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薬剤師がグングン楽しくなる医療コミュニケーション講座

服薬遵守に関わる患者さんの心理と対応は・・・?

帝京平成大学薬学部教授 井手口 直子 先生

次の設問に対し、正しいものには○を、誤りには×をつけてください。

  • 病気や薬の知識があるほど、患者さんは指示通りに服薬する

  • 薬の自己調節は患者さんにとっての危機対応である

  • 治療に関わる決定や方法などを患者さんに選ばせることでコンプライアンス(服薬遵守)は向上する

  • 医療従事者との良好なコミュニケーションにより、患者さんは知識が増えるよりも「やる気」が上がる

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病気や薬の知識があるほど、患者さんは指示通りに服薬する

解答は×。知識量とコンプライアンス(服薬遵守)が必ずしも相関しないことは、各種の研究で明らかになっています。インターネットでさまざまな情報が手に入る現在、患者さんが情報を見分ける能力を高められるようアドバイスをするのも薬剤師の役割でしょう。「知識がある=正しく服用する、とは限らない」ということは、私たちが患者さんの多様さに対応するためのヒントとなります。

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薬の自己調節は患者さんにとっての危機対応である

解答は○。処方薬の自己調節をする患者さんは少なくありませんね。なぜでしょうか? 一つには、患者さんが自分の疾患を受け入れていないという状況があります。高血圧や糖尿病など、自覚症状に乏しい慢性疾患にありがちですが、医師から「薬を出す」と言われた患者さんは「本当に自分は病気なのだろうか?」と受け入れがたい思いを抱きます。患者さんのこうした心理状態を“否認”と表現しますが、病気を否認している患者さんは服薬も当然否認します。「自分は病気であり、薬を飲まなければいけない」。これは患者さんにとっての“危機状況”となります。

「薬を飲まないようにして治したい」という患者さんの心理を理解する

私たち医療従事者は、「患者さんがきちんと服薬することで病状が回復すれば、薬は減らせる、または止められる」と考えます。しかし、病気と服薬に対する否認があると、「薬をなるべく飲まないようにして、薬を減らしたり、止めたりしたい」と考えるようになります。これが自己調節の一つの心理です。「薬を飲まなければいけない自分」という危機からの脱却方法です。

薬剤師が即答できない質問は、“危機感からの否認”のサインかも

患者さんは自ら「危機感からの否認です」などとはもちろん言いません。そのような自覚はないからです。その代わり「いつまで飲めばよいのですか?」「一生飲まないといけないのでしょうか?」などと質問してきます。薬剤師がすぐに答えられる質問ではありませんね。

即答できない質問には答えてはいけない。逆に質問をするのが原則

こうした質問に薬剤師が「いつまで飲むかについては、何とも言えません。まずは飲んでください」「検査値がよくなるまでは続けてください」などと焦って回答しても、患者さんのニーズに応えられてはいません。即答できないということは、問題の本質が見えていない状況であるため、逆に患者さんに質問して、患者さんの問題を明らかにすることが先決です。例えば「いつまで飲むのか、と不安なお気持ちになっておられるのでしょうか?」と返せば、「先生から『薬を出しましょう』と急に言われてびっくりしているんです」などと、患者さんは不安な気持ちを話してくれるでしょう。患者さんに積極的に質問をすることで、薬剤師としてどのような対応をすればよいかが見えてきます。

患者さんの危機的感情を受け止め、「自己コントロールとしての服用」に意識を切り替えてもらう

「危機感から否認している」という事実を患者さんと共有していくことが必要です。「『検査値が高い』と先生から急に言われて、信じられない気持ちなのですね?」と、まず患者さんの気持ちに寄り添い、「でも、これからはこのお薬が、○○さんが健康を取り戻す助けをしてくれます」と話してみましょう。

否認する患者さんは、昔の自己イメージに固執している

それでも納得できない患者さんも少なくありません。「いいえ、私は今まで薬要らずでずっときたの。ずっと健康だったのよ」とおっしゃる患者さんは、健康だった頃の自己イメージに固執しています。そこでまず「そうですよね。ずっと健康で過ごしてこられたのは、本当にすごいことです」と、まずは認めます。それから「今回受診されたときは、どのようなご体調でいらしたのですか?」と尋ねます。「健康診断で検査値のことを言われて、少しふらつきがあって来たの」と言われたら、薬剤師は「そうでしたか。では、今回はご自分の健康が上手くコントロールできていない状況だったのですね」と現実に目を向けてもらい、「でも心配しないでくださいね。これからは、このお薬で再びご自分の健康をコントロールしましょう」とお話しします。

自己コントロールの欲求が揺らぐことが危機状態

人は自分で自分のことがコントロールできていると安心します。「薬なしではいられない自分」は、その欲求が満たされない危機状態なのです。そんな患者さんの心理を理解すると、コミュニケーションのコツが見えてきます。

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治療に関わる決定や方法などを患者さんに選ばせることでコンプライアンス(服薬遵守)は向上する

解答は○。かつては医療従事者が専門家として検討し、決めたことを、患者さんに良かれと考えて伝えたり行ったりしていました(パターナリズム)。患者さんの自己決定や情報開示、意思尊重は後回しであり、患者さんが服薬や指導を守るコンプライアンス(Compliance)という概念しかなかったのです。
しかし現在は、疾病の知識を十分に持った患者さんが自己の疾病管理にパートナーとして参加し、医師と患者さんが合意に達した診療を行うコンコーダンス(Concordance)と、患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けるアドヒアランス(Adherence)という概念が、服薬をはじめ、患者さんの健康行動概念の基本となっています。自己決定したことは実行率が高いのです。そこで医療従事者は、一方通行的に患者さんに情報提供や指示を行うのではなく、例えば、運動療法や食事療法の選択、薬剤の剤形、服用時点など、患者さんが何かしら自己決定できるような項目や機会を設けるよう努めることが重要です。これをエンパワーメント(Empowerment)といいます。

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医療従事者との良好なコミュニケーションにより、患者さんは知識が増えるよりも「やる気」が上がる

解答は○。コミュニケーションが良好であれば患者さんの行動に表れます。患者さんとのコミュニケーションでは、患者さんの知識を増やすことももちろんですが、患者さんから信頼されることに、より重点を置くことが重要なのです。

患者さんがどのステージにいるかによって対応を変える

薬剤師は、目の前の患者さんが表1のA~Dのいずれに相当するかを意識し、対応を調節する必要があります。患者さんがDに属する場合は表2に示すコミュニケーションスキルが参考になります。

  • 「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~

    ナラティブ:「患者の病と癒しにおける物語」(Maruho Square No.29 本連載①を参照)

    表1.患者さんのステージ別にみた対応のポイント

  • 患者等のニーズに応じて充実・強化すべき機能:健康サポート機能

     
     

    表2. コミュニケーションスキルと発言の一例

まとめ

最初の訴えだけで判断せずに、本音を引き出し、問題解決のサポートができる薬剤師に!

自分の思いやニーズをうまく言語化できる患者さんばかりではありません。最初の訴えだけに左右されず、患者さんの感情に寄り添い本音を引き出すことで、問題解決のサポートができるようになります。

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