皮脂欠乏症の主な原因:アトピー性皮膚炎
- 監修:
-
- 東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生
乾燥が起きる機序
皮膚は、表面の皮脂膜やその下の角質細胞、角質細胞間脂質などが皮膚バリア機能の役割を担っており、外界からの異物の侵入や水分の蒸散による皮膚の乾燥を防いでいます。アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis:以下、AD)患者の皮膚では、これらの皮膚バリア機能が低下しているため、外界からの異物が容易に皮膚の中まで侵入しやすく、水分も蒸散しやすい状態になっています。
正常な皮膚
アトピー性皮膚炎患者の皮膚
ADでは特に角質細胞間脂質が減少するため皮膚が乾燥する。
その他の発症原因
近年は、フィラグリン遺伝子変異のAD発症への関与が注目されています。また、フィラグリン遺伝子に異常がなくても、AD患者の多くでは、皮膚組織でのIL-4やIL-13などのTh2サイトカイン優位の環境によりフィラグリンの発現が低下しています。
フィラグリンはケラチン線維を凝集するはたらきとともに、さらに分解されて天然保湿因子として角質の水分保持やpHの低下にはたらきます。したがって、フィラグリン量が減少しやすいAD患者の皮膚は乾燥しており、pHもアルカリ側に傾きがちです。
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版,
日皮会誌, 126(2), 121-155, 2016 ©公益社団法人日本皮膚科学会 より引用
アトピー性皮膚炎に対する保湿剤の使い方
アトピー性皮膚炎(以下、AD)患者の皮膚は外界からの刺激に弱く、容易に皮膚炎を生じてしまいます。ADの治療には食物や環境中の原因・悪化因子を除去する、炎症を抑えるための薬物療法を行うとともに、このような皮膚の生理学的機能異常を補正するためのスキンケアが必要です。皮膚の乾燥はADの症状悪化や難治化につながるため、保湿剤でうるおいを保つことが大切です。
炎症が激しい時の保湿剤の使い方
- ステロイド外用薬に保湿剤を追加して皮膚の乾燥を防ぐ
炎症がある時期は、適切なランクのステロイド外用薬で皮疹を抑制します。ただし、その時期には落屑が多く、皮膚の保湿機能も大きく損なわれていることが多いため、夜、保湿剤を塗っても翌朝には皮膚が乾燥してしまうこともしばしばです。そのような場合は朝または昼間にも保湿剤を塗り足すことが必要です。 - 保湿剤は広い範囲に塗布する
ステロイド外用薬は皮疹が明らかな範囲を中心に塗布します。しかしそれ以外の健康に見える部位でも多くは乾燥状態にあるため、なるべく広い範囲に保湿剤を塗布するようにします。保湿剤は適量を手に取り、手のひらを使って皮膚表面に均一に塗り伸ばします。
- 抗炎症外用薬と保湿剤を上手に併用する
近年、AD治療に、ステロイド外用薬とは異なる機序で炎症を抑えるタクロリムス軟膏が用いられるようになってきました。ステロイド外用薬以外にタクロリムス軟膏が使用される場合でも保湿剤の使い方に変わりはありません。
炎症が軽快した後の保湿剤の使い方
- 寛解導入後も保湿剤と抗炎症外用薬を併用する
一見、炎症性皮疹が軽快しても、炎症細胞は残存しており、再び炎症を引き起こしやすい状態は続いています。また外用薬を完全に中止してしまうと、皮膚は乾燥しがちとなり、さまざまな刺激に敏感に反応して皮疹が再燃しやすくなります。そのため寛解導入後も頻度や量を減らしながら抗炎症外用薬を継続塗布した方が再燃予防には有用です。保湿剤の塗布は毎日継続し、寛解維持に努めます。 - 患者の症状や好みに合った保湿剤を選ぶ
外用アドヒアランス向上のために、患者の症状以外にも剤形や季節、時間帯(朝・夜)、塗布部位などに合わせて保湿剤を選ぶようにします。
アトピー性皮膚炎の寛解維持における保湿剤の有用性の検討
ADでは角質細胞間脂質や皮表脂質が減少し、健康に見える部位でも皮脂欠乏による乾燥皮膚が生じています。医療現場ではこのような乾燥皮膚に対しても保湿剤が頻用されていますが、ADの寛解維持における保湿剤の有用性について十分な科学的根拠はありませんでした。そこで炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に対する保湿剤の有用性を確認するために、ヒルドイドソフト軟膏0.3%を用いた多施設共同無作為化比較試験(RCT)が実施されました。
試験概要
- 目的
- 炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に対する保湿剤の有用性を確認する。
- 対象
- 20歳以上65歳未満、頭/頸部、体幹、上肢、下肢のいずれかにADに起因した炎症が鎮静化し、皮疹の重症度が軽微(炎症症状に乏しい乾燥症状が主体)で、乾燥および落屑のスコア(表1)がいずれも1以下となった部位(100cm2を目安)を有するAD患者65例
