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maruho square 薬剤師がグングン楽しくなる医療コミュニケーション講座:高齢者のフレイルを防ぐ薬剤師の貢献とは?


  • 帝京平成大学薬学部 教授 博士(薬学) 井手口 直子 先生

超高齢社会である我が国の課題として、高齢者のフレイル(虚弱)を予防することが挙げられます。高齢者は何らかの薬を服用していることも多く、薬剤師が関わることでより効果的な貢献ができます。まずは以下の6項目の検討実施がキーとなります。

効果的な薬剤師のフレイル予防の対策

  1. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を熟知し、至適な薬物療法の実施と評価を行う。
  2. 安全性、有効性を考慮したポリファーマシーの解消を実践する。
  3. 嚥下機能、口腔乾燥を悪化させる薬剤、改善させる薬剤を考慮する。
  4. 認知機能に影響を及ぼす薬剤の影響を考える。
  5. 多職種との連携で患者さんの服薬管理を行う。
  6. 予防としての栄養、食事の管理と運動アドバイスを行う。

高齢者の薬物療法の課題

高齢者の薬物療法における主な課題を認識しましょう。

  • 腎機能 ・ 肝機能低下
  • 多剤併用での、副作用、相互作用、類似薬処方
  • 口腔フレイル、口腔乾燥、嚥下機能低下
  • 認知機能の低下
  • 残薬
  • 筋力低下

フレイルサイクルを断ち切るには様々なかかわりと連携が必要

筋肉低下による運動機能低下、痛み→引きこもり→社会的な孤立→栄養低下→筋肉低下がフレイルサイクルです。このサイクルを断ち切ることが、重要であり、薬物療法と並行して栄養管理、嚥下管理、社会参加へのケアが必要となります。その際には医療、介護の多種専門職との連携が欠かせません。

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を熟知する

高齢者の薬物有害事象は75歳以上の入院患者では15%以上にもみられます1)。日本老年医学会が作成した高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015の「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」、「開始を考慮するべき薬物のリスト」を活用することで、薬物有害事象のハイリスク群である75歳以上の高齢者および、その年齢未満であってもフレイルあるいは要介護状態の高齢者の1ヵ月以上の投与となる慢性期の参考になります(図12)

図1:「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の使用フローチャート1
記事/インライン画像
フローチャート

日本老年医学会/日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 p23

ポリファーマシーの解消のための処方提案のポイント

  • その症状はすでに処方されている薬剤の副作用によるものかどうかをみる必要があります。
  • 疑わしい場合には、投与量や薬剤変更の見直しも考えられます。
  • 服用できていない薬剤があるため、薬が増えてしまっている実態の把握が必要です。
  • 服用できない理由については患者さんや家族、介護者との会話で把握することが重要です。
  • 薬剤量の減少にはなりませんが、服用の負担を低減するために一包化や合剤、口腔崩壊錠なども活用を考えましょう。

ただし単純に減薬を目的化するのではなく、減薬の基準(臨床的に害>益である、減らしても原疾患が悪化しない、症状が出にくい、患者さんの希望)を考慮し、かつ患者さんへ減薬の根拠と有用性を納得していただくようなコミュニケーションが重要になります。薬剤師がお薬相談室で患者さんの転倒原因となりうる作用・副作用をきたす薬剤をチェックし、ポリファーマシー外来と連携をとることで転倒の減少と患者満足を高めた取り組みの報告や3)、入院患者に対して薬剤師が既往歴や腎機能の確認により同効薬の併用、副作用の被疑薬などにより主治医へ減薬提案を行っている施設もあります4)。外来や在宅療養患者においては薬局薬剤師がその役目を行い、有益な減薬プロセスの構築が可能になります。

嚥下機能、口腔乾燥を悪化させる薬剤、改善させる薬剤を考慮する

嚥下機能の低下をみた時には、フレイルと同時に薬剤性を疑う必要があります。薬剤による摂食・嚥下障害の原因は様々ありますが、中枢神経系の抑制による嚥下反射を低下させる薬剤として抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗てんかん薬があり、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬の唾液減少による口腔乾燥、筋弛緩薬による嚥下関連筋の筋力低下、抗悪性腫瘍薬による味覚障害や、NSAIDsなどの消化管潰瘍などによっても引き起こされます。逆に嚥下機能を改善させる薬剤として、嚥下・咳嗽反射の誘発に咽頭におけるサブスタンスPの濃度が重要であるとされており、サブスタンスPの分解酵素阻害作用があるACE阻害薬、脳内ドパミンの放出を促進し嚥下反射を改善させるアマンタジン塩酸塩、シロスタゾール、サブスタンスPの濃度を高める半夏厚朴湯があります5)。また口腔乾燥は抗コリン作用をもつ薬剤全般にあり、多剤併用によってより強く起こるので注意が必要になります。

