褥瘡辞典 for MEDICAL PROFESSIONAL ~褥瘡(床ずれ)の正しいケアと治療のために~

褥瘡の治療

局所治療の概要

慢性期褥瘡の局所治療

治療前に褥瘡発生原因の追求および除去が重要であることは、急性期褥瘡と同様です。これを怠るといくら適切な局所治療を行っても、褥瘡が改善しないばかりか悪化するおそれすらあります。

慢性期褥瘡について、詳しくはこちら:
 » 治癒過程
  1. 浅い褥瘡の治療
    基本的に創の保護と適度な湿潤環境の保持が重要です。それにはドレッシング材や油脂性基剤の外用薬使用が適しています。
    • 紅斑:ドレッシング材を用いる場合は、創面の観察が可能なものにします。
    • 水疱:原則として水疱蓋を破りません。ドレッシング材の選び方は紅斑と同じですが、粘着力が強いと水疱が破れることがありますので注意します。水疱が緊満した状態であれば穿刺して内容液を排出します。
    • びらん・浅い潰瘍:吸水性の高いドレッシング材を使用します。浅い潰瘍に対しては、創を保護する作用が強い油脂性基剤の外用薬を用います。
  2. 深い褥瘡の治療
    深い褥瘡の場合は、治療経過とともに局所病態が大きく変化します。DESIGN分類に基づくと、(1)壊死組織の除去(N→n)、(2)肉芽形成の促進(G→g)、(3)創の縮小(S→s)、の順に重点をおいて治療計画を立てるとよいでしょう。各々の段階で炎症/感染(I)、過剰な滲出液(E)、ポケット(P)形成のある場合は、それを抑制、解消する治療を行います(I→i、E→e、P→(-))。

    慢性期の深い褥瘡における局所治療の基本スキーム

    順調な創傷治癒はN、G、Sの順番に流れるが、I、E、Pに対しては、臨機応変に対処する。
    日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン:96, 2009

