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薬剤性腎障害の予後を見据えた帯状疱疹治療とは


    • 田尻ヶ丘病院 内科 鶴岡 秀一 先生

    薬剤性腎障害とは

    2016年に刊行された薬剤性腎障害診療ガイドライン1)では、薬剤性腎障害とは「薬剤の投与により、新たに発症した腎障害、あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義されている。日常的に臨床で使用されている薬剤には腎排泄性あるいは腎障害性であるものも多く、薬剤性腎障害を経験する機会は少なくない。薬剤性腎障害による症状や経過は多彩で、薬剤投与後に急激に腎機能が悪化する急性腎障害だけでなく、緩徐に腎機能が悪化する慢性腎臓病(Chronic kidney disease :CKD)やネフローゼ症候群を呈するパターンもあり、併用薬剤が複数あった場合などは原因薬剤の同定が困難になる。

    薬剤性腎障害の分類

    薬剤性腎障害は、発症機序や腎の障害部位に基づき分類される。これまでは薬剤投与後の急性腎障害を中心に分類されていたが、薬剤性腎障害診療ガイドライン2016では、慢性的な経過を含めて薬剤投与後の腎障害すべてが対象となっている(表1)。

    表1:薬剤性腎障害の分類
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    薬剤性腎障害の分類

    薬剤性腎障害の診療ガイドライン作成委員会: 日腎会誌 58(4): 477‒555 (2016) より作成

    帯状疱疹治療で薬剤性腎障害に注意すべき薬剤とその機序

    帯状疱疹の治療に用いられる薬剤のうち、腎障害に注意が必要な薬剤を紹介する。

    ① 抗ヘルペスウイルス薬

    抗ヘルペスウイルス薬の中でも腎排泄性の薬剤は、糸球体ろ過と尿細管分泌によって排泄される。過剰投与時や患者が脱水状態の場合には、腎臓内での薬剤濃度が過度に上昇し、遠位尿細管や集合管で結晶が析出するため、腎後性急性腎障害を呈することがある。それと同時に、排泄されなかった薬剤の血中濃度が上昇し、中枢神経障害の副作用が発現しやすくなる。

    対策の基本は、患者個々の腎機能に応じた投与量・間隔の調節である。投薬前に患者の腎機能を確認し、添付文書に応じた用法・用量の調節が望ましい。また、積極的な水分摂取によって尿量を増やし、遠位尿細管・集合管管腔内での薬物濃度を下げるといった工夫も必要である。

    ② 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

    NSAIDsは帯状疱疹に伴う痛みでも鎮痛剤として頻用されているが、腎細動脈に存在するシクロオキシゲナーゼを阻害することにより血管拡張作用のあるプロスタグランジンの産生を抑制し、虚血性腎障害を引き起こすことがある。腎虚血が持続すると、急性尿細管壊死(急性腎障害)に至る。特に脱水・血圧低下時には容易に腎虚血を起こし、糸球体から流れ出る血液量を増加させる高血圧治療薬、レニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン阻害薬(RAS阻害薬)との併用によりさらに助長される。また、NSAIDsは虚血性腎障害以外に、アレルギー機序による急性間質性腎炎、間質性腎炎を併発したネフローゼ症候群を引き起こすことがある。

    虚血性腎障害を予防するためには、十分な水分補給などによって適切に腎血流を保持することが重要である。また、CKD患者にNSAIDsを投与する場合は、処方計画を慎重に立てる必要がある

    • 重篤な腎障害のある患者には禁忌である。

    ③ アセトアミノフェン

    帯状疱疹は腎機能が低下しがちな高齢者に多い疾患であるため、鎮痛剤としてNSAIDsの代わりにアセトアミノフェンが使用される場合もあるが、アセトアミノフェンを含む薬剤で腎乳頭壊死・石灰化、慢性間質性腎炎による慢性腎不全を発現したとの報告がある。ただし、アセトアミノフェンの単独投与で発症したという明らかな報告はなく、複合鎮痛剤の連日の長期投与により発症する場合がほとんどである。アセトアミノフェンとNSAIDsの併用により、両薬剤の腎髄質の乳頭部での濃縮が起こり、アセトアミノフェンの中間活性代謝産物を介した直接毒性が発生し腎障害を引き起こすと推察されている1)

