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発売3周年記念WEB講演会:帯状疱疹関連痛の最新治療


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    獨協医科大学医学部 麻酔科学講座 教授 山口 重樹 先生

    山口 重樹 先生
    獨協医科大学医学部 麻酔科学講座 教授

    ZAPの二面性を理解した治療選択を

    帯状疱疹関連痛(Zoster associated pain;ZAP)には、帯状疱疹急性期における皮膚組織の炎症に伴った「侵害受容性疼痛」と末梢あるいは中枢神経系の機能異常による「神経障害性疼痛」の2つの側面がある1)。ZAPの初期は主に侵害受容性疼痛であるが、次第に神経障害性疼痛の関与が強まる2)図1)。ZAPへの対応は、臨床経過におけるこの二面性について理解した上で、痛みの病態の変化を早期に捉え、その病態に合わせた治療を行うことが重要である。ZAPはQOL(Quality of life)を著しく低下させることが報告されているが3)、適切なコントロールにより多くは緩和が可能で、QOLも改善できると考える。

    図1:ZAPの臨床経過
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    ZAPの臨床経過

    私の考えるZAPの病態に応じた薬物治療

    日常診療で私がZAPの治療に使用している主な薬剤は、①アセトアミノフェン、②ロキソプロフェン*1(非ステロイド性消炎鎮痛薬:NSAIDs)、③プレガバリン*2、ミロガバリン*3(Ca2+チャネルα2δリガンド)、④アミトリプチリン*3(三環系抗うつ薬)、⑤トラマドール含有製剤*4、⑥フェンタニル製剤*5である。このうち麻薬性鎮痛薬である⑥は、使用にあたり専門知識を要するため、①~⑤の使い分けが重要と考える(図2)。
    帯状疱疹の初期段階における発赤や水疱など組織の炎症による強い痛みには、侵害受容性疼痛に有効なアセトアミノフェンまたはNSAIDsが第一選択と考え、その次にトラマドール含有製剤を検討する。基本は従来型のNSAIDsを使用し、胃粘膜障害や腎機能低下、出血などのリスクが懸念される患者では、炎症所見が強ければNSAIDsの中でもCOX-2選択的阻害薬*1を、炎症所見が弱ければアセトアミノフェンを用いる4)。基礎疾患のない成人でも治療が1ヵ月以上の長期に及ぶと予測される場合、通常のNSAIDsの使用は数日~1週間程度の短期に留め、以降はCOX-2選択的阻害薬またはアセトアミノフェンを用いる。なお、高齢者に対するアセトアミノフェン投与は、1回量を減らすよりも1回量は通常量とし、投与間隔を空ける方が良好な疼痛コントロールが得られやすいと私は感じている。
    痛みの主体が帯状疱疹後神経痛(Post-herpetic neuralgia;PHN)に移行した場合は、神経障害性疼痛に有効なCa2+チャネルα2δリガンドおよび三環系抗うつ薬を第一選択と考え、次にトラマドール含有製剤が有効な選択肢になる。なお、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』の神経障害性疼痛の薬物治療において、Ca2+チャネルα2δリガンドおよび三環系抗うつ薬は第一選択薬、トラマドール含有製剤は第二選択薬に位置付けられている5)。PHNは軽い触覚刺激などにより痛みが生じるアロディニアが特徴的だが、その背景にある神経障害性疼痛を示唆する痛みの性状1))を問診により患者から聞き出すことが重要である。私の経験では、焼けつくようなどと表現される「火」をイメージさせる痛みには、下行性抑制系を賦活して痛みに対する抵抗力を高める作用を有する三環系抗うつ薬、電気が走るようなどと表現される「電気」をイメージさせる痛みには、侵害受容伝達の抑制により痛みの過敏を鎮める作用を有するCa2+チャネルα2δリガンドがより有効な印象を持っている6)

    図2:日常診療においてZAPの治療に使用している主な薬剤(私案)
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    図2:日常診療においてZAPの治療に使用している 主な薬剤(私案)
    表:神経障害性疼痛を疑う兆候
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    表:神経障害性疼痛を疑う兆候

    抗ヘルペスウイルス薬および帯状疱疹ワクチンがZAPに与える影響

    ZAPを悪化させないためには、疼痛コントロールとともに、早期に抗ヘルペスウイルス薬の投与を開始することが重要である。ファムシクロビルを投与した患者では、初回来院時の疼痛重症度のNRS(Numerical rating scale)が4~10であった患者の数は、投与後2ヵ月で減少したことが報告されている7)。ただし、高齢者ではPHNに移行するリスクが若年者よりも高いことに注意が必要である7)。また、帯状疱疹ワクチン接種によりPHNに移行する割合が低下したとの報告もある8)。帯状疱疹の予防と早期治療は、PHNへの移行抑制においても重要である。

    1. 承認外
    2. 【効能・効果】神経障害性疼痛
    3. 【効能・効果】末梢性神経障害性疼痛
    4. 【効能・効果】非オピオイド鎮痛剤で治療困難な慢性疼痛における鎮痛
    5. 【効能・効果】非オピオイド鎮痛剤及び弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛
    1. 小川 節郎 著. 神経障害性疼痛診療ガイドブック. 南山堂(2010)
    2. 比嘉 和夫. 治療. 90(7)2147(2008)
    3. Johnson RW et al. BMC Med. 8 37(2010)
    4. 山口重樹ほか. 臨床化学. 48(3)225(2019)
    5. 日本ペインクリニック学会 編. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版. 真興交易 医書出版部(2016)
    6. 山口重樹ほか. Oncology Nurse. 8(6)80(2015)
    7. Imafuku S et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 28(12)1716(2014)
    8. Oxman MN et al. N Engl J Med. 352(22)2271(2005)

    Discussion

    ■ 浅田PHNの薬物治療を完了するタイミングはどのように決定していますか。

    ■ 山口3ヵ月ごとを目安に薬剤の投与量を減らしてみるよう来院時に問いかけるようにしています。定期的に提案することで、私の経験では1年以内にほとんどの患者が薬物治療を終了しています。通常、薬剤の飲み忘れはよくないことですが、痛みの治療においては痛みの軽減の現れとも捉えられますので、飲み忘れや薬が余るような状況にないか、定期的に確認するとよいと思います。

    ■ 参加者帯状疱疹発症時から強い痛みを訴えている場合、プレガバリンやミロガバリンの処方を検討すべきでしょうか。

    ■ 山口プレガバリンは神経障害性疼痛、ミロガバリンは末梢性神経障害性疼痛が承認された効能・効果ですので、PHNが疑われる場合は処方を検討してもよいと思います。

    ■ 参加者当院では帯状疱疹による初期段階でNSAIDsを処方することは控えているのですが、高齢者でもなく腎機能障害、胃粘膜障害、出血のリスクもない患者であれば投与を検討したほうがよいのでしょうか。

    ■ 山口リスクのない患者であれば、アセトアミノフェンを第一選択とし、効果が弱く感じられる場合にはロキソプロフェンなどのNSAIDsを選択するのも一考だと思います。その際には腎機能への配慮が必要です。また、NSAIDsの投与期間は数日~1週間程度に限定することが重要だと思います。

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