- 方法
- 前観察期間に対象部位へヒルドイドソフト軟膏0.3%(以下、HIS)を1日2回塗布した。
前観察期間中に炎症の再燃が認められず、寛解が維持された症例をHIS継続塗布群と無処置群に無作為に割り付け、最大6週間観察した。両群とも炎症の再燃が認められた場合は、直ちに試験を中止し適切な治療を施した。ステロイドおよび免疫抑制薬の全身投与、対象部位への他の外用薬および他の保湿剤の使用、PUVA療法は禁止した。 - 有効性および
安全性解析対象 - HIS継続塗布群:32例、無処置群:33例
- 評価項目
- [主要評価項目]
観察期間中における対象部位の炎症の再燃(炎症症状が軽症以上)の有無を記録し、再燃日を記録した。
[副次評価項目]
各観察日(あるいは中止日)に皮膚所見(乾燥・落屑)、痒みの程度を表1、2の5段階で評価した。試験期間を通じて発現した有害事象についても記録した。
[安全性]
有害事象 - 患者背景
- すべての項目で群間の偏りは認められなかった。(表3)
- 解析計画
- 結果は、平均値および標準偏差で表示した。検定はすべて両側検定とし、有意水準は5%とした。
- 炎症の再燃までの期間
炎症の再燃までの期間の分布は、Kaplan-Meier法により記述し、log rank検定により群間比較した。 - 炎症の再燃の有無
群別に頻度集計を行い、χ2検定により群間比較した。 - 皮膚所見(乾燥および落屑)スコアおよび痒みスコア
開始日と最終評価日(6週後あるいは中止時)のスコア変化量を、Wilcoxon順位和検定により群間比較した。
- 炎症の再燃までの期間
スコア | 乾燥 | 落屑 | |
---|---|---|---|
0 | なし | 皮膚乾燥は認められない | 落屑は認められない |
1 | 軽微 | 皮膚がごくわずかに乾燥し、細かい鱗屑が付着している | ごくわずかに落屑が 認められる |
2 | 軽度 | 皮膚がわずかに乾燥し、鱗屑が付着している | わずかに落屑が 認められる |
3 | 中等度 | 皮膚が明らかに乾燥し、やや大型の鱗屑が付着している | 明らかな落屑が 認められる |
4 | 高度 | 皮膚が高度に乾燥し、大型の鱗屑が付着している | 大量の落屑が認められる |
スコア | 痒み |
---|---|
0 | ほとんど痒みを感じない |
1 | 時にむずむずするが、掻く程ではない |
2 | 時に手がゆき、軽く掻く |
3 | かなり痒くて、人前でも掻く |
4 | いてもたってもいられない痒み |
項目 | HIS継続塗布群 | 無処置群 | |
---|---|---|---|
安全性・有効性・解析対象 | 32例 | 33例 | |
性別 | 男 | 7例 | 10例 |
女 | 25例 | 23例 | |
年齢(歳) | Mean ± SD | 30.1 ± 8.3 | 29.9 ± 7.9 |
最年少~最年長 | 20~53 | 21~57 | |
重症度 | 軽症 | 15例 | 16例 |
中等症 | 17例 | 16例 | |
重症 | 0 | 1例 | |
抗ヒスタミン薬・ 抗アレルギー薬の併用 |
なし | 26例 | 28例 |
あり | 6例 | 5例 |
結果
[主要評価項目]
結果① 非再燃率の比較
HIS継続塗布群では12日後から、無処置群では7日後から炎症の再燃が認められ、HIS継続塗布群において有意な寛解維持効果が認められた。(p=0.0117, log rank検定)
結果② 炎症の再燃の有無
観察期間中、炎症の再燃「あり」は、HIS継続塗布群で4例(12.5%)、無処置群では13例(39.4%)であり、HIS継続塗布群において有意に再燃が抑えられた。(p=0.0136,χ2検定)
項目 | HIS 継続塗布群 | 無処置群 |
---|---|---|
炎症再燃なし | 28例 (87.5%) |
20例 (60.6%) |
炎症再燃あり | 4例 (12.5%) |
13例 (39.4%) |
[副次評価項目]
結果③ 乾燥、落屑、痒みスコアの推移および各スコアの変化量
HIS継続塗布群では、最終観察日まで開始日の乾燥、落屑、痒みのスコアが維持された。また、HIS継続塗布群では無処置群に比べて有意に各症状の悪化が抑えられた。
有害事象
HIS継続塗布群で3例3件(「痔核」、「胃腸炎」、「ざ瘡」各1件)、無処置群で3例3件(「頭痛」、「咽喉頭疼痛」「膿疱性ざ瘡」各1件)発現したが、いずれも試験薬との因果関係は否定され、副作用は認められなかった。
まとめ
ヒルドイドソフト軟膏0.3%の継続塗布は、炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のADの寛解維持に有用であることが示されました。
