薬局経営者に聞く:医療に近いドラッグストアとして地域に安心・利便性を提供(3/4)
地域住民の生活動線・医療動線に店舗開設
- ─店作りで最も配慮されている点をお聞かせください。
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【德廣】言うまでもありませんが、薬局は医療提供施設です。それ故、トモズの店舗は全て、明るく見やすく綺麗で整然としています。これは徹底して行っています。われわれ国民は医療機関を選択する場合、清掃も行き届いていない汚らしい病院や診療所には行きません。それと同じことで、医療提供施設だからこそ、徹底して綺麗にしなければなりません。スタッフも、だらしない服装はしていません。創業してから30年が経ちますので、明るく見やすく綺麗で整然とした店作りはDNAとして既に根付いたと、私は考えています。だからこそ、最近ではデベロッパーからも評価されるようになりました。六本木の東京ミッドタウンにもトモズが出店していますが、時々、よそ様から「住友商事系列だから商業施設に入れるのですか?」と訊かれるのですが、全くそうではありません。
地道に綺麗な店舗を作ってきた実績がデベロッパーの目に留まり、お声掛けいただくようになったのです。店頭に安売りのPOPをベタベタ貼るようなドラッグストアでは、商業施設の雰囲気を壊してしまいます。綺麗で整然とした店作りをしてきた弊社の姿勢が評価され、ご指名いただくことが多くなってきたのです。
- ─薬局経営は、2年ごとの診療報酬改定に加え、薬価の毎年改定で厳しい環境が続きます。どのように会社の舵取りをなさっていくお考えでしょうか。
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【德廣】確かに、医療費の削減は今後も国にとって大きな命題であり続けると思います。ただし、だからと言って、何でもかんでも診療報酬や薬価を削ることにはならないと、私は考えています。薬剤師や管理栄養士などの専門職が行う健康寿命を延ばすためのサービスは、国はしっかりと診療報酬上で評価すると思っています。健康寿命の延伸は、結果として医療費の抑制に繋がるからです。


無論、患者様に薬をお渡しするサービスは、国民にとっては必要不可欠です。ただ、それだけですと未病・予防とは距離が生まれてしまいます。しかし、われわれが展開している調剤併設型ドラッグストアは処方箋がなくとも気軽に店舗に入れますので、多くのお客様と接点を持つことが可能ですし、実際に、そうした接点を生かしたサービスを提供しています。そのノウハウを大学病院前の薬局や診療所と連携している、物販を行っていない薬局に導入し、調剤専門薬局だとしても健康相談に対応できる店作りをしていくつもりです。
この循環を社内に構築していくためには、調剤併設型ドラッグストアも必要ですし、高度医療に対応できる薬局も欠かせません。もちろん、全ての機能を装備した薬局を作れば良いのでしょうが、現実的には不可能ですので、立地環境や地域事情に合わせた店舗を作り、患者様やお客様がその必要性に応じて弊社の店舗を選べるようにしていきたいと考えています。一つの企業内で、これが実現できれば情報の共有が図れますので、患者様やお客様にメリットを提供できます。つまり、地域の方々の生活動線と医療動線上に店舗を作っていくことが重要だと思っています。
自信を回復させた日本一プロジェクト
- ─コロナ禍の影響はいかがでしたか。
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【德廣】他社様も同様でしょうが、調剤も物販も相当に苦戦しました。2020年度は冷汗の出そうな決算になりました。それまでの4年間は増収増益でしたので生きた心地がしませんでしたが、苦しい時こそ、何より人材が宝なのだと思い知りました。それは何も薬剤師だけではありません。管理栄養士や登録販売者、そして医療事務、本部メンバーなど全ての社員が宝なのです。
新型コロナ感染症が何者なのか全く分からない流行当初、マスクの不足が社会問題になりました。弊社の店舗でも一時期、マスクの供給が滞りました。マスクを買いに来たお客様が、スタッフがマスクを着けていることを見て、「お前らの分はあるのに、なぜ売るマスクがないのだ」と大声を出されることもたびたびでした。多くの店舗でスタッフが疲弊してしまったことがありまして、営業時間を短縮したほか一斉に休業した時期もありました。その結果、2020年度は痛手を被ったのですが、調剤・物販ともに自信を取り戻せる結果がほしいと、社長として考えました。単純に売り上げを作るということではなく、パートさんも含めて全社員が一丸となれる製品が欲しかったのです。
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そんなことを考えていた頃、たまたま化粧品のバイヤーが、コーセーマルホファーマ株式会社からヘパリン類似物質を主成分とする保湿剤「カルテHD」が発売されるという情報を持ってきました。マルホ株式会社が販売している医療用医薬品「ヒルドイド」の技術を応用した医薬部外品でした。当然、薬剤師は「ヒルドイド」の名称を知っています。直感的に「これを、みんなで売ろう」と考えました。ただ、トータルの販売量では大手ドラッグストアに負けてしまいますが、1店舗当たりの売り上げならば負けるとは限らない。そこで「店当たり日本一プロジェクト」と称したプロモーションを展開しました。
この時、対象製品を薬剤師と全く関係ない、例えば洗剤にしたら、薬剤師と一緒に働いている医療事務職も関係なくなってしまいますし、OTC薬だと登録販売者の資格が必要になります。しかし、医薬部外品ならば薬局のカウンターでも売れますし、パートさんも売れる。薬剤師も医療事務職も登録販売者も、そしてパートさんも一緒になって販売した結果、実際に店舗当たりでは日本一になれた。結果が出たのです。このプロジェクトのお陰で、全社で自信が回復できました。会社の一体感を回復してくれたこの製品に、実は、今でも私はとても感謝しています。
