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maruho square リスクマネジメント:小児アレルギーエデュケーターの役割


  • 社会医療法人 財団新和会 八千代病院 薬剤部/藤田医科大学 医学部 小児科 医学研究科 近藤 佳代子 先生

はじめに

小児アレルギーエデュケーター(以下、PAE)とは、一般社団法人(一社)日本小児臨床アレルギー学会が平成21年度から開始したアレルギー医療に関わる専門医療従事者の認定制度です。高度なアレルギー診療の知識と患者教育に必要な行動医学的技術を身につけた医療従事者が、より良い医療の担い手として臨床現場で活躍するための認定制度で、チーム医療の基本となるものです(図1)。
現在約450名のPAEが臨床にとどまらず、各地でのアレルギーに関連したイベントや、幼稚園、保育所、学校現場での啓発活動を行っています。しかし薬剤師の有資格者は少数です。ぜひ皆さんに興味を持っていただき一緒に学んでもらえるように、どのような職能なのかについてご紹介します。

図1:小児アレルギーエデュケーター資格取得プロセス
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図1.小児アレルギーエデュケーター資格取得プロセス

出典:小児アレルギーエデュケーター試験実施要項2019年度(第11期)より抜粋

アレルギーマーチの進展を予防

乳幼児期のアトピー性皮膚炎を始まりとし、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎と、次々と異なる時期にアレルギー疾患が出現してくることを「アレルギーマーチ」と呼びます(図2)。遺伝要因や環境要因など様々な原因や悪化因子が関連していることから、小児期の早期診断、早期介入が重要となります。また、長期に治療が必要となることから、PAEは正しい知識の情報提供、治療薬のアドヒアランス向上のため、ガイドラインに則った専門的な治療を学ぶだけではなく、行動科学マネジメントを取り入れることにより、アレルギー疾患を持つ子どもたちのQOL改善に貢献します。

図2:アレルギーマーチ
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図2.アレルギーマーチ

独立行政法人環境再生保全機構『ぜん息悪化予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック』(平成21年7月発行)より
出典: https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/archives_1028.html

代表的な疾患の指導ポイント

気管支喘息

アレルゲンの侵入や環境要因による刺激によって慢性的に気道炎症が起こっている病態です。治療目標は日常生活に支障がないレベルに寛解状態を維持することになります。そのためには、患児の重症度を評価し治療ステップに適した薬剤を正しく使用することが重要です。薬剤師は疑義照会ができるので、処方薬が適しているかを評価し、薬剤の選択について医師と相談します。喘息治療管理料の算定も施設によって可能です。
発作の苦しい時期を脱すると、患児は薬剤の使用を中止しがちになるので、服薬アドヒアランスを向上させるため、PAEは病態を教育したり、なぜ薬剤を使い続けなければならないのかを理解してもらうための介入を行います。また、吸入薬は患児の年齢や生活環境、理解度を考慮し、患児に適したデバイスの選択やスペーサーを導入するなど工夫が必要となります。

食物アレルギー

本来問題なく摂取できる食物に対してIgE抗体が産生され、異物として自己免疫が反応する疾患です。現在は食べられるものは摂取しながら治療します。食物アレルギーで起こる症状は、生命に関わるアナフィラキシー症状に進展することがあるので、その治療薬であるアドレナリン注射液(エピペン)を正しく使用する必要がありますが、注射剤であるため、子どもに使用することは躊躇されがちです。また、毎日定期的に投与するインスリンなどと異なり、患児、保護者、園や学校職員にとって投与すべき症状の判断は困難です。より具体的な症状、使用するタイミング、管理方法などを理解度に合わせて指導する必要があります。特に、緊急時のシミュレーション研修を定期的に行うことで、集団生活の中でスムーズに対応することが可能となります。PAEは各自治体や教育現場で緊急時対応研修を行い、啓発活動に貢献しています(写真)。

写真:小学校での食物アレルギー緊急時対応研修(「エピペン研修」)の様子
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写真.小学校での食物アレルギー緊急時対応研修(「エピペン研修」)の様子

アトピー性皮膚炎

皮膚のバリア機能が低下し炎症が起こることで様々な症状を呈します。皮膚の機能が十分に発達していない低年齢児ほど、皮膚のバリア機能に異常が起こり外部からの刺激に反応しやすくなります。最近では乳幼児期のスキンケアが食物アレルギー発症予防につながるとの報告もあります。治療薬であるステロイド外用剤と保湿剤を正しく使用することで炎症を抑制し、バリア機能を向上させ症状をコントロールします。お肌をツルツルすべすべにして寛解状態を維持することが治療目標となります。
しかしながら、ステロイドの副作用ばかりに注目した情報を広告するアトピービジネスに付け込まれる患者さんが絶えません。すぐに命に関わる症状ではないために、不安感を利用され、健康食品や入浴剤、医薬品ではないクリームや、気功や生活水などまで様々な高額商品を購入し、それで治ると宗教のように信じてしまっています。PAEは正しい情報を患者教育し、ガイドラインに則った治療が実施できるように日常生活のケア方法まで指導して信頼関係を築くことが重要です。

服薬アドヒアランス向上のための服薬指導

アレルギー疾患の治療には正しい知識の情報提供が重要ですが、患児、保護者が納得しなければ適切な治療行動につながりません。特に小児の場合、普段の食事ですら好き嫌いがあるのに、自ら望んで薬を飲んでくれたり、注射されたり、ベタベタする塗り薬を毎日何回も塗布されることに抵抗を示さないことは稀であると考えられます。
アレルギー疾患の治療は長期に取り組まなければならないことから、患児、保護者との信頼関係の構築がアドヒアランスに影響します。そこでPAEは行動科学療法、認知行動療法などを用いて患児、保護者の気持ちに寄り添い、正しい知識を押しつけでなく理解できるように教育し、患児、保護者自らが自身の現状に気づき、治療に前向きに取り組めるよう導くことに努めます。

医療行為の最終段階に関わる薬剤師

患者さんが病気になって病院に受診し帰宅するまでの過程で、最後に関わる医療従事者が薬剤師です。そこで間違った情報提供をしてしまうと、医師の意図する治療から外れてしまう恐れがあります。最新のガイドラインを把握し、医師の処方意図を理解した服薬指導ができるよう、薬剤師は常に勉強することが求められると考えます。

おわりに

薬剤師は処方薬のことだけではなく、疾患の予防や日常生活の相談にも関わります。PAEは、アレルギー疾患治療の専門的知識の提供のみならず、予防のための講習会や、園・学校での緊急対応研修の実施、アドヒアランス向上のための生活の相談、行動科学を用いた療養指導まで幅広い活躍ができる役割を担っています。療養指導のテクニックはアレルギー疾患に限ったものではありません。患者さんの気持ちに寄り添い信頼関係を築き、アドヒアランスを向上させることができるため、様々な慢性疾患の患者さんへの指導に役立ちます。
平成26年アレルギー疾患対策基本法が制定され、増え続けるアレルギー疾患対策のために薬剤師の責務・育成について明記されました。ぜひ薬剤師の皆さんにはPAEになって、様々な場所で活躍していただきたいと思います。

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