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発売3周年記念WEB講演会:これからの帯状疱疹治療~概日リズムとヘルペス感染症


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    山梨大学医学部 皮膚科学講座 教授 川村 龍吉 先生

    川村 龍吉 先生
    山梨大学医学部 皮膚科学講座 教授

    アメナリーフの特徴

    アメナリーフは、ウイルスのDNA複製に必須であるヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の活性を阻害するという、従来の抗ウイルス薬とは全く異なる作用機序を有する抗ヘルペスウイルス薬であり1)、2017年7月に帯状疱疹に対する製造販売承認を取得した。抗ウイルス活性が従来薬のバラシクロビルよりも高く1)、主に糞便中に排泄され、腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに基づく用量調節を必要としない点2)が特徴である。また本剤はバラシクロビルに対して非劣性であることが検証されており3)、服用回数が1日1回と服薬アドヒアランスの向上が期待できる点も大きな特徴となっている()。

    表:アメナリーフの特徴
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    表:アメナリーフの特徴

    ヘルペス感染症の概日リズム

    アメナリーフの用法・用量は、「通常、成人にはアメナメビルとして1回400mgを1日1回食後に経口投与する。」である。帯状疱疹と診断されたら、初日は受診後できるだけ早く軽食をとり服用する。では2日目以降は、朝、昼、夕のどの食後に服用するとよいのだろうか。我々は、ヘルペス感染症の概日リズムを検討し、アメナリーフの抗ウイルス効果が十分に発揮される可能性のある服薬タイミングについて考察した。
    概日リズムを司る遺伝子群を時計遺伝子というが、これまでにClock、Bmal1、PeriodPer )、CryptochromeCry )といった時計遺伝子が同定されており、これらの転写、翻訳が約24時間周期で機能することによって概日リズムを刻んでいる4-6)。時計遺伝子は、かつては視交叉上核にのみ存在すると考えられていたが、現在は臓器を構成する末梢細胞ほぼすべてに存在することがわかっている。概日リズムは各臓器に固有のものもあり、例えば皮膚の場合、日中は皮膚の防御能や厚み、皮脂分泌などが増し、一方で皮膚の細胞増殖は低下するが、夜間になると逆に細胞増殖が亢進する7)
    疾患についても概日リズムの存在が明らかになっているものがある。例えばアレルギー性皮膚疾患の症状は夜間に悪化しやすいという日内変動があるが、その背景には時計遺伝子を介したアレルギー反応の概日リズムが一部関連していると考えられる8)
    これらの知見を受け、我々はヘルペス感染症の概日リズムについて検討した。野生型マウスの背部皮膚に単純ヘルペスウイルス2型(Herpes simplex virus type 2;HSV-2)を注射したHSV-2皮膚感染モデルマウスを用いた検討9)において、HSV-2を夜12時(活動期)に投与したマウスは、昼12時(非活動期)に投与したマウスに比べて生存率、皮疹スコア、麻痺スコアがより重症を示し、皮内ウイルス量はより高値を示した。さらに、より多くの抗ヘルペスウイルス薬を治療に要した。また、HSV-2感染受容体として機能するNectin-1(Pvrl1 )の皮内発現は、Bmal1と同様に夜間に上昇を示した(図1)。Bmal1、Pvrl1 の発現には日内変動がみられ、これらがHSV-2感染症の概日リズムを刻んでいると考えられた。このような概日リズムは、ヒト培養ケラチノサイトを用いたHSV-2感染実験でも同様の結果が得られている(in vitro 10)。なお、夜行性であるマウスの概日リズムはヒトと逆であることから、ヒトでは昼間にHSV-2受容体の発現が亢進して、HSV-2易感染性が高まると考えられた。
    また、Edgarらによるマウスを用いた検討11)では、単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus type 1;HSV-1)のDNA合成では、Bmal1と同調のリズムを刻むことがわかっており、ヒトに置き換えると明け方から徐々に始まり夕方頃にピークを迎える概日リズムがあることが明らかにされている。さらに、HSV-1蛋白合成は夜間に顕著になることが示されている(in vitro )。

    図1:HSV-2感染受容体:Nectin-1の概日リズム
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    図1:HSV-2感染受容体:Nectin-1の概日リズム

    概日リズムを考慮したアメナリーフの朝食後投与

    前述の検討はHSVを用いてマウスで実験したものだが、HSVと水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)の複製過程は相同性が高いことから、両者の感染概日リズムも類似していると考えられる。ゆえに帯状疱疹においても、ヒトに対しては昼間にVZVの生体侵入・細胞間感染が亢進し、ウイルスDNA合成・複製は夕方頃にピークを迎え、ウイルス蛋白合成は夜間にピークを迎えることが示唆される。つまり、アメナリーフは朝食後に服用することで、血中薬物濃度とウイルスDNA合成・複製のピークが重なり、効果が十分に発揮される可能性がある(図2)。したがって、2日目以降のアメナリーフの投与は朝食後が望ましいと考える。

    図2:帯状疱疹の概日リズムからみたアメナリーフの服用タイミング
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    図2:帯状疱疹の概日リズムからみたアメナリーフの服用タイミング
    1. Chono K et al. J Antimicrob Chemother. 65(8)1733(2010)
    2. Kato K et al. Clin Pharmacol Drug Dev. 8(5)595(2019)
    3. Kawashima M et al. J Dermatol. 44(11)1219(2017)
    4. Dibner C et al. Annu Rev Physiol. 72 517(2010)
    5. Takahashi JS et al. Nat Rev Genet. 9(10)764(2008)
    6. Ukai H et al. Annu Rev Physiol. 72 579(2010)
    7. Matsui MS et al. Int J Mol Sci. 17(6)801(2016)
    8. Nakao A et al. Allergy. 70(5)467(2015)
    9. 川村龍吉. 臨皮. 73(5増)53(2019)
    10. Matsuzawa T et al. J Invest Dermatol. 138(1)233(2018)
    11. Edgar RS et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 113(36)10085(2016)

    アメナリーフ®錠200mgの用法・用量(添付文書より一部抜粋)

    6. 用法・用量
    通常、成人にはアメナメビルとして1回400mgを1日1回食後に経口投与する。
    7. 用法・用量に関連する注意
    7.1
    本剤の投与は、発病初期に近いほど効果が期待できるので、早期に投与を開始すること。なお、目安として皮疹出現後5日以内に投与を開始することが望ましい。
    7.2
    本剤は、原則として7日間使用すること。改善の兆しが見られないか、あるいは悪化する場合には、速やかに他の治療に切り替えること。

    Discussion

    ■ 参加者深夜勤務の患者であってもアメナリーフは朝食後に服用したほうがよいのでしょうか。

    ■ 川村概日リズムが乱れている患者を対象に追加的に検討する必要があると思いますが、基本的にはVZVの複製・DNA合成の概日リズムを考慮して朝食後が望ましいと思います。

    ■ 参加者初診で午後に受診した患者で、アメナリーフ投与が夕食後となった場合でも、2日目の投与は朝食後でよいのでしょうか。

    ■ 川村初診では少しでも早く服用すべきと考えますので、夕食まで時間がある場合は簡単な食事をとって30分以内に服用することを促します。翌日は朝食後でよいと思います。

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