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maruho square 保険薬局マネジメント:地域医療連携ネットワークサービスを活用した保険薬局業務―検査値の推移確認で可能となった疑義照会や健康アドバイス


佐賀県では地域医療連携ネットワークサービスの仕組みを利用して、あらかじめ同意を得た患者さんの診療情報を参照できる仕組みが稼働している。株式会社山下至誠堂(本部:佐賀県唐津市、2019年1月現在、唐津市・東松浦郡で調剤薬局8店舗、ドラッグストア3店舗を運営)でも調剤薬局3店舗がこのシステムを利用しながら、検査値確認後の処方箋監査や服薬指導、生活習慣改善をめざした健康アドバイスなどの実践につなげている。その実際とメリット、今後の展望について、導入店舗の管理薬剤師・古屋先生に伺った。

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株式会社山下至誠堂 山下至誠堂薬局菜畑店 管理薬剤師 古屋 秀人 先生
  • 株式会社山下至誠堂 山下至誠堂薬局菜畑店 管理薬剤師 古屋 秀人 先生

地域医療連携ネットワークに登録される診療データを保険薬局などでも活用する佐賀県の取り組み

地域の医療機関に分散する患者さんの診療データを統合・共有して地域医療連携を可能とするネットワークサービス「ID-Link」。佐賀県では2019年1月末現在、このサービスで診療情報を開示する病院等の医療機関は13施設、それを閲覧できる診療所や保険薬局は350施設、登録患者数は約4万名にのぼる。
保険薬局がID-Linkに参加する場合、県薬剤師会を介して申し込み、数週間後から既存のインターネット環境で利用可能となる。薬局では、ID-Linkで診療情報を開示する病院を受診している患者さんに対しID-Linkの説明を行い、診療情報を閲覧することに関する同意が得られれば、医療機関に連絡する。医療機関側から折り返し登録完了通知が届いたら、保険薬局でのID-Link利用開始となる。ID-Linkで開示されている診療情報のうち、保険薬局が閲覧できるのは処方内容、注射薬、検査値の3項目であり、薬剤師はここで得られた情報を処方監査やOTC選択時のアドバイスといった日常業務に生かしていく(図1)。

図1:ID-Linkの画面イメージ
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ID-Linkの画面イメージ

検査値の経時的な推移を把握して疑義照会、服薬指導、健康アドバイスに活かす

唐津市の山下至誠堂薬局菜畑店(以下、菜畑店)も、2015年からID-Linkに参加し、患者さんの検査値を確認したうえでの処方箋監査、服薬指導、健康アドバイスを行うことで地域の人々の健康維持に寄与している保険薬局である。「薬歴だけでは問題点の確認が十分ではないと思われる患者さんに関して、副作用や健康被害を未然に防ぐための介入を行う目的でID-Linkを活用しています」と管理薬剤師の古屋先生は話す。菜畑店において2016年4月~2018年3月の期間にID-Linkに登録された患者さんは35名。その多くは以前から来局している糖尿病、腎機能低下症例や、経口抗凝固薬、NSAIDs、ビタミンD3製剤などが処方されている患者さんであるが、副作用の回避に検査値の経時的確認が必須であれば、初回の来局でもID-Link活用の説明を行い、登録の同意を得ているという。

山下至誠堂薬局菜畑店(唐津市菜畑3613番地3)
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山下至誠堂薬局菜畑店(唐津市菜畑3613番地3)

菜畑店における上記期間中の疑義照会件数は19名と、ID-Link登録患者さん35名の過半数に関して行われた。そのうち、薬剤師が腎機能や血糖コントロールの状況を参照して疑義照会を実施したのは7名に関する8件であり、その中には検査値の推移を確認して疑義照会に至ったものも含まれる(図2)。疑義照会の結果、全例で処方変更となり、それに伴う健康被害は起こっていない。「顔見知りではない医師、広域病院の医師など、検査値が確認しにくい場合、副作用の初期症状が現れてから疑義照会を行っていたかもしれません。しかしID-Linkでは検査値や処方内容を、入院中も含めた過去に遡って確認することが可能なので、医師に確認したほうが良いと思ったタイミングで躊躇せずに疑義照会することができ、健康被害の回避につながった可能性があります」と古屋先生は話す。具体的には、腎機能が2年前から変動していない状態と徐々に低下してきた状態とでは、同じ薬が処方されていても状況が異なる。そのことを認識した上でタイミングよく疑義照会が行えるようになったという。

図2:検査結果から疑義照会を行ったケースの概要
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図2.検査結果から疑義照会を行ったケースの概要

近年は処方箋に検査値が記載されることも多いが、記載項目は医療機関ごとに異なり、また患者さんが持参する検査結果でも継続的な確認は困難なことが多い。ID-Linkはこうした点を改善し、薬局薬剤師が医療機関と同じ方向性で処方監査、服薬指導していくことを可能にすると古屋先生は話してくれた。
ID-Linkはまた、OTC購入時の相談や生活習慣アドバイスにおいても薬剤師をサポートするツールの一つになっている。菜畑店における実例を古屋先生は示してくれた(図3・4)。症例によっては患者さんの求めるOTCの販売を控え、受診を勧めたり、他の薬局に情報提供したりすることもある。また、検査結果をみながらの生活習慣改善アドバイスは“問題の見える化”と“成果の見える化”につながり、患者さん自身が生活習慣を改善したり治療へのモチベーションを向上させたりする原動力になるそうだ。

図3:OTC薬購入時に活用した事例
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図3. OTC薬購入時に活用した事例
図4:生活習慣アドバイスの一例
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図4. 生活習慣アドバイスの一例

システムに登録した患者さんに恩恵をお返しするには薬剤師が医療者として研鑽を積む必要がある

ID-Linkのサービスに関しては、今後も様々なメリットを生み出す機能の開発が期待されている。「年に一度開催されている研究会で、利用事例や最新動向などの知識を得ながらID-Linkを活用することにより、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師の使命を果たしていけるのではないか」と古屋先生は今後を展望する。一方で、現状ではID-Linkで閲覧できる検査値を薬歴に入力する手間が大きいことが課題であり、古屋先生も入力の手間が省けるシステムの開発を願っているそうだ。
また、システムの利用で得られる情報を活用した業務が遂行できるよう、薬剤師自身が資質を向上させ、患者さんや他の医療機関の信用を得なければならないと古屋先生は強調する。例えば、先生自身も腎機能の指標として日頃から参照している推定糸球体濾過量(eGFR)は、筋肉量、年齢、性別、食事、薬物投与など様々な要素の影響を受ける。「画面に表示される検査値だけを見て疑義照会や患者指導を考えるのでは不十分です。そこに患者さん一人ひとりの生活にまで目を配る姿勢も薬剤師には求められます。その上で検査値が本当に意味するところを把握し、疑義照会の要否を判断したり生活習慣の改善や健康アドバイスに生かしたりできるように研鑽を積んでいくことが重要ではないかと思います」。

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