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版**では「乾燥した皮膚の保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は、低下した角層水分量を改善し、皮膚バリア機能を回復させ、皮膚炎の再燃予防と痒みの抑制につながる(CQ9:推奨度1、エビデンスレベル:A)」と記載されており、AD治療に保湿剤の塗布が推奨されています。
**日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版,
日皮会誌, 126(2), 121-155, 2016 ©公益社団法人日本皮膚科学会
ヒルドイドクリーム0.3%の副作用:総投与症例2471例中23例(0.93%)に認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅(0.12%)等であった。(効能追加時)
ヒルドイドローション0.3%の副作用:総投与症例121例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
ヒルドイドフォーム0.3%の副作用:総投与症例60例中、1例(1.7%)2件に認められ、そう痒症及び紅斑が各1件(1.7%)であった。(承認時)
川島 眞ら:日皮会誌, 117(7), 1139-1145, 2007 より一部改変
アトピー性皮膚炎と皮膚バリア機能の関係
ADや他のアレルギー疾患の発症には、皮膚バリア機能障害が関連していることが最近の研究で報告されています1-3)。2014年に日本において、AD発症リスクの高い新生児に生後1週間以内から毎日保湿剤を使用することで、対照群(必要に応じてワセリンを塗布する)と比較し、ADの発症率を有意に抑制したランダム化比較試験(RCT)(p=0.012, log rank検定)が発表されました4)。
また、同年に英米からも同様のRCTが発表され5)、ADの発症に皮膚バリア機能の低下が関与していることが示唆されています。乳児湿疹を発症する乳児の頃からしっかり保湿スキンケアを行うことで皮膚バリア機能を改善しておくことが重要であると考えられています。
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- Horimukai K et al.:J Allergy Clin Immunol, 134(4), 824-830, 2014
- Simpson EL et al.:J Allergy Clin Immunol, 134(4), 818-823, 2014
参考
皮膚バリア機能を高めておき、外界からのアレルゲン侵入を防ぐことが重要な理由は、「アレルゲンの侵入による経皮感作」とその後の「アレルギーマーチへの進展」を防ぐことができる可能性があると示唆されているためです。
子供の成長に伴い、アレルギーの症状がアトピー性皮膚炎から始まって年齢を重ねるとともに喘息、アレルギー性鼻炎に変動していく状況のことを「アレルギーマーチ1)」と言います。
最近では、このアレルギーマーチの始まりに経皮感作が関与している可能性が報告されており2,3)、乳児湿疹を発症する乳児の頃からしっかり保湿スキンケアを行うことで皮膚バリア機能を改善しておくことが重要であると考えられています4)。
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ガイドライン情報
日本皮膚科学会・日本アレルギー学会発行「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」において、保湿剤の塗布が推奨されています。
日本皮膚科学会・日本アレルギー学会発行「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」
CQ9.アトピー性皮膚炎の治療に保湿剤外用はすすめられるか。
推奨文 | 皮膚炎の状態に対してはステロイド外用剤やタクロリムス外用剤と併用して保湿剤を外用することがすすめられる。また、急性期の治療によって皮膚炎が沈静化した後も、保湿剤の外用を継続することがすすめられる。 | ||
---|---|---|---|
推奨度 | 1 | エビデンス レベル |
A |
解説 | 皮膚の乾燥はアトピー性皮膚炎の主症状の一つであり、表皮のバリア機能を低下させる原因の一つと考えられる。保湿剤の外用は、低下している角質水分量を上昇させ、皮膚の乾燥の症状やかゆみを軽減する1-7)。また、出生直後から保湿剤の外用によるスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げるという報告もみられる8,9)。皮膚炎そのものに対する直接的な効果は期待できないが、抗炎症作用のあるステロイド外用剤と併用することで、乾燥症状やかゆみをより改善し、皮膚炎の症状が軽快した後の寛解状態の維持に効果的である10)。また、治療によって皮膚炎が寛解した後にも保湿剤の外用を継続することは、皮膚炎の再燃を予防し、かゆみが軽減した状態を保つために有効である11,12)。ただし、保湿剤による接触皮膚炎などの有害事象が起こりうることに注意しなくてはならない。 |