    また、「褥瘡予防・管理ガイドライン」では、慢性期の深い褥瘡に対する各治療方法の推奨度をエビデンスに基づいて呈示しています。

    保存的治療 外用剤

    Clinical Question 推奨度 推奨文
    急性期の褥瘡にはどのような外用薬を用いたらよいか C1 酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレン、白色ワセリンなどの創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬やスルファジアジン銀のような水分を多く含む乳剤性基剤(O/W)の外用薬を用いてもよい。
    深部損傷褥瘡(DTI)が疑われる場合、どのような外用薬を用いたらよいか C1 毎日の局所観察を怠らないようにし、酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレンなどの創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬を用いてもよい。
    発赤・紫斑にはどのような外用薬を用いたらよいか C1 創面の保護が大切であり、酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレンなどの創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬を用いてもよい。
    水疱にはどのような外用薬を用いたらよいか C1 創の保護目的に酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレンなどの創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬を用いてもよい。
    びらん・浅い潰瘍にはどのような外用薬を用いたらよいか C1 酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレンを用いてもよい。上皮形成促進を期待してアルプロスタジルアルファデクス、ブクラデシンナトリウム、リゾチーム塩酸塩を用いてもよい。
    疼痛を伴う場合に外用薬は有用か C1 外用薬には創部の疼痛を除去する効果はないが、創面を適切な湿潤環境に保つことで疼痛を緩和できる。ジメチルイソプロピルアズレンなどの創面保護効果の高い油脂性基剤の外用薬やスルファジアジン銀、トレチノイントコフェリルなどの水分を多く含む乳剤性基剤(O/W)の外用薬を用いてもよい。
    滲出液が多い場合、どのような外用薬を用いたらよいか B 滲出液吸収作用を有するカデキソマー・ヨウ素、ポビドンヨード・シュガーを用いることが勧められる。
    C1 デキストラノマー、ヨウ素軟膏を用いてもよい。
    滲出液が少ない場合、どのような外用薬を用いたらよいか C1 感染創ではスルファジアジン銀、非感染創ではトレチノイントコフェリルなどの水分を多く含む乳剤性基剤(O/W)の外用薬を用いてもよい。
    褥瘡に対しての洗浄はどのようにしたらよいか C1 十分な量の生理食塩水または水道水を用いて洗浄する。
    褥瘡部消毒はどのようにしたらよいか C1 洗浄のみで十分であり通常は必要ないが、明らかな創部の感染を認め滲出液や膿苔が多いときには洗浄前に消毒を行ってもよい。
    褥瘡に感染・炎症を伴う場合、どのような外用薬を用いたらよいか B 感染抑制作用を有するカデキソマー・ヨウ素、スルファジアジン銀、ポビドンヨード・シュガーを用いることが勧められる。
    C1 フラジオマイシン硫酸塩・トリプシン、ポビドンヨード、ヨウ素軟膏、ヨードホルムを用いてもよい。
    臨界的定着により肉芽形成期の創傷治癒遅延が疑われる場合、どのような外用薬を用いたらよいか C1 抗菌作用を有するカデキソマー・ヨウ素、ポビドンヨード・シュガー、ヨウ素軟膏もしくはスルファジアジン銀を用いてもよい。
    肉芽形成が不十分で肉芽形成を促進させる場合、どのような外用薬を用いたらよいか B 肉芽形成促進作用を有するアルクロキサ、トラフェルミン、トレチノイントコフェリル、ポビドンヨード・シュガーを用いることが勧められる。
    C1 アルプロスタジルアルファデクス、ブクラデシンナトリウム、リゾチーム塩酸塩を用いてもよい。
    肉芽が十分に形成され創の縮小を図る場合、どのような外用薬を用いたらよいか B 創の縮小作用を有するアルクロキサ、アルプロスタジルアルファデクス、トラフェルミン、ブクラデシンナトリウム、ポビドンヨード・シュガーを用いることが勧められる。
    C1 酸化亜鉛、ジメチルイソプロピルアズレン、幼牛血液抽出物、リゾチーム塩酸塩を用いてもよい。
    壊死組織がある場合、どのような外用薬を用いたらよいか C1 カデキソマー・ヨウ素、スルファジアジン銀、デキストラノマー、ブロメライン、ポビドンヨード・シュガー、ヨードホルムを用いてもよい。
    ポケットを有する場合、どのような外用薬を用いたらよいか C1 ポケット内に壊死組織が残存する場合は、まず創面の清浄化を図る。また、滲出液が多ければポビドンヨード・シュガーを用いてもよい。滲出液が少なければトラフェルミン、トレチノイントコフェリルを用いてもよい。

    推奨度

    A 十分な根拠があり、行うよう強く勧められる。
    B 根拠があり、行うよう勧められる。
    C1 根拠は限られているが、行ってもよい。
    C2 根拠がないので、勧められない。
    D 無効ないし有害である根拠があるので、行わないよう勧められる。
    ※根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
    日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版):492, 2015

