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4.角膜ヘルペスの病態および治療のポイント


    アドバイザー:
    • 東京女子医科大学 眼科 臨床教授 高村 悦子 先生

    抗ヘルペスウイルス薬が開発されたことにより、角膜ヘルペスの重症例は減少している。しかし、適切な治療が行われず角膜浮腫・混濁が遷延すると、視力に障害を来す場合もあるため、病型を見極めたうえで早期から適切な治療を行うことが求められる。

    角膜ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)に初感染の場合を除き、三叉神経節などに潜伏感染したHSVがストレス、疲労、寒冷などの誘因により再活性化し、再発することで生じる。ほとんどの場合、片眼性であり、臨床症状として、異物感、流涙、羞明、視力低下があげられる。角膜ヘルペスでは角膜知覚が低下しているため、その他の感染性角膜潰瘍に比べ痛みが軽度であること、再発を繰り返すことが特徴である。

    リスク因子

    アトピー性皮膚炎患者に顔面ヘルペス(特に眼瞼ヘルペス)が生じた場合は、急性濾胞性結膜炎とともに角膜ヘルペスを生じることがある。特に、カポジ水痘様発疹症が顔面に広がった場合は角膜ヘルペスを生じる可能性が高く注意を要する。アトピー性角結膜炎や春季カタルの治療には、ステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬が用いられるため、皮膚のHSV感染症から角膜ヘルペスへと進展しやすい。

    *結膜の増殖性変化を特徴とする重症のアレルギー性結膜疾患。アトピー性皮膚炎を伴うことが多い。

    病 態

    病型は上皮型、実質型、内皮型に分けられ、これらに引き続いて起こる組織障害を二次病変とする(表1)。

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    病態

    【 上皮型 】

    上皮型角膜ヘルペスは、角膜上皮細胞でウイルスが増殖することで生じる。典型例として樹枝状角膜炎(図1)、地図状角膜炎があげられる。樹枝状角膜炎では、病巣先端膨大部、病巣周囲の上皮内浸潤、ある程度の幅を有する枝分かれした角膜潰瘍が認められる。樹枝状角膜炎が進行すると地図状角膜炎と呼ばれ、上皮欠損部が拡大するが、病巣先端部には樹枝状角膜炎と同様な膨大部を認める。角膜に樹枝状病変を認めた場合、偽樹枝状角膜炎(図2)(表2)との鑑別を要する。上皮型病変の二次病変として、遷延性角膜上皮欠損がある。

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    上皮型

    【 実質型 】

    実質型角膜ヘルペスは、角膜実質内のウイルス抗原に対する免疫反応により生じる。典型例として円板状角膜炎(図3)、壊死性角膜炎(図4)があげられる。円板状角膜炎は角膜中央に類円形の角膜浮腫を呈し、病巣内に角膜後面沈着物が認められる。壊死性角膜炎は重症型であり、角膜実質内に濃白色の浸潤病巣を形成し混濁する。炎症が遷延すると角膜の菲薄化や角膜実質への血管侵入が生じる。実質型病変の二次病変として、栄養障害性潰瘍がある。

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     実質型

    【 内皮型 】

    内皮型角膜ヘルペスは、内皮細胞でのウイルス増殖によるものか、ウイルス抗原に対する免疫反応からの炎症によるものなのか病態は明らかになっていない。典型例として角膜内皮炎、角膜輪部炎(図5)があげられる。角膜ヘルペスの経過中は角膜内皮炎よりも角膜輪部炎としての再発頻度が高い。角膜内皮炎の特徴は、病巣部および病巣先端部に沿った角膜後面沈着物や、実質内混濁を伴わない角膜実質浮腫であり、前房に強い炎症は認めないが、内皮細胞は減少する。角膜輪部炎では輪部結膜に充血や腫脹、病変部に接する角膜の浮腫、混濁、角膜後面沈着物が認められる。また、眼圧上昇を伴うことが多い。