    ④ その他注意が必要な薬剤

    薬剤性腎障害を直接引き起こす薬剤ではないが、帯状疱疹の治療時に併用される可能性のあるプレガバリン※1やトラマドール塩酸塩※2は、腎機能低下患者では排泄が遅延し、副作用発現リスクが上昇する可能性があるため、注意が必要である。

    • ※1 【効能・効果】神経障害性疼痛
    • ※2 【効能・効果】非オピオイド鎮痛剤で治療困難な慢性疼痛における鎮痛

    薬剤性腎障害の疫学

    腎臓専門医を有する全国の主な大学病院・基幹病院を対象に、2007年から2009年までの3年間の薬物性腎障害の実態を調べたアンケート調査において、全入院患者のうち0.94%が薬剤性腎障害による入院であった2)。解析された183症例における主な原因薬剤は、NSAIDs(25.1%)、抗腫瘍薬(18.0%)、抗菌薬(17.5%)であった。これらの症例の転帰をみると、55.1%の症例で回復したが、36.5%で非回復であり、65歳以上の高齢者では腎機能回復までの期間が長かった。薬剤性腎障害発症と年齢の関係は、日本腎臓学会主導による日本腎生検レジストリーの登録症例(2007年から2015年)で解析されており、年齢別発症頻度は40歳以降で高くなり、60歳代でピークを示した(図13)。このように、NSAIDsや抗腫瘍薬、抗菌薬の使用患者、60歳以上の高齢者では薬剤性腎障害の発現に注意が必要である。

    図1:薬剤性腎障害の年齢別発症率
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    薬剤性腎障害の年齢別発症率

    Yokoyama H, et al.: Clin Exp Nephrol 20(5): 720‒730 (2016)

    薬剤性腎障害の予後 ~軽微な腎障害を見逃さない

    透析患者の中には、軽微な腎障害を過去に複数回受けた結果、徐々に腎機能が低下し、さらに脱水・感染・薬剤曝露など“最後の一撃”を受けて透析導入となるケースがみられる(図24)。この一見軽微な障害の中には薬剤によるものも含まれており、“最後の一撃”となった腎障害を問題視しがちであるが、それまでに積み重ねられてきた軽微な腎障害まで認識して対処することが、透析導入を減らすための大きな対策となる。前述のとおり、腎臓専門医を有する施設でのアンケート調査では、薬剤性腎障害発現後の約3分の1以上が非回復であることが示されている。軽微な腎障害であっても、その蓄積が患者の予後に大きな影響を与えうることから、年齢に関わらずすべての人で腎障害を引き起こさないよう常に注意することが望ましい。

    図2:典型的な透析導入患者の腎機能推移
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    典型的な透析導入患者の腎機能推移

    鶴岡秀一: 臨床薬理 48(2): 52-57 (2017)

    薬剤性腎障害を考慮した帯状疱疹治療

    薬剤性腎障害では一過的な急性腎不全だけでなく、軽微な腎臓への負担の蓄積が徐々に腎機能を低下させ、最終的には末期腎不全への移行につながる可能性があることに注意が必要である。帯状疱疹は高齢者に多い疾患であり、薬剤性腎障害のピークは60歳以上であるが、非高齢者の患者も少なくなく、軽微な腎機能障害の積み重ねも考慮すると、非高齢者も含めたすべての患者で腎障害を引き起こさないように注意することが、最終的に透析導入などの末期腎不全患者の減少につながると考えられる。薬剤性腎障害の一部は予測が不可能な特異体質によるものもあるが、発症機序の観点から、帯状疱疹治療に用いられる薬剤の多くは予測・対策が可能であると考える。帯状疱疹の治療により腎臓に過度な負担をかけないよう、投与前に患者の年齢や基礎疾患、併用薬や体調などリスク因子の評価を行い、薬剤性腎障害を起こさないよう十分注意すべきである。

    引用文献:

    1. 薬剤性腎障害の診療ガイドライン作成委員会: 日腎会誌 58(4): 477‒555 (2016)
    2. 細谷龍男, 他:高齢者における薬物性腎障害に関する研究.厚生労働科学研究費補助金腎疾患対策研究事業「CKDの早期発見、予防、治療標準化、進展阻止に関する調査研究」(研究代表者 今井圓裕)平成21-23年度総合研究報告書. 2012:14
    3. Yokoyama H, et al.: Clin Exp Nephrol 20(5): 720‒730 (2016)
    4. 鶴岡秀一: 臨床薬理 48(2): 52-57 (2017)

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