Case2 巻き爪矯正治療の費用対効果について
―患者さんの納得感を高めるために―


<お話を聞いた人>
ことぶき皮ふ科クリニック 院長 壽順久先生
大阪大学を中心に約20年、皮膚科医として研鑽を積む。その間、都立墨東病院への国内留学を経て、2年間アメリカ国立衛生研究所(NIH)へ。帰国後は大阪大学に戻り、病棟医長・診療局長を歴任し、後進の育成にあたる。2022年より、「ことぶき皮ふ科クリニック」を開院。「皮膚で起こるトラブルは皮膚科医の力で治す」との信念のもと、患者さん一人ひとりに寄り添った治療を心がけている。
(解説) 患者さんの爪の状態は千差万別であることから、まずは症状を理解して矯正治療が適する爪かどうかを見極めることが重要です。一方で、費用面は患者さんが抵抗を示す最も大きな要因となりますので、スムーズにご納得いただくためにも、まずは我々医療者が各矯正具の特徴をしっかりとおさえ、コスト面も鑑みた期待効果をしっかり伝えることが大切です。今回は、患者さんの納得と安心を得るための費用対効果の説明における工夫についてご紹介します。
患者さんの足と爪を診て、触って、症状の原因を探求する
- はじめに、私が巻き爪を診察する時は、まず診察イスから降りて患者さんの爪を10cmくらいの距離で見ます。このとき、爪側縁部の巻き込み具合や爪の厚さ、長さを確認し、矯正治療が適するのかどうか、また、当院で採用している矯正具ではどれが適しているのか観察します。次に、実際に足に触れて皮膚に異常がないかを確認します。もし皮膚が硬くなっている箇所があれば、靴が合っていない可能性も考慮し、靴の履き方や選び方といった生活指導を加えることもあります。医師として、診療に大切なのは自分自身の目で見て判断する“診断力”であると考えていますので、足や爪の形をこまかく確認し、適切な処置をイメージするようにしています。
矯正治療のメリットと費用を具体的に提示する
- 患者さんは矯正治療にかかる費用に意識が行きがちですが、費用に見合ったメリットがあることと併せてお伝えし、適切に判断いただく必要があります。例えば、矯正治療によって再発の頻度が減少すること、指にかかる荷重を支えるという爪本来の役割を取り戻すことができるといった矯正治療自体のメリットに加え、巻き爪マイスターであれば、爪が伸びても本体をスライドさせて継続使用が出来ること、治療途中で製品が外れてしまっても本体に異常が無ければ再装着できるメリットがあります。一方で、半年くらい経つと本体の劣化で新しい物に交換する必要があったり、パンプスなどつま先が尖った靴を履く機会が多い方は隣の指に当たって痛いと仰るケースもあったりしますので、注意点と併せて説明します。
患者さんの爪に応じた最適な矯正具を選択する
- 様々な巻き爪のタイプに対応するべく、当院では、①巻き爪マイスター、②超弾性ワイヤ、③プレートタイプの主に3種類の矯正具を採用しています。矯正具は、患者さんの爪がどれくらい伸びているかによって選択されるものがある程度絞れます。当院では、爪が長い場合は巻き爪マイスターもしくは超弾性ワイヤ、爪が短い場合はプレートタイプを選択するといったように、アルゴリズム化して診療の効率化を図っています。
- 患者さんによっては複数の矯正具が適用になるケースもあり、その場合は両矯正具の費用やメリットを提示して提案することで、患者さんは安心して治療に踏み込むことができます。当院では、超弾性ワイヤとプレートは初期費用が安いメリットがある一方で、爪が伸びると新しい物に付け替えが必要になりますので、その都度費用が発生することもお伝えします。
<ことぶき皮ふ科クリニックの巻き爪矯正治療費>
矯正具 | 巻き爪マイスター | 超弾性ワイヤ | プレートタイプ |
---|---|---|---|
費用 | 8,800円 | 5,500円 | 5,500円 |
再装着の可否 | 可 (再装着料2,200円) |
不可 | 不可 |
治療期間の目安 | 3~6ヵ月 | 3~6ヵ月 | 6ヵ月 |
~リネイルゲルを併用する場合~
費用 | 上記各矯正具の金額に+5,500円 |
---|---|
矯正器具と併用した場合の 治療期間の目安 |
1週間~1ヶ月程度 |
リネイルゲルがもたらした巻き爪治療の変革
- 2023年に発売された巻き爪治療用剤「リネイルゲル」は、巻き爪の治療設計に大きな変化を与えました。リネイルゲルをこれまでの矯正治療に併用することで、3~6ヵ月かかっていた治療が1週間~1ヵ月程度に短縮されます※。このため、早い段階で矯正具を外すことができますので、元の日常生活を早期に手に入れることが期待できます。実際に治療を受けられた方の満足度は高く、何より早期改善は患者さんの望みでもありますので、当院ではリネイルゲル併用ありきの矯正治療を初診から提案しています。とはいえ、爪が薄い方は矯正具単独で十分に効果が見込めるため、あえて矯正具のみの治療提案に留めることもあります。
- 一方、リネイルゲルの併用で、その分の初期費用が上乗せされることも事実です。迷われる患者さんには、最初は矯正具だけで治療を開始し、再診時に改善が不十分な場合にはリネイルゲルの追加塗布を提案するといった段階的なアプローチを行うこともあります。
(最後に) 治療効果、治療完了までの期間、費用――それぞれ“見える説明”と“柔軟なプラン提案”で納得感がぐっと高まると実感しています。こうすることで、患者さんにとって最適な治療とコストのバランスを一緒に考えることができるので、心理的なハードルの低減にも繋がると考えています。
これまで述べた内容について、口頭での説明ですと、患者さんが家に帰って忘れてしまったり、当日治療に至らなかった方が検討材料にしにくかったりするので、私はマルホの患者さん向けの小冊子に当院の費用を書き込んで、持ち帰っていただくようにしています。ぜひご参考にしてみてください。
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(承認時評価資料)
2025年4月取材