接触皮膚炎の疫学・病態
接触皮膚炎の疫学・病態
接触皮膚炎の疫学1-3)
湿疹の多くは外的刺激による接触皮膚炎で、皮膚科医が診療する頻度の高い皮膚疾患の1つです。
日本皮膚科学会の学術委員会が2007年5月、8月、11月、2008年2月の四季に行った多施設横断四季別全国調査では、本邦における皮膚科受診患者全体の3.92%(2,643/67,448例)を接触皮膚炎が占めていました。
年齢は全年齢に分布していますが、中でも20~30歳代、50~75歳代に多くみられました(図1)。

接触皮膚炎の病態4,5)
原因物質が接触した部位に限局した浮腫性紅斑、漿液性丘疹、小水疱、びらん、痂皮などがみられます。
境界が比較的明瞭で正常皮膚と区別つきやすい湿疹病変で、強いそう痒を伴います。
掻破によって刺激物が散布された場合、湿疹病変がびまん性に生じます。
刺激が広範囲にわたると、発熱などの全身症状が現れることもあります。
また、刺激が強い場合には皮膚の壊死や潰瘍を形成することがあります。

接触皮膚炎には、以下のような特殊型があります。
- 全身性接触皮膚炎
- 接触皮膚炎症候群
- 光接触皮膚炎
- Riehl黒皮症
- ピアスによる金属皮膚炎
接触皮膚炎の病因6)
接触皮膚炎は、原因物質の毒性により誰にでも生じうる刺激性皮膚炎と、アレルギー機序により感作された人に生じるアレルギー性接触皮膚炎に分けられます。
原因物質は、植物、ニッケルなどの金属、灯油など多岐にわたります。
刺激性接触皮膚炎6)
刺激性接触皮膚炎では、原因物質そのものの毒性によって角化細胞が傷害を受け、リソソームや様々なサイトカインが放出されて炎症反応が引き起こされます。ある一定の閾値以上の刺激によって、初回接触であっても誰にでも発症する可能性があります。
刺激性接触皮膚炎の原因物質には、皮膚炎の発生部位別に以下に示すようなものがあります(表1)。
近年では、頻回の手洗いなどによる皮膚バリア機能の低下を背景に、石鹸やシャンプー、職業性物質など毒性の低い物質の頻回曝露に起因する刺激性接触皮膚炎が増加傾向にあり、職業性皮膚疾患の約8割を占めるといわれています。
部位 | 主な原因 |
---|---|
頭 | シャンプー, 染毛剤, 育毛薬, 帽子, ヘアピン |
顔 | 化粧品, 医薬品, 香水, メガネ, 植物, サンスクリーン |
頸部 | ネックレス, 化粧品, 香水, 医薬品, 衣服 |
体幹, 上肢, 下肢 | 衣服, 洗剤, 金属, 医薬品 |
手足 | ゴム, 皮革製品, 植物, 医薬品, 洗剤, 化粧品, 金属 |
陰部 | 衣服, 洗剤, コンドーム, 避妊用薬品 |
アレルギー性接触皮膚炎6)
アレルギー性接触皮膚炎にはⅣ型アレルギーが関与しています。
体内に侵入した原因物質が表皮の抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞に捕捉され、所属リンパ節に移動します。原因物質の情報が胸腺由来T細胞に伝わり、T細胞がリンパ節で増殖して感作が成立します。感作が成立した後に原因物質が再び体内に侵入すると感作T細胞が活性化され、様々なサイトカインを放出することで炎症反応が引き起こされます。
アレルギー性接触皮膚炎は初回刺激では発症せず、感作した人でのみ発症します。体内に侵入した原因物質が微量であっても発症しうることが特徴です。
以下の表2に示すように、金属、植物、食物、化粧品など生活環境に存在する様々なものが原因物質になりえます。
金属 | ニッケル, コバルト, 水銀, 金, クロム |
---|---|
植物 | ウルシ(ウルシオール), サクラソウ(プリミン), ギンナン(ギンコール酸), キク, ユリ |
食物 | マンゴー(ウルシオール), ギンナン, レタス, タマネギ |
日用品 | デスクマットなどの抗菌製品, ゴム製品(MBT), 衣類, 洗剤, 冷感タオル |
化粧品 | 染毛剤(パラフェニレンジアミン), 各種香料, 保存料 |
医薬品 | NSAIDs外用薬・貼布薬, 消毒薬, 点眼薬, ステロイド外用薬 |
職業性 | 各種金属, 樹脂類(レジン), ゴム製品, 機械油 |
- 日本皮膚科学会:接触皮膚炎診療ガイドライン2020. p526, 2020
- 古江増隆, 山崎雙次, 神保孝一ほか:日皮会誌. 2009;119:1795-1809.
- Furue M, Yamasaki S, Jimbow K, et al.:J Dermatol. 2011;38:310-320.
- 清水宏:あたらしい皮膚科学 第3版. 中山書店, pp114-117, 2018
- 落合慈之 監修, 五十嵐敦之 編集:新版 皮膚科疾患ビジュアルブック. 学研メディカル秀潤社, p27, 2012
- 清水宏:あたらしい皮膚科学 第3版. 中山書店, pp116-119, 2018