痔瘻(あな痔)
- 監修:
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- 牧田総合病院 肛門科 佐原 力三郎 先生
症状と分類
痔瘻は男性に多い痔です。
肛門陰窩から細菌が入り込み、主に内外肛門括約筋間に存在する肛門腺が化膿し、膿瘍を形成します(肛門周囲膿瘍)。この肛門周囲膿瘍が自然に破れるか、切開を受けることにより膿が排泄され、最初に細菌が入り込んだ原発口と二次口との間に瘻管(ろうかん)ができます。これが痔瘻です。
痔瘻は軟便や下痢に多くみられる傾向にあります。

肛門陰窩から細菌が入りこむ
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肛門腺の炎症が広がり、膿がたまってくる
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二次口から膿が排泄されるが、原発口まで通じる瘻管が残る
症状
- 肛門周囲膿瘍の場合、38~39℃の発熱や激しい痛み、腫れがある。
- 痔瘻の場合、膿が出て下着が汚れる場合がある。
- 腫れや痛み、膿を繰り返すことが多い。
分類
痔瘻は、瘻管の走行部位により、上皮と肛門括約筋と肛門挙筋によってできる直腸周囲の間隙を4つに分ける分類が汎用されています。

〔隅越分類〕
肛門括約筋を貫かないⅠ型、内外肛門括約筋間の痔瘻をⅡ型、肛門挙筋下の痔瘻をⅢ型、肛門挙筋上の痔瘻をⅣ型とし、高位をH(high)、低位をL(low)、瘻管が直線的で単純なものはS(simple)、途中枝分かれをしていて瘻管や瘻孔が複数のものはC(complicated)、Ⅲ型において両側坐骨直腸窩に及ぶものはB(bilateral)、片側のものはU(unilateral)のように分類します。
Ⅰ皮下または粘膜下痔瘻
分類 | 病巣の深さと特徴 | 主な治療法 |
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L 皮下痔瘻 |
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H 粘膜下痔瘻 |
Ⅱ内外肛門括約筋間痔瘻
分類 | 病巣の深さと特徴 | 主な治療法 |
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L 低位筋間痔瘻 | ||
S 単純なもの |
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瘻管が後方にある場合:
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C 複雑なもの | ||
H 高位筋間痔瘻 | ||
S 単純なもの |
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C 複雑なもの |
Ⅲ肛門拳筋下痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻)
分類 | 病巣の深さと特徴 | 主な治療法 |
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U 片側のもの |
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B 両側のもの |
Ⅳ肛門拳筋上痔瘻(骨盤直腸窩痔瘻)
病巣の深さと特徴 | 主な治療法 |
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隅越幸男,高野正博,岡田光生,ほか:痔瘻の分類.日本大腸肛門病会誌 1972;25:177-184,一部改変
治療
痔瘻は自然治癒することがほとんどないので、根治のためには手術治療が原則となります。
手術療法
切開開放術(lay open法)
瘻管の原発口から二次口までを切開し、そのまま縫合しない手術です。瘻管が肛門後方部であれば、肛門括約筋を切除しても肛門の機能には影響なく、再発も少ない方法です。

括約筋温存術式(coring out法)
原則的に瘻管の二次口からくり抜き、瘻管を切除する手術です。
肛門の変形や機能障害を最小限に留めるため、肛門括約筋をなるべく切断せず、傷つけないように行う方法です。
肛門の左右あるいは前方の低位筋間痔瘻に適応です。

シートン法(seton法)
瘻管の原発口から二次口へ、ゴム紐や糸(絹糸)などを通して縛り、時間をかけて瘻管を開放する手術です。
瘻管の遮断が進む一方で開放創が修復するので、肛門の変形・機能障害が少ない方法です。

Hanley変法
原発口から原発巣までを真直ぐに切開し原発巣を開放して、歯状線より外側の内肛門括約筋と皮下外肛門括約筋および浅外肛門括約筋の一部を切開し、原発巣と瘻管内の不良肉芽を掻き出します。その後原発巣の深さと広がりに合わせたドレナージ創を作成する手術です。
肛門括約筋が硬く瘢痕化しており原発巣が大きい痔瘻に適し、根治性に優れた方法です。
(坐骨直腸窩痔瘻の場合)

原発口から原発巣までを真直ぐに切開する
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原発巣の不良肉芽を掻き出す
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二次口を切除し瘻管内の不良肉芽を掻き出す
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ドレナージ創を左右非対称に作成する
インフォームドコンセント
原則として痔瘻の自然治癒は少なく、根治のためには手術が必要です。ただし瘻管のみが残存し、長期間無症状の痔瘻も存在しています。このような痔瘻に手術を行うかどうかは、医師により様々です。
痔瘻は10年以上活動が続くと、痔瘻癌が発生することがあります。
専門医への紹介時期
痔瘻は自然治癒することは少ないため、診断がつき次第、手術の可能な施設に紹介します。
監修医からのワンポイントアドバイス
痔瘻は病態が複雑化しないうちに専門医に紹介することが、患者にも、病診連携にも大切です。
