ぬり薬の蘊蓄 第1章 外用剤における基剤と剤形の重要性について ~主薬の経皮吸収に与える影響を中心に~
今日では、医師や患者さんのニーズの多様化、製剤技術の進歩、後発医薬品の使用促進などにより、同じ主薬を含有した様々な外用剤(皮膚外用剤)が数多く上市されています。
これらの外用剤は剤形別に日本薬局方で分類されており、表11)のようにまとめることができます。2017年に登場したシャンプー様外用液剤はローション剤に分類されます。
表1:皮膚などに適用する製剤(外用剤)(出典1 製剤総則[3]製剤各条11皮膚などに適用する製剤より一部抜粋し作表)
剤形 | 概要 | |
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11.1.外用固形剤 | 皮膚(頭皮を含む)又は爪に、塗布又は散布する固形の製剤である。 | |
11.1.1.外用散剤 | 粉末状の外用固形剤である。 | |
11.2.外用液剤 | 皮膚(頭皮を含む)又は爪に塗布する液状の製剤である。 | |
11.2.1.リニメント剤 | 皮膚にすり込んで用いる液状又は泥状の外用液剤である。 | |
11.2.2.ローション剤 | 有効成分を水性の液に溶解又は乳化若しくは微細に分散させた外用液剤である。 | |
11.3.スプレー剤 | 有効成分を霧状、粉末状、泡沫状、又はペースト状などとして皮膚に噴霧する製剤である。 | |
11.3.1.外用エアゾール剤 | 容器に充塡した液化ガス又は圧縮ガスと共に有効成分を噴霧するスプレー剤である。 | |
11.3.2.ポンプスプレー剤 | ポンプにより容器内の有効成分を噴霧するスプレー剤である。 | |
11.4.軟膏剤 | 皮膚に塗布する、有効成分を基剤に溶解又は分散させた半固形の製剤である。油脂性軟膏剤及び水溶性軟膏剤がある。 | |
11.5.クリーム剤 | 皮膚に塗布する、水中油型又は油中水型に乳化した半固形の製剤である。油中水型に乳化した親油性の製剤については油性クリーム剤と称することができる。 | |
11.6.ゲル剤 | 皮膚に塗布するゲル状の製剤である。水性ゲル剤及び油性ゲル剤がある。 | |
11.7. 貼付剤 | 皮膚に貼付する製剤である。 | |
11.7.1.テープ剤 | ほとんど水を含まない基剤を用いる貼付剤である。プラスター剤及び硬膏剤を含む。 | |
11.7.2.パップ剤 | 水を含む基剤を用いる貼付剤である。 |
表1にある軟膏剤とクリーム剤は、第十五改正日本薬局方までは同じ「軟膏剤」として一括りに記載されていましたが、第十六改正日本薬局方で投与経路・適用部位に基づく剤形分類および各剤形の定義の記載に改正され、それぞれ独立して記載されています。そのため、「~軟膏」の製品名でも、ザーネ軟膏やユベラ軟膏のようにクリーム剤であることや、インテバン軟膏やフェルデン軟膏のようにゲル剤であることがあります。このように製品名から剤形の判別が困難な場合があります(表2)。
表2. 製品名から基剤の判別が困難な外用剤
製品名 | 基剤 |
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ザーネ軟膏0.5% | 水中油型クリーム |
ユベラ軟膏 | 水中油型クリーム |
5-FU軟膏5%協和 | 水中油型クリーム |
アクアチム軟膏1% | 油中水型クリーム |
イソジンゲル10% | 水溶性基剤 |
ポビドンヨードゲル10% | 水溶性基剤 |
インテバン軟膏1% | 水性ゲル |
フェルデン軟膏0.5% | 水性ゲル |
トプシムクリーム0.05% | FAPGゲル |
軟膏剤とクリーム剤のように「剤形」が異なると、同一の主薬を同じ濃度で含有していても、主薬の経皮吸収が異なる場合があります。
同じ水中油型のクリーム剤を用いた製剤でも「基剤*」に使用されている添加剤(表3)とその濃度は多様であるため、同じ剤形でも異なった経皮吸収や使用感となる可能性があります。
第1章では、皮膚に適用される外用剤の「剤形」や「基剤」の重要性を理解していただくために、剤形ごとの構成成分と製剤化に必要な主な添加剤の役割について紹介します。続いて、「剤形」や「基剤」の違いが主薬の経皮吸収に与える影響について説明します。
*:「基剤」という名称は外用剤において添加剤の中で主たるものを意味して用いられることもありますが、本書における「基剤」は外用剤から主薬を除いたものを意味します。
表3:同じ剤形の外用剤で使用されている添加剤
剤形 | 医薬品 | 添加剤 |
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水中油型クリーム剤 | 先発医薬品 | グリセリン、ステアリン酸、水酸化カリウム、白色ワセリン、ラノリンアルコール、セトステアリルアルコール、セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物、ミリスチルアルコール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、イソプロパノール |
後発医薬品A | グリセリン、白色ワセリン(抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを含む)、ステアリン酸、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、2,2ʼ,2ʼʼ-ニトリロトリエタノール、チモール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル | |
後発医薬品B | セタノール、ワセリン、流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸マクロゴール、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸メチル、プロピレングリコール、D−ソルビトール | |
後発医薬品C | セトステアリルアルコール、エデト酸Na、チモール、ジエタノールアミン、ステアリン酸、1,3-ブチレングリコール、合成スクワラン、ステアリン酸ポリオキシル、モノステアリン酸グリセリン | |
後発医薬品D | セトマクロゴール、ステアリン酸グリセリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、セトステアリルアルコール、ワセリン(抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを含む)、プロピレングリコール、グリセリン、パラオキシ安息香酸メチル*、パラオキシ安息香酸プロピル*、エデト酸ナトリウム水和物、ジイソプロパノールアミン、pH調整剤 |
*:簡略名で記載された添加剤は、先発医薬品の電子添文の記載と統一した。