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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:薬剤師の時間と気力と体力を温存する


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

超高齢社会となった日本で地域包括ケアシステムを実現して稼働させるためには、チーム医療の推進や情報共有は不可欠であり、従来とは抜本的に異なる医療提供体制を構築する必要があります。中でも、教育課程が6年となって10年が経過した薬剤師においては、従来の「対物業務」から「対人業務」へとシフトする必要性があります。
また、薬剤性有害事象を伴う多剤併用(ポリファーマシー)状態を改善していくためにも、薬剤師がより専門的な知識や技術を活用し、薬物治療のPDCAサイクルに主体的に取り組んでいくことは、医療全体からも強く求められていることです。
しかし、「なかなか現実は変わらない」―そう思って悶々とされている方や、疲弊されている方が少なくないのではないでしょうか。
本稿では、薬剤師がその貴重な時間、気力、体力を無駄に消耗することなく「従来の対物業務中心の職種である薬剤師2.0」から、「対人業務中心の職種である薬剤師3.0」へとシフトするためのポイントについて、私自身の経験も踏まえてご説明します。

対物から対人へのポイントは、患者さんの服薬後の状態をフォローすること

薬剤師が変わるためのポイントは、投薬までを担当するのではなく、調剤した薬を服用された後までフォローすることだと考えてきました。これは、私自身が医師の立場で、診療の現場において薬剤師と連携していく中で、「いわゆる疑義照会ではなく、服薬後の状況を薬剤師自身がチェックして、それらの症状や病状が、現在服用中の薬剤によって起こっている可能性がないかどうかを説明してくれること」が、医薬品の適正使用と、医療安全の確保の観点から不可欠であることに気がついたからです。
実際、下痢の症状を呈した患者さんが下剤を多量に服用していたり、認知機能が低下した患者さんが睡眠導入剤や精神科薬を多量に服用していたり、はたまたパーキンソン病と思っていた方が実はメトクロプラミドの錐体外路症状であったり、といった事例に次々とぶち当たりました。もちろん、これらの薬剤を処方した医師としても、当然チェックしておかなければならないのですが、医師は基本的に「患者さんの病状を伺ったら、それらの症状を呈する疾患を診断した上で、それらの疾患に対応した薬剤を選択して処方する」という思考回路を持っています。しかし薬剤師は、患者さんの症状を見たり聞いたりすると、それはその患者さんが服用している薬剤で起こっているのではないかと考える「習性」があることに気がつきました。
この薬剤師さんの視点、すなわち「薬学的知見に基づくアセスメント」がなければ、薬の副作用は見逃されてしまい、処方薬がひたすら増えていくというループに陥ってしまうのではないかと感じたのです。

いきなりフォローしては大変なことになる

この「薬剤師は患者さんが薬を服用した後の状態もフォローする」という概念は、ありそうでなかったものですが、よく考えてみれば当たり前だということで、私どもの薬局でも薬剤師からのコンセンサスを得ることができました。しかし、それを進めていく上で大変なことが起こってしまったのです。それは、薬剤師の過労が極まるとともに、薬局の採算性が急速に悪化することでした。
おそらく皆様も同様だと思いますが、現在の薬剤師業務は、決して暇ではありません。それどころか、毎日のように残業しているというのが現実ではないでしょうか。このような状況下にありながら、終業後や週末には、様々な研修会に出席したり、時には学会で発表してみたりと、多忙な毎日を送られている方が少なくないと思います。そのような状態の薬剤師に「薬が患者さんの体に入った後もフォローする」というエキストラの仕事を加えると、かなりの確率で過労状態に陥ります。1週間や10日間であればなんとか乗り切ることもできますが、それがずっと続くとなると、どこかで限界が来てしまいます。
また、現在の調剤報酬業務では、原則として薬剤師が薬を患者さんに渡すまでのところにコストが設定されており、薬を服用した後の状況をフォローしたり、それらを薬学的にアセスメントして医師の処方へフィードバックしたりといったことには、コストが設定されていません。これらをテストとして、数名程度を相手に行うのであるならばよいのですが、業務としてルーチンに取り組むようになると、人件費はかさむ一方で収入は増えませんから、採算性は急激に悪化します。
つまり、現在の業務を行いつつ、薬学的かつ医療的に正しいことをしようとすると、最初のうちはなんとかなるのですが、次第に過労状態が日常化するとともに、不採算性が明らかになり、どこかでポキッと折れるような事態に陥ってしまうというのが、私自身の経験でした。

薬剤師の時間と気力と体力が必要

そのような修羅場じみた状態を打破しようと試行錯誤を繰り返してきた中で気がついたのは、薬剤師が服用後の患者さんの状態を確認し、そこで薬学的専門性を発揮するために思考して、それらの結果をまとめ、次回処方前に医師へ報告するには、そのための時間、気力、体力が必要であるということでした。
そこで、私たちがまず取り組んだのは、業務の見える化、機械化と情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)化の推進でした。薬剤師が取り組むべき業務を全て洗い出し、何を、いつまでに、どのように行わなければいけないかを今一度明確にすることで、業務の全体像を把握する必要があると考えたからです。さらに、昨今急速に進歩している調剤業務の機械化と、情報の整理や活用におけるICT化を積極的に進めることで、業務の簡素化とシステム化を進めました。
このように見える化で業務を整理し、機械化とICT化を進めると、「誰でもできる化」が可能な業務が出てきます。すなわち現在の薬剤師業務の中には、薬剤師ではなくても可能な業務が隠れていることが分かってきました。それを非薬剤師スタッフに任せることで、薬剤師が時間、気力、体力を温存できるようになり、新しい業務へとシフトしていくことができるのです。
また、これらのアクションを通じて採算性も間違いなく向上していきます。さらに2018年4月の調剤報酬改定において、薬剤師の評価が対物業務から対人業務へとシフトしていくと、よりよい方向へ向かっていくのではないかと期待しています。

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見える化・機械化・ICT化

おわりに

薬剤師が変わらなくてはいけない理由や、薬剤師が果たすべき役割は、この10年ぐらいの間に徐々に明らかになってきたと思います。しかしながら、依然として現場が変わらないのは、具体的にどうすれば変わるのかが分からなかったからではないでしょうか。
もしも今、あなたがそのような問題に直面されているのであれば、ぜひ、薬剤師の時間、気力、体力を温存すべく、工夫をしてみてください。きっと、きっかけがつかめると思います。

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