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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「対物」から「対人」業務へのシフトが求められる背景


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

薬剤師は「対物業務」から「対人業務」へシフトする。このフレーズは、平成27年に厚生労働省が発表した「患者のための薬局ビジョン」で示されて以後、薬局・薬剤師の周辺では広く知られるようになってきたと思います。
いろいろな解釈があると思いますが、私自身は、患者さんにお薬をお渡しするまでが薬というモノをメインに扱う「対物」の仕事から、患者さんがお薬を飲んだ後までフォローするというヒトにフォーカスがあった「対人」の仕事へとシフトすることは、患者さんはもとより、医師・看護師などの医療従事者、そして何より薬剤師自身にとって意味のあることだと考えてきました。
血圧を下げるお薬を患者さんに正しくお渡しするまでが仕事なのか、患者さんが血圧を適正な値に保ち、10年後、15年後の心血管イベントを回避するところまでを視野に入れて関わっていくまでが仕事なのかと考えると、もう少し分かりやすいかもしれません。薬剤師が第2世代から第3世代(=3.0)に変わるためには、このパラダイムシフトが大切なのだと思います。しかし、これがなかなか難しい。今回は、そのポイントについてお話しします。

対物業務は今まで同様、重要であることを確認する

「患者のための薬局ビジョン」に限らず、「お上」(?)から降りてきた考え方にはしばしば批判があるものですが、その多くは「現場を分かっていない!」という意見です。「対物」から「対人」へというのは、パッと聞いたとき「薬剤師は薬というモノではなく、医療人として患者というヒトに注力すべきだ」という感じに捉えられます。しかし、現場で毎日、いわば「対物」業務に専念している人にとっては、何だか毎日の仕事が否定されたようにも聞こえてしまいます。それは当然のことながら耐えがたいものですので、「お薬というモノが間違っていると、すべてがダメになる」「モノのことが分からないまま、ヒトのことをやっても意味がない」という感覚が瞬時にわき上がりますし、それは事実です。お薬の理解が十分ではなく、正確な調剤や説明ができないような薬剤師が医療現場で活動することは、正しい治療の妨げにすらなりかねません。
整理すると、「対物の仕事も今まで通り重要であるが、それに専念するばかりではなく、対人の仕事に重心を移していくことが大切ですね」というのが「患者のための薬局ビジョン」のメッセージだと筆者は思うのですが、いかがでしょうか。「対物業務から対人業務へ」という言葉を聞いたときにわき上がる多少なりともネガティブな感情を一旦はやり過ごして「モノは大切。でも、ヒトのことも見ていかないとダメだよな」というふうに思い直していただくことが、「薬剤師3.0」へ移行するための第一歩のように感じています。

しかし、まっすぐに突っ込むだけではいけない

しかし、「お薬を飲んだ後までフォローする」ことに業務を突然シフトすることは危険といえます。というのも、薬局・薬剤師は現時点でも残業を余儀なくされているケースが多いからです。医療業界の人材不足は職種や分野を問わずに慢性化していると思いますが、保険薬局においてはまさに極まっていると思います。基本的には欠員が数名ある中で、有り難いことではありますが、病院の受診後に(ある意味では)殺到する患者さんに対応し、処方箋1枚1枚について処方監査・疑義照会・調剤・一包化鑑査・服薬指導を一定時間内に行うことが求められます。そして、外来業務の波が収まれば、息をつく間もなく山積する薬歴を片付けていかなければなりません。また、毎日のことではありませんが、欠品をまねかないよう医薬品その他の発注や納品業務、月に1回のレセプト業務に返戻対応、時にかかる厚生局からのお呼び出しなど、本当に目の回る毎日です。
つまり「対物」業務と言われようが、今の時点でもすでに多忙を極めているのが、薬局薬剤師の現状なのではないかと思います。このような状態のまま、新たな業務を付加することは現実的ではありません。さまざまなトレンドを念頭に「対人」業務にシフトしようとするあまり、現在の「対物」業務がおろそかになるようなことがあってはいけません。例えていうなら、患者さんの血圧を気にしすぎるあまり、降圧剤の調剤や服薬指導を間違えてしまっては元も子もないということです。では、一体どうすればよいのでしょうか。

図:かかりつけ薬剤師としての役割の発揮に向けて
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図.かかりつけ薬剤師としての役割の発揮に向けて

「薬剤師3.0」を実践するための2つのポイント

2つのポイントがあると思います。1つめは、薬剤師が「対人」業務を行うための知識・技能・態度を身につけることです。「対物」業務に専念してきた薬剤師がいきなり「患者さんが薬を服用した後までフォロー」しようとしても、実は何もできないと思います。降圧剤をいかに早く、正確に調剤するかということに長けた薬剤師も、それを服用した後の患者さんがふらついて起きられないという場面では、棒立ちになってしまいかねません。このために薬剤師に必要なものが、私が2009年ごろから発信してきたバイタルサインおよびそれらの結果を薬学的に評価し次の一手を考えるフィジカルアセスメントです。
もう1つのポイントは、現在の日常業務に忙殺されている薬剤師のあり方の見直しです。今風にいえば、薬局薬剤師の「働き方改革」を現場で起こして、薬剤師が「対物」業務も担保しながら「対人」業務にシフトするための時間・気力・体力を温存できるような職場環境を作り直すことです。これを別の角度から見ると、この10年ほどの間、さまざまな議論がある中でも薬局や薬剤師がなかなか変われないのは、変わるための余裕がないためではないかというのが、私が自分の薬局を運営してきた中で得た結論です。

おわりに

「対物業務」から「対人業務」へシフトする、ということを筆者の言葉に置き換えるなら「薬剤師2.0」から「薬剤師3.0」へと進化する、ということなのかもしれません。お薬の準備や説明に責任を持ちながら、患者さんの状態を良くするために、いかに視野を広げ、日常業務を変えていくのかということを、PDCAサイクルを回しながら地道に活動していくことが現在の薬局および薬剤師に求められているのだろうと思います。
次回は、今回紹介した2つのポイントをクリアするための具体的方策について、少し詳しくお話ししたいと思います。

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