3.単純疱疹の検査・診断法

【アドバイザー】
まりこの皮フ科 院長 / 東京慈恵会医科大学 皮膚科 客員教授
本田 まりこ 先生

 単純ヘルペスは典型例であれば詳細な問診と視診で診断が可能である。しかし、非典型例や他疾患との鑑別が困難な場合は検査による診断が必要となる。検査法によって、感度・特異性・注意点が異なるため、特徴をよく理解して適切に実施することが重要である。

単純疱疹の検査・診断法

検査・診断の意義

 単純ヘルペスの既往があり典型的な水疱がみられる場合には、問診と視診のみで診断が可能なことが多い。しかし、非典型例や他疾患との鑑別が困難な場合には検査を考慮する必要がある。また、単純ヘルペスウイルス(HSV)には、1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があり、性器ヘルペスなどはHSVの型によって再発頻度が異なるため、初発時に検査で型を調べておくことで再発の予後を推定できる。

問診の注意点

 インターネットや知人から得た情報をもとに患者自身がヘルペスと判断し、訴えてくるケースがある。しかし、実際は口角炎や固定薬疹、食物などによる接触皮膚炎であることも多く、患者の訴えを受けて安易に抗ヘルペスウイルス薬を処方することは避けるべきである。問診の際は薬歴やアレルギーの既往を確認し、必要に応じて検査を実施する。また、再発型性器ヘルペスの場合、羞恥心から既往歴を話したがらないケースが多い。しかし、臀部や大腿部などのヘルペスは性器ヘルペスの既往が診断の決め手となる場合もあるため、医師から既往を尋ねることが重要である。

検査法

【 病理学的検査 】
● Tzanck test
 水疱蓋や潰瘍底の塗抹標本をギムザ染色して、ウイルス性巨細胞を検出する検査法である(図1)。10~15分程で実施できるため、外来での迅速診断に適している。しかし、HSVの型別判定や水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)との鑑別はできない。

図1. ギムザ染色 ウイルス性巨細胞
 

【 ウイルス分離 】
● ウイルス分離培養

 Vero細胞(アフリカミドリザル腎細胞)やHEL細胞(ヒト胎児肺線維芽細胞)などの培養細胞に、水疱内容物やびらん面から採取した検体を接種し、細胞変性効果(CPE)をみる検査で、CPEが認められればウイルスの存在を証明できる。検体中の感染性ウイルスが少量でも、検出に用いられる宿主細胞の中で増殖するため感度は高い。しかし、CPEが起こるまでに通常3~7日を要し、高コストであるため、日常診療では実施が困難である。最近は、ウイルス分離培養にかかる時間を短縮したシェルバイアル法が用いられることが多い。バイアルの中のカバーグラス上にVero細胞などを培養し、検体を加えた後、遠心接種して感染を促進する。その後、感染細胞をモノクローナル抗体で免疫染色し、分離ウイルスを同定する。

【 抗原検査 】
● 蛍光抗体法

 細胞や組織内に存在する抗原(ウイルス)と蛍光色素で標識した抗体を結合させ、蛍光顕微鏡下で観察する方法である(図2)。HSV-1、HSV-2、VZVそれぞれに特異的なモノクローナル抗体を用いることで、鑑別が可能である。迅速かつ簡便に実施できる反面、粘膜を多く含む検体など検体の採取部位によっては偽陰性率が高いので注意が必要である。
 

図2. 蛍光抗体法

● イムノクロマト法
 セルロース膜上を被検体が試薬を溶解しながらゆっくりと流れる性質(毛細管現象)を応用した免疫測定法である。病変より採取した検体をキット付属の抽出液に入れ抗原を抽出し、抽出液をキット上の試料滴下部に滴下する。滴下された検体中のHSV抗原と金コロイド標識抗HSVマウスモノクローナル抗体が免疫複合体を形成し、セルロース膜上を毛細管現象により移動する。検体中にHSV抗原が存在すると、判定部にある抗HSVマウスモノクローナル抗体に捕捉され、金コロイドの作用により判定部にラインを形成する。手技が簡便で15分程度で実施可能であるが、感度は分離培養よりも若干劣る。また、抗ヘルペスウイルス薬を服用していると偽陰性率が高くなる。


