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帯状疱疹治療で薬剤性腎障害を起こさないための薬剤の投与方法


    監修:
    • 熊本大学 薬学部附属育薬フロンティアセンター長 / 熊本大学薬学部 臨床薬理学分野 教授 平田 純生 先生

    腎機能の評価方法

    腎排泄性薬剤は、腎機能と薬物の尿中排泄率が分かれば基本的に投与設計が可能であるが、腎機能に応じた適切な投与がなされずに腎障害などの副作用を起こしてしまうケースが後をたたない。腎排泄性薬剤を投与する際は、患者の腎機能を正確に評価し、適切な投与設計を行うことが求められる。

    腎機能は糸球体ろ過量(GFR)で表され、これを正確に求めるにはイヌリンクリアランスを用いるのがよい。しかし、日常診療でイヌリンクリアランスの検査を実施するには大変手間がかかるため、血清クレアチニン(Cr)値を基にしたCockcroft-Gault(CG)式による推算クレアチニンクリアランス(推算CCr)や日本人向け推算糸球体ろ過量(体表面積補正eGFR)が汎用されている。

    これらは腎機能を評価する簡便な方法として有用であるが、血清Cr値は性別や筋肉量などに左右されるため、患者背景を踏まえて判断する必要がある。また、体表面積補正eGFR(mL/min/1.73m2)は、血清Cr値と年齢、性別で算出され、標準体表面積1.73m2(身長170cm、体重63kg相当)で補正されているため、個々の体格差が考慮されず一定となる(図11)。そのため、薬物投与設計の際は、体表面積未補正eGFR(mL/min)を用いる必要がある。なお、Crは糸球体ろ過後、尿細管からも分泌されるため、実測CCrはGFRより20%~30%値が大きくなるという特徴があり、推算CCrに0.789倍することでGFRとして評価可能である。しかし、推算CCrは加齢により低下しやすいため、この方法は若年者のみにとどめた方が良いと考える。

    ※ 抗がん剤などで用量設定がmg/kgやmg/m2となっている場合には、体表面積補正eGFRを用いる。

    図1:体重と推算CCr、eGFRの関係
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    体重と推算CCr、eGFRの関係

    平田純生, 他: 日腎薬誌 5(1): 3-18 (2016)

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    計算式

    腎機能評価時に特に注意すべき患者(表1)

    表1:腎機能評価時に特に注意すべき患者
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    腎機能評価時に特に注意すべき患者

    平田純生, 他: 日腎薬誌 5(1): 3-18 (2016) より作成

    ① 筋肉量の低下した高齢患者

    腎機能だけでなく筋肉量も加齢とともに低下する。Crは筋肉でのエネルギーの供給源となるクレアチンリン酸のもとになるクレアチンの代謝産物であり、Crの産生量は筋肉量に依存する。このため、やせた高齢者の場合、血清Cr値上昇因子として加齢による腎機能低下がある一方で、血清Cr値低下因子として加齢による筋肉量低下の可能性がある。結果として、たとえ腎機能が低下していても、血清Cr値の増加分が相殺され、推算CCrやeGFRが正常範囲内に収まってしまう「隠れ腎機能低下」が珍しくない。特に、筋肉量の少ない高齢者で血清Cr値が0.6mg/dL未満の場合は、eGFRを使用すると正常値以上の値となり、腎機能が過大評価されることがある。

    こういった患者で腎機能を評価する場合は、実測CCrまたは筋肉量の影響を受けないシスタチンCの測定が望ましいとされる(図22)。また、科学的ではないが、臨床現場ではこのような場合、血清Crに0.6を代入して算出すると腎機能の過大評価を防げるとされている(ラウンドアップ法)1)。ただし、中にはやせていても、毎日元気に農作業に出ているなど、筋肉量が長期臥床患者と比べて多い場合もある。推算式を用いる際は、医療従事者自身の目で、患者の体格と活動度を確認することが極めて重要である。

    図2:血清Cr値およびシスタチンC濃度の年齢層別の変化
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     血清Cr値およびシスタチンC濃度の年齢層別の変化

    Tanaka A, et al.: J Pharmacol Sci 105(1): 1-5 (2007) より改変

    ② 肥満患者

    CG式による推算CCrでは体重を用いるが、身長は考慮されていないため、肥満患者では体重が2倍になれば、腎機能も2倍に推算されて過大評価されるという欠点がある。そのため、肥満患者の推算時は患者の理想体重や補正体重3)を代入する。また、体表面積未補正eGFRでは身長と体重が考慮されているため、そのまま使用することが可能である。

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     肥満患者

    ③ 糖尿病患者

    糖尿病患者では、高血糖により尿細管機能障害が引き起こされている可能性があり、血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、Crの尿細管分泌が増加して腎機能が高く見積もられることがある4)。このような患者では下記のような補正式の使用も提案されている。また、2型糖尿病は他の腎疾患に比べても、罹患からの時間の経過とともに急激に腎機能が低下することがあるので注意が必要である5)

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    糖尿病患者

    帯状疱疹治療で薬剤性腎障害を起こさないためにチェックすべきこと(表2)

    腎排泄性薬剤を投与する際には、前述のような腎機能の評価に加えて、併用薬剤や全身状態などのリスク因子をチェックすることが必要である。

    抗ヘルペスウイルス薬の中には、尿中排泄率が高いが水への溶解度が低い薬物もあり、過量投与は腎後性急性腎障害の原因となる。それに加えて、利尿薬・RAS阻害薬・NSAIDsの併用、夏、不感蒸泄、高齢者、下痢、嘔吐などの虚血因子、といった様々なリスク因子が加わることで、薬剤性腎障害の発症リスクが増大する。

    リスクのある症例に対しては頻回に腎機能モニタリングを行い、脱水にならないような体液管理が重要である。もし、薬剤性腎障害を疑った場合には、原因と考えられる薬剤を可能な限り早期に同定・中止し、適切な処置によりCKDや末期腎不全への進展を防ぐことが必要である。

    表2:投薬時のチェック項目
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    投薬時のチェック項目

    平田 純生 先生 ご提供

    1. 引用文献:
    2. 平田純生, 他: 日腎薬誌 5(1): 3-18 (2016)
    3. Tanaka A, et al.: J Pharmacol Sci 105(1): 1-5 (2007)
    4. Barras M, et al.: Aust Prescr 40(5): 189-193 (2017)
    5. Tsuda A, et al.: Diabetes Care 37(3): 596-603 (2014)
    6. Remuzzi G, et al.: J Clin Invest 116(2): 288-296 (2006)

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