食欲に影響を与える薬剤を考慮する

食欲に影響を与える薬剤の中で高齢者に多く処方される薬剤として、ジギタリス製剤、テオフィリン製剤(血中濃度上昇による)、メマンチン、プレガバリン(めまいや傾眠による)、睡眠導入剤(代謝低下による作用延長)などがあります。
逆に食欲低下を改善させる薬剤として、六君子湯、シプロヘプタジン塩酸塩(抗コリン作用に注意)、レボドパ製剤、アマンタジン塩酸塩、コリンエステラーゼ阻害薬などがあります6)。多くがダイレクトに食欲を増進させるというよりは、その作用効果に付随して食欲にも改善が期待されるという認識で処方提案を考慮しましょう。

認知機能に影響を及ぼす薬剤の影響を考える

高齢者の薬物有害事象は薬剤起因性老年症候群と呼ばれ、そのうち、記憶障害とせん妄、抑うつが認知障害に関わる症候となります。フレイルと認知障害の双方に関わる薬剤として、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬(中枢神経抑制による認知機能低下)と抗コリン系薬剤が挙げられます7)。特に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、オキシブチニン塩酸塩は、せん妄・認知機能低下・認知症発症に関連することが強く示唆されています。

多職種との連携で患者さんの服薬管理を行う

特に薬剤師は薬剤の有害事象の可能性や発現のモニタリング、適正使用のための服薬管理方法についての情報を多職種と共有し、薬剤の有害事象の予防、早期発見と対応、代替処方の提案に関わる役割を担いましょう。処方についてはポリファーマシーの解消、合剤の活用、口腔崩壊錠の活用が一般的です。

服用管理についてのポイント

  1. 服用時、回数の簡素化の提案:服用回数、服用時が複雑であると、飲み忘れも増えます。その患者さんの生活や、介護者(ヘルパーなど)が介助できる時間に合わせた指示が必要になります。
  2. お薬カレンダー・BOXの活用:残薬や飲み忘れの減少に有意義ですが、認知機能が低下すると、患者単独ではうまく活用できなくなることも多くみられます。
  3. お薬お知らせシステムやロボットの活用:ロボットは服用時に音楽や音声で知らせて服用分のみを差し出すシステムで、まだ充分普及しているとはいえませんが、AIを活用した新しい有効なシステムが開発される可能性は今後高いといえるでしょう。

栄養・運動のアドバイスも薬局で

「健康サポート薬局」制度が2017年に発足し、その役割として薬局から地域住民への健康情報の発信が義務付けられています。近隣の生活者向けにフレイルの予防のための運動や食事のセミナーなどを行いながら、かかりつけ薬剤師として、一人一人の患者さんに目を向け、薬や様々な相談を受けながら必要に応じて受診勧奨や主治医へ服薬状況報告を行えるシステムです。患者さんとの関わりを増やし、健康や服薬についての聞き取りと情報提供のコミュニケーション頻度を上げることで、服薬意識と適正使用、副作用の早期発見への貢献が可能になります。

引用参考文献:
  1. 鳥羽研二、秋山 雅弘、水野有三 ほか 薬剤起因性疾患 日本老年医学会雑誌 36(3):181-185, 1999
  2. 日本老年医学会/日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
  3. 菊地大輝、伊藤浩信、中村節子 ほか 滝沢中央病院におけるお薬相談室とポリファーマシー外来の連携による転倒予防の取り組み 日本転倒予防学会 4(3):35-40, 2018
  4. 馬場安里、樋口則英、橋詰淳哉ほか病棟専任薬剤師による入院患者のポリファーマシーに対する薬剤中止提案の実態調査日本病院薬剤師会雑誌53(9):1125-1129,2017
  5. 深津ひかり 嚥下機能を低下、改善させる薬剤 月刊薬事 59(9):42-46,2017
  6. 野原幹司 食欲を低下・改善させる薬剤 月刊薬事 59(9):37-41, 2017
  7. 秋下雅弘薬物によるフレイルと認知障害を防ぐ老年精神医学雑誌20(増刊号-1):123-128, 2018

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