皮脂欠乏症の主な原因:アトピー性皮膚炎

監修:東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生

アトピー性皮膚炎(以下、AD)患者の皮膚は外界からの刺激に弱く、容易に皮膚炎を生じてしまいます。ADの治療には食物や環境中の原因・悪化因子を除去する、炎症を抑えるための薬物療法を行うとともに、このような皮膚の生理学的機能異常を補正するためのスキンケアが必要です。皮膚の乾燥はADの症状悪化や難治化につながるため、保湿剤でうるおいを保つことが大切です。

炎症が激しい時の保湿剤の使い方

ステロイド外用薬に保湿剤を追加して皮膚の乾燥を防ぐ

炎症がある時期は、適切なランクのステロイド外用薬で皮疹を抑制します。ただし、その時期には落屑が多く、皮膚の保湿機能も大きく損なわれていることが多いため、夜、保湿剤を塗っても翌朝には皮膚が乾燥してしまうこともしばしばです。そのような場合は朝または昼間にも保湿剤を塗り足すことが必要です。

保湿剤は広い範囲に塗布する

ステロイド外用薬は皮疹が明らかな範囲を中心に塗布します。しかしそれ以外の健康に見える部位でも多くは乾燥状態にあるため、なるべく広い範囲に保湿剤を塗布するようにします。保湿剤は適量を手に取り、手のひらを使って皮膚表面に均一に塗り伸ばします。

抗炎症外用薬と保湿剤を上手に併用する

近年、AD治療に、ステロイド外用薬とは異なる機序で炎症を抑えるタクロリムス軟膏が用いられるようになってきました。ステロイド外用薬以外にタクロリムス軟膏が使用される場合でも保湿剤の使い方に変わりはありません。

炎症が軽快した後の保湿剤の使い方

寛解導入後も保湿剤と抗炎症外用薬を併用する

一見、炎症性皮疹が軽快しても、炎症細胞は残存しており、再び炎症を引き起こしやすい状態は続いています。また外用薬を完全に中止してしまうと、皮膚は乾燥しがちとなり、さまざまな刺激に敏感に反応して皮疹が再燃しやすくなります。そのため寛解導入後も頻度や量を減らしながら抗炎症外用薬を継続塗布した方が再燃予防には有用です。保湿剤の塗布は毎日継続し、寛解維持に努めます。

患者の症状や好みに合った保湿剤を選ぶ

外用アドヒアランス向上のために、患者の症状以外にも剤形や季節、時間帯(朝・夜)、塗布部位などに合わせて保湿剤を選ぶようにします。

アトピー性皮膚炎の寛解維持における保湿剤の有用性の検討

川島 眞ら:日皮会誌, 117(7), 1139-1145, 2007 より一部改変

ADでは角質細胞間脂質や皮表脂質が減少し、健康に見える部位でも皮脂欠乏による乾燥皮膚が生じています。医療現場ではこのような乾燥皮膚に対しても保湿剤が頻用されていますが、ADの寛解維持における保湿剤の有用性について十分な科学的根拠はありませんでした。そこで炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に対する保湿剤の有用性を確認するために、ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%を用いた多施設共同無作為化比較試験(RCT)が実施されました。

試験概要

目的

炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に対する保湿剤の有用性を確認する。

対象

20歳以上65歳未満、頭/頸部、体幹、上肢、下肢のいずれかにADに起因した炎症が鎮静化し、皮疹の重症度が軽微(炎症症状に乏しい乾燥症状が主体)で、乾燥および落屑のスコア(表1)がいずれも1以下となった部位(100cm2を目安)を有するAD患者65例

方法

前観察期間に対象部位へヒルドイド®ソフト軟膏0.3%(以下、HIS)を1日2回塗布した。
前観察期間中に炎症の再燃が認められず、寛解が維持された症例をHIS継続塗布群と無処置群に無作為に割り付け、最大6週間観察した。両群とも炎症の再燃が認められた場合は、直ちに試験を中止し適切な治療を施した。ステロイドおよび免疫抑制薬の全身投与、対象部位への他の外用薬および他の保湿剤の使用、PUVA療法は禁止した。

有効性および
安全性解析対象

HIS継続塗布群:32例、無処置群:33例

評価項目

[主要評価項目]
観察期間中における対象部位の炎症の再燃(炎症症状が軽症以上)の有無を記録し、再燃日を記録した。

[副次評価項目]
各観察日(あるいは中止日)に皮膚所見(乾燥・落屑)、痒みの程度を表12の5段階で評価した。試験期間を通じて発現した有害事象についても記録した。

[安全性]
有害事象

患者背景

すべての項目で群間の偏りは認められなかった。(表3

解析計画

結果は、平均値および標準偏差で表示した。検定はすべて両側検定とし、有意水準は5%とした。

  • 炎症の再燃までの期間
    炎症の再燃までの期間の分布は、Kaplan-Meier法により記述し、log rank検定により群間比較した。
  • 炎症の再燃の有無
    群別に頻度集計を行い、χ2検定により群間比較した。
  • 皮膚所見(乾燥および落屑)スコアおよび痒みスコア
    開始日と最終評価日(6週後あるいは中止時)のスコア変化量を、Wilcoxon順位和検定により群間比較した。

