の日常生活に戻れるまで、私は患者さんと伴走する気持ちで診療にあたっています。今回は、当院の診療の流れや再診の際にお声がけしていること、矯正具を取り外すタイミングなどについてご紹介します。
治療ロードマップから具体的なスケジュールに落とし込む
- 当院では基本的に初回の受診で巻き爪の治療は行っておらず、治療は別日に完全予約制で実施しています。予約制にすることで、ひとりの患者さんにしっかり時間を充てられますので、落ち着いて処置ができますし、説明も丁寧に行うことが可能です。外来の中で行うと、待たれている患者さんのことが頭によぎって焦ってしまうので、私にはこのスタイルが合っていると思います。
- 当院の巻き爪診療の全体の流れとして、初回の受診で治療の同意を得たあと治療日を決定し(①、②)、治療から1週間後に再度受診いただくようにしています(③)。そして、治療日から1~3ヵ月後に受診していただき、効果を測定しつつ矯正具を外して良いか否かを判断するようにしています(④)。
<当院の巻き爪診療の流れ>

- 当院の巻き爪矯正治療は、下記の価格で設定しています。レーザー治療なども同じですが、自由診療の価格は周辺地域の相場をふまえ、当院医事課と相談のうえ最終的な価格を決定しています。
初診料 | 5,500円 |
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再診料 | 2,200円 |
巻き爪マイスター(1趾) | 8,800円 |
リネイルゲル(1包) | 5,000円 |
メンテナンス料 (1回受診につき) |
1,200円 |
- 費用の請求パターンは下記の通り様々です。
- (A)巻き爪が主訴で紹介状なしの初診の場合は、初回の受診時(①)に、自由診療の初診料である5,500円を請求します。その後、治療実施日(②)に、再診料の2,200円+巻き爪マイスター8,800円+リネイルゲル5,000円を請求します。このパターンが典型例ですが、もし初診時に当日午後の治療枠が空いている場合は、そのまま治療に移るため、初診料5,500円+巻き爪マイスター8,800円+リネイルゲル5,000円を請求します。
- (B)巻き爪に関して紹介状をお持ちの場合、初回の受診(①)では保険診療としていったん精算いただき、予約した治療日(②)に自由診療の初診料5,500円+巻き爪マイスター8,800円+リネイルゲル5,000円を請求します。
- (C)もともと保険診療で巻き爪以外の治療をしている患者さんが巻き爪の治療を受けたいと希望された場合は、予約をとった治療日に自由診療の初診料5,500円+巻き爪マイスター8,800円+リネイルゲル5,000円を請求します。
矯正具は、治療から1週間は連続装着できていることが重要
- ①の初回の受診時に、巻き爪マイスターとリネイルゲルの作用についてある程度説明を済ませているので、受診いただいたらすぐに治療に移ります。現在は私が処置を行っていますが、ゆくゆくは看護師さんにお任せしようと考えています。
- 処置が終わったら、次回は約1週間後に来院していただき、経過を確認するようにしています。これは、リネイルゲルを塗布してから最初の1週間は、矯正具が爪にしっかり装着されていることが非常に重要になってくるからです。リネイルゲルの第Ⅲ相試験では、巻き爪が改善した方(※遠位爪幅狭小化率が70%を達成した方)は、塗布から7日後に巻き爪マイスターを取り外しており、リネイルゲルの作用によって軟化した爪が再硬化するまでに約5日を要するためです。よって、最低期間として7日間は装着を継続いただくべく、受診いただいて矯正具の装着性に問題がないかを確認するようにしています。このように、治療日とその1週間後はコンスタントに来院いただくことになりますので、できるだけ患者さんのスケジュールに余裕があるときに治療いただくようにしています。装着性のほかにも、爪の開き具合はどうか、途中で痛みが生じることはなかったか、気になることや疑問点はないかなど、積極的にコミュニケーションをとるようにしています。

マルホ㈱社内資料:ヒトの爪試料を用いた爪軟化作用試験
矯正具を外すタイミングは、患者さんのQOLとのバランスを考慮し決定する
- 私は、爪の彎曲が改善し、かつ、痛みも消失していれば、矯正具を取り外すひとつのタイミングであると考えています。当院では、治療から約1~3ヵ月後を外す目安としておりますが、一部の患者さんで、症状が改善していても「矯正具を外したくないです」と仰る方がいます。そんなときは、矯正治療の“目的”を思い出していただくようにしています。
- 巻き爪マイスターの場合、構造上、長期間装着していたからといって、爪が反り返るといったような過矯正のリスクは少ないと考えておりますが、矯正具が爪に長期間装着されていることで、足元に違和感があったり、外れないように気を遣ったりするなど、様々なストレスを与える可能性もあると思います。患者さんの好みや性格もありますので、強制的に取り外すことはしないですが、「装着し続けることが目的にならないようにしましょう」とお話しするようにもしています。
(最後に) 巻き爪は1回の治療で完治というわけではないため、治療と平行して再発しないようにセルフケアを日頃から実践いただいたり、靴選びや履き方、歩き方といった生活習慣を見直していただいたりすることも大切です。これらをしっかり継続していただけるよう、再診の際は「ケア、がんばっていますね」と前向きになれるような声をかけてモチベーションを上げるなど、少しでもはやく良い状態にまでもっていけるように、医療者が積極的にサポートしていくことが求められると考えます。