    保存的治療 ドレッシング材

    Clinical Question 推奨度 推奨文
    急性期の褥瘡にはどのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 毎日の観察を怠らないようにし、創面保護を目的として、ポリウレタンフィルムや真皮にいたる創傷用ドレッシング材のなかでも貼付後も創が視認できるドレッシング材を用いてもよい。
    深部損傷褥瘡(DTI)が疑われる場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 毎日の局所観察を怠らないようにし、創面保護を目的として、ポリウレタンフィルムや真皮にいたる創傷用ドレッシング材のなかでも貼付後も創が視認できるドレッシング材を用いてもよい。
    発赤・紫斑にはどのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 創面保護を目的として、ポリウレタンフィルムを用いてもよい。また、真皮にいたる創傷用ドレッシング材のなかでも貼付後も創が視認できるドレッシング材を用いてもよい。
    水疱にはどのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 水疱は破らずそのままにし、創面保護を目的として、ポリウレタンフィルムを用いてもよい。また、真皮にいたる創傷用ドレッシング材のなかでも貼付後も創が視認できるドレッシング材を用いてもよい。
    びらん・浅い潰瘍にはどのようなドレッシング材を用いたらよいか B 保険適用のある真皮にいたる創傷用ドレッシング材のハイドロコロイドを用いることが勧められる。皮下組織にいたる創傷用ドレッシング材のハイドロコロイドを用いてもよいが保険適用外である。
    C1 保険適用のある真皮にいたる創傷用ドレッシング材のハイドロジェル、ポリウレタンフォームのシートタイプ、アルギン酸フォーム、キチンを用いてもよい。皮下組織にいたる創傷用ドレッシング材のハイドロジェル、ハイドロポリマー、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、アルギン酸塩、キチンを選択肢として考慮してもよいが保険適用外である。
    疼痛を伴う場合にドレッシング材は有用か C1 ドレッシング材には創部の疼痛を除去する効果はないが、創面を適切な湿潤環境に保つことで疼痛を緩和できる。ハイドロコロイド、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、ハイドロファイバー®、ハイドロファイバー®/ハイドロコロイド、キチン、ハイドロジェルを用いてもよい。
    C1 ドレッシング材交換時の疼痛緩和には、アルギン酸塩、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、ハイドロコロイド、ハイドロファイバー®、ハイドロファイバー®/ハイドロコロイドを用いてもよい。ただし、ハイドロコロイドを脆弱な皮膚に使用する場合には、慎重に除去する。
    滲出液が多い場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか B 過剰な滲出液を吸収保持するポリウレタンフォームを用いることが勧められる。
    C1 皮下組織にいたる創傷用と筋・骨にいたる創傷用ドレッシング材のアルギン酸/CMC、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、アルギン酸塩、アルギン酸フォーム、キチン、ハイドロファイバー®、ハイドロファイバー®/ハイドロコロイド、ハイドロポリマーを用いてもよい。
    滲出液が少ない場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか B ハイドロコロイドを用いることが勧められる。
    C1 ハイドロジェルを用いてもよい。
    褥瘡に感染・炎症を伴う場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 感染抑制作用を有する外用剤の使用を推奨する。もしくは、銀含有ハイドロファイバー®、アルギン酸Agを用いてもよい。
    C2 滲出液が多い場合には吸収性の高いアルギン酸塩が用いられることもあるが、感染制御の機能はないため使用は勧められない。
    臨界的定着により肉芽形成期の創傷治癒遅延が疑われる場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 銀含有ハイドロファイバー®、アルギン酸Agを用いてもよい。
    肉芽形成が不十分で肉芽形成を促進させる場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 アルギン酸Ag、アルギン酸塩、ハイドロコロイド、ハイドロポリマー、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、キチン、ハイドロファイバー®、ハイドロファイバー®/ハイドロコロイドを用いてもよい。
    肉芽が十分に形成され創の縮小を図る場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか B 銀含有ハイドロファイバー®、アルギン酸Ag、アルギン酸塩を用いることが勧められる。
    C1 ハイドロコロイド、ハイドロジェル、ハイドロポリマー、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン、アルギン酸フォーム、キチン、ハイドロファイバー®、ハイドロファイバー®/ハイドロコロイド、アルギン酸/CMCを創からの滲出液の程度により選択し用いてもよい。
    壊死組織がある場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 外科的デブリードマン、壊死組織除去作用を有する外用剤の使用がむずかしい場合には、皮下組織にいたる創傷用ドレッシング材のハイドロジェルを用いてもよい。
    ポケットを有する場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか C1 ポケット内に壊死組織が残存する場合は、まず創面の清浄化を図る。滲出液が多い場合はアルギン酸塩、ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)、アルギン酸Agを用いてもよい。
    褥瘡治療に、いわゆるラップ療法は有効か C1 医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な環境において使用することを考慮してもよい。ただし褥瘡の治療について十分な知識と経験をもった医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである。

    推奨度

    A 十分な根拠があり、行うよう強く勧められる。
    B 根拠があり、行うよう勧められる。
    C1 根拠は限られているが、行ってもよい。
    C2 根拠がないので、勧められない。
    D 無効ないし有害である根拠があるので、行わないよう勧められる。
    ※根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
    日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版):493, 2015