表1:乾燥および落屑のスコア

スコア 乾燥 落屑
0 なし 皮膚乾燥は認められない 落屑は認められない
1 軽微 皮膚がごくわずかに乾燥し、
細かい鱗屑が付着している
ごくわずかに落屑が
認められる
2 軽度 皮膚がわずかに乾燥し、
鱗屑が付着している
わずかに落屑が
認められる
3 中等度 皮膚が明らかに乾燥し、
やや大型の鱗屑が
付着している
明らかな落屑が
認められるい
4 高度 皮膚が高度に乾燥し、
大型の鱗屑が付着している
大量の落屑が
認められる

表2:痒みのスコア

スコア 痒み
0 ほとんど痒みを感じない
1 時にむずむずするが、
掻く程ではない
2 時に手がゆき、
軽く掻く
3 かなり痒くて、
人前でも掻く
4 いてもたっても
いられない痒み

表3:患者背景

項目 HIS継続塗布群 無処置群
安全性・有効性・解析対象 32例 33例
性別 7例 10例
25例 23例
年齢(歳) Mean ± SD 30.1 ± 8.3 29.9 ± 7.9
最年少~最年長 20~53 21~57
重症度 軽症 15例 16例
中等症 17例 16例
重症 0 1例
抗ヒスタミン薬・
抗アレルギー薬の併用
なし 26例 28例
あり 6例 5例

結果

[主要評価項目]

結果① 非再燃率の比較

HIS継続塗布群では12日後から、無処置群では7日後から炎症の再燃が認められ、HIS継続塗布群において有意な寛解維持効果が認められた。(p=0.0117, log rank検定)

図:結果① 非再燃率の比較

結果② 炎症の再燃の有無

観察期間中、炎症の再燃「あり」は、HIS継続塗布群で4例(12.5%)、無処置群では13例(39.4%)であり、HIS継続塗布群において有意に再燃が抑えられた。(p=0.0136, χ2検定)

項目 HIS 継続塗布群 無処置群
炎症再燃なし 28例
(87.5%)
20例
(60.6%)
炎症再燃あり 4例
(12.5%)
13例
(39.4%)

[副次評価項目]

結果③ 乾燥、落屑、痒みスコアの推移および各スコアの変化量

HIS継続塗布群では、最終観察日まで開始日の乾燥、落屑、痒みのスコアが維持された。また、HIS継続塗布群では無処置群に比べて有意に各症状の悪化が抑えられた。

図:結果③ 乾燥、落屑、痒みスコアの推移および各スコアの変化量

*最終観察日までの変化量をWilcoxon順位和検定により検討

● 有害事象

HIS継続塗布群で3例3件(「痔核」、「胃腸炎」、「ざ瘡」各1件)、無処置群で3例3件(「頭痛」、「咽喉頭疼痛」「膿疱性ざ瘡」各1件)発現したが、いずれも試験薬との因果関係は否定され、副作用は認められなかった。

まとめ

ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%の継続塗布は、炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に有用であることが示されました。

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版**では「乾燥した皮膚の保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は、低下した角層水分量を改善し、皮膚バリア機能を回復させ、皮膚炎の再燃予防と痒みの抑制につながる(CQ9:推奨度1、エビデンスレベル:A)」と記載されており、AD治療に保湿剤の塗布が推奨されています。

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版,
日皮会誌, 126(2), 121-155, 2016 ©公益社団法人日本皮膚科学会

ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%の副作用:総投与症例119例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)

ヒルドイド®クリーム0.3%の副作用:総投与症例2471例中23例(0.93%)に認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅(0.12%)等であった。(効能追加時)

ヒルドイド®ローション0.3%の副作用:総投与症例121例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)

ヒルドイド®フォーム0.3%の副作用:総投与症例60例中、1例(1.7%)2件に認められ、そう痒症及び紅斑が各1件(1.7%)であった。(承認時)

アトピー性皮膚炎と皮膚バリア機能の関係

ADや他のアレルギー疾患の発症には、皮膚バリア機能障害が関連していることが最近の研究で報告されています1-3)。2014年に日本において、AD発症リスクの高い新生児に生後1週間以内から毎日保湿剤を使用することで、対照群(必要に応じてワセリンを塗布する)と比較し、ADの発症率を有意に抑制したランダム化比較試験(RCT)(p=0.012, log rank検定)が発表されました4)
また、同年に英米からも同様のRCTが発表され5)、ADの発症に皮膚バリア機能の低下が関与していることが示唆されています。乳児湿疹を発症する乳児の頃からしっかり保湿スキンケアを行うことで皮膚バリア機能を改善しておくことが重要であると考えられています。

  • Lack G:J Allergy Clin Immunol, 121(6), 1331-1336, 2008
  • Martin PE et al.:J Allergy Clin Immunol, 127(6), 1473-1479, 2011
  • Brough HA et al.:J Allergy Clin Immunol, 132(3), 623-629, 2013
  • Horimukai K et al.:J Allergy Clin Immunol, 134(4), 824-830, 2014
  • Simpson EL et al.:J Allergy Clin Immunol, 134(4), 818-823, 2014
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