乳児血管腫の脈管性腫瘍と脈管奇形
- 監修:
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- 地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 皮膚科部長 馬場 直子 先生
脈管(血管やリンパ管)が増殖した病態には、いずれ消失するもの、消失せず全身に広がり予後不良の経過をとるもの、これらの中間的な経過を示すものなどがあります。
従来このような一群の病態を総称して「血管腫」と呼んできましたが、ISSVA(The International Society for the Study of Vascular Anomalies)分類が提唱されて以降、これらの病態は「脈管性腫瘍(vascular tumors)」と「脈管奇形(vascular malformations)」の2つに大きく分けて考えられるようになりました。
すなわち、内皮細胞が腫瘍性あるいは過形成の性格をもつ場合を「脈管性腫瘍」、内皮細胞の増殖を認めず病変を構成する脈管が異常な吻合や構造をもつ場合を「脈管奇形」と呼ぶとされています。
脈管異常(vascular anomalies)
脈管性腫瘍(vascular tumors)
- 腫瘍性又は過形成の内皮細胞を認める
脈管奇形(vascular malformations)
- 内皮細胞の増殖を認めない
- 脈管の異常な吻合、構造を認める
両者の違い1)の例として、乳児血管腫(infantile hemangioma)と脈管奇形の基本的な違いを示します。
乳児血管腫は内皮細胞の増殖を経て次第に消退する経過が特徴ですが、一方、脈管奇形は成長に比例して増大し、治療しなければ生涯存続します。
乳児血管腫 | 脈管奇形 | |
---|---|---|
病因 | 血管内皮細胞の異常増殖 | 生まれつきの形成異常による |
発症時期及び経過 | 乳幼児期 | 治療しなければ生涯続く |
経過 | (増殖期、退縮期、消失期)の3期がある | 成長に比例して増大/少しずつ増大 |
男:女 | 1:3~9 | 1:1 |
細胞 | 内皮細胞のturn-over亢進 肥満細胞数の増加 基底膜の肥厚 |
内皮細胞のturn-over正常 肥満細胞数正常 基底膜は薄い |
増大の起点 | ない(不明) | 外傷、ホルモンの変化 |
病理 | 増殖期、退縮期、消失期に応じて特徴的 GLUT-1※陽性 |
CM、VM、LM、AVMそれぞれの特徴 GLUT-1※陰性 |
治療 | 自然消退、薬物治療、手術、レーザー | 病変に応じてレーザー、手術、塞栓療法、硬化療法など |
- Mulliken JB. et al. Plast Reconstr Surg. 1982; 69: 412-422
出典:
平成26‐28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班:血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017, 第2版, 2017年3月より改変