    外科的治療

    Clinical Question 推奨度 推奨文
    感染・炎症がある場合に外科的デブリードマンを行ってよいか C1 膿汁や悪臭、あるいは骨髄炎を伴う感染褥瘡には、外科的デブリードマンを行ってもよい。
    壊死組織がある場合に、外科的デブリードマンはいつ行うか C1 壊死組織と周囲の健常組織との境界が明瞭となった時期に外科的デブリードマンを行ってもよい。
    C1 感染が沈静化しているときに外科的デブリードマンを行ってもよい。
    ポケットがある場合、外科的に切開やデブリードマンを行ってもよいか B 保存的治療を行っても改善しないポケットは、外科的に切開やデブリードマンを行うよう勧められる。
    どのような場合に外科的デブリードマンの適応となるか C1 保存的治療を優先するが、感染が沈静化しているときに、外科的デブリードマンを行ってもよい。
    C1 深さが皮下組織以上に及ぶときには外科的デブリードマンを行ってもよい。
    C1 外科的デブリードマンは局所の感染巣の局在、壊死組織の量および拡大範囲、創部の血行状態、創縁の状態、痛みへの耐性に応じて適応を決定する。
    どのような場合に外科的再建術の適応となるか C1 保存的治療に反応しない、皮下組織よりも深層に達した褥瘡に対して外科的再建術を行ってもよい。
    C1 創の周囲組織が陳旧化・瘢痕化している場合には外科的再建術を行ってもよい。
    C1 骨髄炎の治療として外科的切除・皮弁による外科的再建を行ってもよい。
    特に有用性の高い外科的再建術があるか C1 外科的再建術に関してはさまざまな術式・閉鎖法が報告されている。一方、再建法ごとの治療成績については十分なエビデンスがなく、特定の再建術は支持されない。
    肉芽組織が少ない場合には、どのような物理療法があるか C1 感染・壊死がコントロールされた創には陰圧閉鎖療法を行ってもよい。

    推奨度

    A 十分な根拠があり、行うよう強く勧められる。
    B 根拠があり、行うよう勧められる。
    C1 根拠は限られているが、行ってもよい。
    C2 根拠がないので、勧められない。
    D 無効ないし有害である根拠があるので、行わないよう勧められる。
    ※根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
    日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版):494, 2015

    スキンケア

      Clinical Question 推奨度 推奨文
    予防ケア 尿・便失禁がある場合、褥瘡発生予防にどのようなスキンケアを行うとよいか C1 洗浄剤による洗浄後に、肛門・外陰部から周囲皮膚へ皮膚保護のためのクリーム等の塗布を行ってもよい。
    高齢者の骨突出部位の褥瘡発生予防に、どのようなスキンケアを行うとよいか B ポリウレタンフィルムドレッシング材、すべり機能つきドレッシング材、ポリウレタンフォーム/ソフトシリコンドレッシング材の貼付を勧める。
    仰臥位手術患者の場合、褥瘡発生予防にどのようなスキンケアを行うとよいか C1 仙骨部にポリウレタンフィルムドレッシング材の貼付を行ってもよい。
    非侵襲性人工呼吸器装着患者のフェイスマスク接触による褥瘡発生予防にどのようなスキンケアを行うとよいか C1 ポリウレタンフィルムドレッシング材、ハイドロコロイドドレッシング材の貼付を行ってもよい。
    集中治療中の患者の褥瘡発生予防に、どのようなスキンケアを行うとよいか B ポリウレタンフォーム/ソフトシリコンドレッシング材の貼付を勧める。
    発生後ケア 褥瘡治癒促進のために、褥瘡周囲皮膚の洗浄は有効か C1 弱酸性洗浄剤による洗浄を行ってもよい。
    尿・便失禁がある場合、褥瘡治癒促進のためにどのようなスキンケアを行うとよいか C1 洗浄剤による洗浄後に、褥瘡周囲皮膚への皮膚保護クリーム等の塗布を行ってもよい。

    推奨度

    A 十分な根拠があり、行うよう強く勧められる。
    B 根拠があり、行うよう勧められる。
    C1 根拠は限られているが、行ってもよい。
    C2 根拠がないので、勧められない。
    D 無効ないし有害である根拠があるので、行わないよう勧められる。
    ※根拠とは臨床試験や疫学研究による知見を指す。
    日本褥瘡学会編集:褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版):496, 2015
急性期褥瘡の局所治療
ハイリスク褥瘡患者・難治性褥瘡

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