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    内皮型
    写真提供: 高村 悦子

    診断・検査

    上皮型角膜ヘルペスでは、細隙灯顕微鏡検査で特徴的な所見が確認できれば臨床診断が可能であるが、非典型例や角膜ヘルペスの既往が明らかでない患者に偽樹枝状角膜炎や角膜実質炎がみられた場合にはウイルス学的検査が必要である。病巣部の角膜擦過物を用いたHSVの証明が診断の基本である。一方、実質型、内皮型角膜ヘルペスの確定診断は難しく、涙液や前房水を検体とした定量的PCR法を行う場合もある。いずれの病型でも検査結果に加え、臨床所見や上皮型角膜ヘルペスの既往などを勘案して診断する(表3)。

    【 各検査法のポイント 】

    • ウイルス分離培養・同定は、陽性であれば診断を確定できるが、感度が低く結果が出るまで時間を要する。
    • 蛍光抗体法は短時間で結果が得られ簡便で感度も高い。ただし、病巣が小さい場合は十分量の検体が採取できず偽陰性になる可能性がある。
    • イムノクロマト法では、glycoprotein Dに対するモノクローナル抗体を用いたキットが保険適用となっている。約15分と短時間で結果が得られるが感度がやや低い。
    • PCR法は感度が高く、検体量が微かでも検査が可能である。しかし、HSVは涙液中に無症候性排泄されるため定性的PCR法では偽陽性になる場合があり、real-time PCR法で行う必要がある。涙液、前房水を検体とすることができるので、実質型や内皮型、病巣が小さな非典型例の角膜ヘルペスを診断する際の補助診断として有用である。
    • 血液抗体検査に関しては、角膜ヘルペスはHSVの再活性化によって生じるため、検査で抗体価が上昇していても直ちにHSVを角膜炎の病因とすることはできない。
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    各検査法のポイント

    治療

    【 上皮型 】

    アシクロビル眼軟膏3%を1日5回、2週間継続投与する。漫然とした長期投与により上皮障害をおこすことがあるため、上皮性病変が治癒すれば中止する。混合感染の予防目的で抗菌点眼薬を併用する。

    【 実質型 】

    消炎のためにステロイド点眼薬を用いる。その際、アシクロビル眼軟膏3%を併用する。ステロイド点眼薬は炎症の重症度に応じてランクを選択する(表4)。症状の改善に伴いステロイド点眼薬の回数、ランクを漸減する。薬剤投与に関しては、ある程度の経験を要するため、最初は再診までの期間をできるだけ短くしながら慎重に投与することが重要である。なお、薬物治療を行っても高度の角膜混濁が残った場合には角膜移植の適応となる。ただし、角膜移植後にも角膜ヘルペスは再発する。

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    実質型

    【 内皮型 】

    実質型の治療に準ずる。散瞳薬を必ず併用し、ステロイド点眼薬は実質型に用いるよりも強いランクのものを使用する場合が多い。

    【 合併型(上皮型および実質型) 】

    上皮型の治療(アシクロビル眼軟膏3% 1日5回)を優先し、実質型の治療(ステロイド点眼薬)は一旦中止する。上皮型が治癒した2週間後から開始するか、あるいはステロイド内服薬を併用する。

    眼科へ紹介するタイミング

    角膜ヘルペスを疑った時、的確な診断や治療のためには、細隙灯顕微鏡による検査が必要であり、すぐに眼科受診をすすめてほしい。ただし、角膜ヘルペスを合併しやすいリスク因子(アトピー性皮膚炎患者の眼瞼ヘルペス、顔面のカポジ水痘様発疹症、春季カタルで点眼治療中)を有し、眼科受診まで時間があく場合は経口抗ヘルペスウイルス薬注)も上皮型角膜ヘルペスには有効であり、プライマリケアとしては十分と考える。アシクロビル軟膏5%注)は眼局所に用いてはいけない。

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