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maruho square 保険薬局マネジメント:競技者をドーピング違反から守るために―スポーツファーマシストの活動の実際


ドーピングは競技者の身体に悪影響を与えるのみならず、フェアプレー精神に反する行為であり、社会に与える衝撃は大きい。スポーツファーマシスト(SP)は日本アンチ・ドーピング機構の認定を受けて活動する薬剤師であり、薬の使用に関する情報提供や啓発活動を行い、ドーピング違反を防止することが使命の1つである。株式会社マルゼンマルゼン薬局(神奈川県川崎市)では、SPが日常業務の中でドーピング禁止薬に関する問い合わせを受け付けている。その体制とSPの実状、今後の展望などについて、川島先生に伺った。

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株式会社マルゼン マルゼン薬局 薬剤師 川島 大希 先生
  • 株式会社マルゼン マルゼン薬局 薬剤師 川島 大希 先生

保険薬局内で専門性を高めるスポーツファーマシストとは?

公認スポーツファーマシスト(以下、SP)とは、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(以下、JADA)の定める所定の課程を修了した薬剤師が認定される資格であり、SPは最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有している。主な活動は競技者・指導者などのスポーツ関係者のみならず、一般市民や学校教育現場に対して、アンチ・ドーピング情報を介した医薬品、漢方薬、サプリメントなどの使用に関する情報提供や啓発活動を行うほか、禁止物質、禁止方法を治療のために使用する際に必要となる治療使用特例(TUE:therapeutic use exemptions)への申請対応など多岐にわたる。
しかし、スポーツ関係者や一般市民におけるSPの認知度は高くなく、資格を十分に活用できていないSPが多いのが現状だ。川島先生もその1人であった。先生は「自分の強み(専門性)を持って業務にあたりたい」と考え、2011年にSPの資格を取得したが、当初は相談への対応に必ずしも自信を持っていたわけではないという。

マルゼン薬局(川崎市中原区上小田中3-26-1)
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マルゼン薬局

ドーピング禁止薬に関する問い合わせが徐々に増加 迅速で正確な回答めざし、SP不在時のフローを作成

その後、川島先生はJADAのSP検索サイトへ自身の情報を登録・公開するとともに、薬局内にSPの概要を説明するコーナー(写真)を設置するなどしてSP活動を開始した。JADAのSP検索サイトを閲覧した指導者から「選手が喘息の吸入薬を使っているが、ドーピングに該当しないか」という電話相談を受けたのを皮切りに、ドーピング禁止薬に関する問い合わせに対応するようになったと川島先生は話す。
問い合わせ件数は、2014年1月~2016年4月に17件(医療用医薬品14件、一般用医薬品2件、漢方薬1件、健康食品/サプリメント1件;重複あり)、2016年5月~2018年4月に16件(医療用医薬品14件、健康食品/サプリメント1件、その他1件)であったが、2018年5月以降は増加傾向がみられるそうだ。「電話での問い合わせがほとんどですが、処方箋を持参されるケースもありますし、リピーターの方も増えてきています」と川島先生は付け加えた。

薬局内にSPの概要についてのコーナーを設置
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写真.薬局内に掲示しているSPの概要紹介

写真:薬局内に掲示しているSPの概要紹介

このような中、「相談者は速やかな回答を期待していると考えられ、SPとしては迅速かつ正確に回答することが望ましい」と考えた川島先生は、SP不在時でも他の薬剤師がドーピングの問い合わせに対応できるように業務の流れをフロー化した(図1)。具体的には、ドーピングに関する問い合わせがあれば、調査薬剤の聞き取りを行い、『global DRO(https://www.globaldro.com/JP/search)』の検索サイトおよび最新の『禁止表国際基準』『薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック』を用いて禁止物質か否かを判断し、回答した上で、問い合わせ用紙に相談内容および回答を記載し、global DROの出力内容などとともに保管するというもの。回答時には、必ず調査薬剤を再確認し、原則、global DROの出力内容とともに回答書を交付(電話回答の場合はなし)する。
ただし、日本国内で独自に開発・臨床応用され海外未発売の新薬などは最新版の禁止表国際基準に掲載されていないことがあり、global DROでは検索できない。こうした薬剤をはじめ、禁止物質か否かの判断に迷う場合には、都道府県薬剤師会のホットラインにFAXで問い合わせるほか、必要があれば製造・販売メーカーにも確認するという。「global DROは誰でも検索可能です。しかし、添付文書やインタビューフォームなどで構造式や代謝物、作用機序などの情報を得て、ある程度の推測を基にして禁止物質か否かを判断できるのは薬剤師ならではだと考えています」(川島先生)。
2016年5月~2018年4月に受けた問い合わせの過半数に対しては当日中に回答できており(図2)、川島先生は「SP不在時の問い合わせフローに基づく体制を整備したことにより、比較的迅速に正確な回答ができているように思います」と話した。

図1:ドーピングに関する問い合わせへの対応フロー
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図1:ドーピングに関する問い合わせへの対応フロー
図2:問い合わせから回答までに要した日数(2016年5月~2018年4月 計16件)
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図2:問い合わせから回答までに要した日数(2016年5月~2018年4月 計16件)

禁止薬の代替薬提案、TUE申請に関する情報提供や漢方薬、健康食品/サプリメントへの注意喚起も

前述した一連の流れの中で、禁止物質であると判断され、代替薬がない場合はTUEに事前申請し、承認を得て使用することになる。しかし申請には一定の条件を満たす必要があること、競技者やそのレベル、競技大会の区分によって申請の詳細が異なることなどから、SPによる情報提供などの支援が必要となる。
実際、川島先生は、一部を除き、常に禁止される物質に該当する喘息治療薬のβ2刺激薬を吸入していた競技者に対して代替薬を提案したり、使用が常に禁止されている糖尿病治療薬のインスリンを使用していた1型糖尿病の競技者に対してTUE申請をサポートしたりしたそうだ。その他に、医療用医薬品に関する問い合わせは多いものの、一般用医薬品や漢方薬、健康食品/サプリメントの問い合わせは少ないことから、川島先生は問い合わせ者に対して、それらによる「うっかりドーピング」の注意喚起を行い、それらを使用する場合には必ず相談してほしい旨を伝えていると話した。

スポーツ関係者や一般市民への啓発活動などSP同士が繋がり能動的な活動をめざす

川島先生は、「私たちSPの情報提供により、競技者がドーピング違反を未然に回避し、安心・安全に薬剤を服用できることがやりがいに繋がっています」と話す。現在、実務実習の薬学生にSPの資格概要、業務内容、やりがいなどを伝え、フローに基づいて問い合わせ例への対応を学んでもらうなどの活動を行っているという。
今後はSP同士の横の繋がりを広げていき、禁止物質か否かの判断に迷う場合には相談しあうほか、近隣のスポーツ関係者や一般市民に対する能動的な啓発活動を展開し、地域全体で競技者をドーピング違反から守っていきたいと川島先生は意気込んでいた。

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