【 核酸検査 】
● PCR(polymerase chain reaction)法

 目的とするDNA領域を挟む2種のプライマーを用いて、DNAポリメラーゼ連鎖反応により、目的とするDNA領域を増幅する方法である。増幅されたDNA断片の電気泳動あるいはハイブリダイゼーションによってウイルスDNAを検出する。PCR法には1対のプライマーを用いるsingle PCR法と、single PCR法で増幅した領域の内側にさらに1対のプライマーを設定して2回目の増幅をするnested PCR法がある。nested PCR法はsingle PCR法よりも感度が高く、潜伏中のウイルスの検出が可能なため、潜伏感染の研究や、鋭敏な検査が求められる単純ヘルペス脳炎の診断に用いられている。しかし、nested PCR法は感度の高さゆえ、臨床で用いるには疾病(発病)と正常との判別が難しく、コンタミネーションの危険性も高いので、急性感染症の診断にはsingle PCR法が適していると思われる。これらの定性PCR法に対し、定量PCR法は経時的にウイルス量を測定することで、疾患の経過や治療効果がわかる。real-time PCR法は定量PCR法の一つであり、PCRによる増幅産物の増加をリアルタイムでモニタリングし解析する。電気泳動が不要であり、迅速かつ簡便である。

● LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法
 LAMP法は標的遺伝子の6つの領域に対して、4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して一定温度で反応させる検査法である。PCR法と同様に目的とする病原体が持つ特定領域の遺伝子配列を増幅する。PCR法では遺伝子の増幅時に高温から低温まで、段階に応じて温度を変更しなければならないが、LAMP法では一定温度(65℃付近)で反応が進むため、手技が簡便であり、thermal cyclerなどの特別な装置が不要である。ただし、核酸の抽出・精製など検体の前処理に1時間程要するといった難点がある。しかし、近年、PURE(procedure forultra rapid extraction)法という前処理技術をLAMP法に組み合わせ、前処理過程を20分程に短縮したPURELAMP法が開発された。LAMP法、PURE-LAMP法ともに感度・特異性が高く、HSV-1とHSV-2の型別判定が可能である。

【 血清抗体検査 】
 血清ウイルス抗体検査は、患者の血清中にある既知のウイルス抗原に対する抗体(図3)を検出・測定して、感染したウイルスを推定する方法である。通常、急性期と回復期(2~3週後)の血清をペア血清として、特定のウイルスに 対する抗体を同時に測定する。一般的に急性期に陰性であった抗体が、回復期に陽性になったとき(抗体陽転)、あるいは急性期から回復期にかけて抗体価が4倍以上上昇したときに、そのウイルスが感染したと判定する。ただし、抗体価に正常値はなく、感染に対する免疫反応あるいは既往を表しているに過ぎないため、あくまで診断の参考に留める。

 PCR法の開発により病原診断は大きく進展したが、HSVは無症候性排泄や潜伏状態でもウイルスゲノムが一定量検出されるため、ウイルスが検出されても直ちに当該病変を病因と判断することはできない。また、発症が初感染と回帰感染のどちらによるものかといった判断も難しい。このような場合に抗体検査によって鑑別が可能となることが望ましい。以下に使用機会の多い、CF、NT、ELISAの特徴を示す。

● CF 補体結合反応
 感作ヒツジ赤血球に補体が反応すると溶血するが、ウイルス抗体の存在下では、ウイルスの抗原抗体複合物が補体を消費するので溶血反応は起こらないという原理を利用した検査法である。広く用いられているが、感度が低い。HSVとVZVとで弱い交差反応がみられる。また、感染後、比較的早期に補体結合抗体は消失するので、既往の判定は出来ないことが多い。さらに、再発を繰り返すと抗体価が高く維持され、ペア血清で抗体価の上昇を確認することが難しくなる。

● NT 中和反応
 血清と一定量の感染性ウイルスを混合して反応させた後、宿主細胞へ接種して、抗体(中和抗体)による感染性の消失、感染力の低下をみる検査法である。中和抗体の存在下では、ウイルスの培養細胞への感染力は低下し、CPEが出現しないか、プラーク数が減少する。感染後長期間検出され、感度、特異性がともに高い。HSV-1、HSV-2ごとに抗体価を測定できるが、交差反応を示すことがあるため、型別判定はできない。組織培養が必要なため、測定に時間がかかる。

● ELISA 酵素免疫測定法
 EIAの固相法である。抗原または抗体をプレートなどに固相化し、抗原または抗体を反応させ結合させる。その後、酵素で標識した抗グロブリン抗体を添加して反応させる。さらに、酵素基質を加えて反応させ、生成部の発色を指標にして、対象とする抗原または抗体を検出・測定する方法である。発色の吸光度を測定し、検体中の抗体価も測定できる。感度が高く、IgM、IgGなどクラス別の測定が可能である。ただし、結果の表示方法などの標準化がなされていない、従来の抗体価との関連が不明瞭といった点に注意する。

● gG ELISA
 gG ELISAはウイルスのエンベロープに存在するglycoprotein Gの抗体を測定する検査法である。前述した血清抗体検査はいずれも型別判定はできないが、gGはHSV-1とHSV-2で型特異性が高いため、型別判定が可能である。ただし、gG欠損株が存在する点と、gGは抗原性が低いので抗体価が上昇するまで時間がかかる点に注意が必要である。

図3. ウイルス感染後に検出される検体

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