日本皮膚科学会, 日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018,
日皮会誌, 128(12), 2431-2502, 2018 ©公益社団法人日本皮膚科学会 より引用
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日本皮膚科学会・日本アレルギー学会発行「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」
3.4 スキンケア
(1)保湿外用剤
アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能と保湿因子が低下している。角質層内の水分含有量は低下し、特徴的なドライスキンとなる。そのため非特異的刺激による皮膚のかゆみを生じやすく、また、種々のアレルゲンの侵入が容易になり、皮膚炎を惹起しやすいと考えられている。保湿外用剤(保湿剤・保護剤)の使用は、アトピー性皮膚炎で低下している角質層の水分含有量を改善し、皮膚バリア機能を回復・維持することで、アレルゲンの侵入予防と皮膚炎の再燃予防、痒みの抑制につながる1-3)。
(CQ9:推奨度1,エビデンスレベル:A)また、出生直後から保湿外用剤によるスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げる4,5)。
ドライスキンに対するスキンケアの要点は、低下している皮表の保湿性を補うために保湿性の高い親水性軟膏(oil in water:O/W)や吸水性軟膏(water in oil:W/O)を外用することである。保湿性の高い親水性軟膏と吸水性軟膏としては、ヘパリン類似物質含有製剤や尿素製剤がある。傷害された皮膚のバリア機能を補充・補強または代償するためには、白色ワセリンや亜鉛華軟膏などの、皮膚に対して保護作用がある油脂性軟膏を外用する(表)。
表:保湿・保護を目的とした主なスキンケア外用薬
一般名 | 代表的な製品名 |
---|---|
ヘパリン類似物質 含有製剤 |
ヒルドイドクリーム※ ヒルドイドソフト軟膏※※ ヒルドイドローション |
尿素製剤 | ケラチナミンコーワクリーム※ パスタロンソフト軟膏※※ パスタロンクリーム※ パスタロンローション ウレパールクリーム ウレパールローション |
一般名 | 代表的な製品名 |
---|---|
白色ワセリン | 白色ワセリン サンホワイト(精製ワセリン) プロペト(精製ワセリン) |
亜鉛華軟膏 | 亜鉛華軟膏 亜鉛華単軟膏 |
その他 | アズノール軟膏※※※ |
※基剤は親水性軟膏(oil in water : O/W)、※※基剤は吸水性軟膏(water in oil : W/O)、※※※基剤は精製ラノリン・白色ワセリン含有
外用回数は1日1回の外用よりも1日2回(朝・夕)の外用の方が保湿効果は高く6)、そのうち1回は入浴直後が望ましい。また、塗布量の目安にはfinger tip unitを用いる。第2指の先端から第1関節部まで口径5mmのチューブから押し出された量(約0.5g)が英国成人の手掌で2枚分すなわち成人の体表面積のおよそ2%に対する適量であることが示されている7-9)。(finger tip unit)一般的に、アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、病変部位だけでなく、正常に見える部分も経皮的水分喪失(transepidermal water loss:TEWL)が多く、ドライスキン状態にある10)。そのため、保湿外用剤は正常に見える部位も含めて全体に塗布し、皮膚炎の部位には抗炎症作用のある外用剤を併用する。また、抗炎症作用のある外用薬などの治療で皮膚炎が寛解した後にも保湿外用剤を継続して使用することは、寛解状態の維持に有効である11)。保湿外用剤による維持療法中に皮膚炎の再燃がみられた部位には、炎症の程度に応じてステロイド外用剤やタクロリムス軟膏を使用し、炎症の早期の鎮静化と維持療法への回帰を目指す。なお、稀に保湿外用薬の副作用による接触皮膚炎を生じることがあり、アトピー性皮膚炎の再燃との鑑別が重要である。
ステロイド外用剤と保湿外用剤の混合など、2種類以上の外用剤を独自に混合して処方をすることは、薬剤の安定性や経皮吸収性が変化することが予想されるため安易に行うべきではない。
日本皮膚科学会, 日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018,
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