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maruho square リスクマネジメント:薬局薬剤師がフレイル・介護予防のためにできること~高齢者の嚥下機能調査による考察~


  • 株式会社クリオネ 美しが丘薬局 管理薬剤師 北村 哲 先生

はじめに

わが国では急速な高齢化に伴い、要介護者が増加し続けています。ただし、元気に過ごしていた高齢者が、ある日突然急性期疾患や事故で要介護になることは少なく、実際は健常と要介護の間にある「フレイル」の期間に、様々な機能が徐々に失われてしまうことが分かっています1)。フレイルの場合、適切な食事や運動、適正な薬物療法によって、健常の状態に戻すことができると言われています2)
地域の薬局で働く薬剤師は、何らかの疾病で治療を受けている方はもちろん、市販薬の購入や健康相談などで訪れる未治療の方とも接する機会を持ちます。そこで当社では、地域で暮らす高齢者にはフレイル状態の方がどの程度いるのか、そしてフレイル疑いの方にはどのような背景や要因が潜んでいるのかについて、嚥下機能の観点から調べました。
そして、今回の調査結果を検討することで、薬局薬剤師がいかにフレイルや介護の予防に貢献できるのか、日々の服薬指導や接客において、どのような点に注意を払うべきなのかについて考察しました。

方法

2015年8月~10月の3ヶ月間、北海道内にある当社の保険薬局22ヶ所にて、65歳以上で調査の趣旨に同意を得た456名(男性190名、女性266名)を対象に、反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)を実施しました。嚥下機能の評価は、30秒間で唾液嚥下運動が3回未満の場合をRSST陽性(嚥下障害の可能性あり)としています3,4)。その他、任意の回答として身長・体重、義歯の使用状況を聴取し、薬剤服用歴管理記録簿から性別と年齢、調査時点における服用薬剤を調査して、被験者群間におけるRSST陽性率などについて比較検討しました。

結果

全症例のRSST陽性率は12.1%で、全体の1割強で嚥下障害が疑われました。RSST陽性率に男女間の差は認められませんでした。また、被験者の約6割が6種類以上の薬剤を継続的に服用していました。年代が上がるごとに服用する薬剤が多くなる一方、嚥下回数は減る傾向が認められました(図1)。身長と体重を確認できた被験者より算出した肥満度(BMI)とRSSTとの関係では、やせ型(BMI 18.5未満)の被験者では、RSST陽性者が有意に高いことが分かりました(図2)。義歯とRSSTとの関係では、RSST陽性者は、陰性者より有意に義歯使用率が高いことが分かりました(図3)。薬剤による影響を調べた中では、RSST陽性者が、陰性者より有意に筋弛緩薬(エペリゾン塩酸塩)服用率が高いことが分かりました(図4)。

図1:年代別の服用薬剤数平均値とRSST平均値
記事/インライン画像
図1:年代別の服用薬剤数平均値とRSST平均値
図2:BMI 18.5未満の被験者におけるRSST陽性者と陰性者との比較
記事/インライン画像
図2:BMI 18.5未満の被験者におけるRSST陽性者と陰性者との比較
図3:RSST陽性者と陰性者における義歯の使用率
記事/インライン画像
図3:RSST陽性者と陰性者における義歯の使用率
図4:RSST陽性者と陰性者における筋弛緩薬の服用率
記事/インライン画像
図4:RSST陽性者と陰性者における筋弛緩薬の服用率

考察

被験者の大半は、自力通院可能な日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)良好と言える状態でしたが、今回の調査では、高齢者のおよそ12%に嚥下障害の可能性があることが分かりました。北海道が行った調査では、道内全人口における嚥下障害者の割合が約0.6%、要介護者では約18%であったとする報告があります5)。今回の調査結果は、RSSTという一つのスクリーニング項目からの考察ではありますが、要介護の前段階にある高齢者においても、加齢に伴って嚥下機能は徐々に低下している可能性を示します。ただし、これらの結果が地域に特異的なものであるのか、それともわが国全体の傾向を示すものであるのかは、さらに広域な調査の結果を待つ必要があります。背景因子の一つとして、やせ型の高齢者における嚥下機能の低下が挙げられます。やせ型の高齢者は、標準体型よりも筋肉量が低下している「サルコペニア」であると予測され、嚥下機能に関わる筋力の低下とも関連すると考えられます。
義歯についてもRSST陽性者で使用率が高く、義歯が嚥下機能にマイナスの影響を及ぼしている可能性が考えられます。義歯は、正しく使用すれば嚥下機能を改善させるはずですが、実際には長期間の未治療により、義歯が不適合となっている高齢者が多数存在していると考えられます。また口腔においても、サルコペニアによって咀嚼・嚥下に関わる筋力が低下している可能性があり、口腔乾燥や低栄養などの背景が重なることでオーラルフレイルへの進展が懸念されます。
薬剤については、服用薬剤数の増加に伴って嚥下機能にマイナスの影響が出る傾向が見られました。個別の薬剤については、嚥下機能に影響を及ぼすと言われている薬剤6)に焦点を当ててRSST陽性率との関連を調べましたが、今回の調査では、筋弛緩薬による影響のみ有意な結果を得ることとなりました。そのほか抗精神病薬、抗コリン作用のある薬剤、抗がん剤やNSAIDsといった粘膜障害を引き起こす薬剤などの影響について検証することが、今後の課題です。
以上のことから、多岐にわたる来局者が想定される地域の保険薬局では、服薬指導や相談応対に際し、服薬状況や特定の薬剤による影響のみならず、体格や義歯の使用状況などを含めた多角的な視点を持って、高齢者に潜む問題点の発見に臨むことが大切です。歩行の様子がゆっくり、あるいは不安定、入れ歯を使っているけれど歯医者さんにしばらくかかっていない、食事をおいしく食べられないなどの情報は、薬剤師が意識して会話や観察をすれば、気付くのにそれほど難しいことではないと思います。問題に気付いたときは、専門医への受診を勧奨したり、薬剤に原因があると判断した場合は薬学の専門家として、薬剤変更や減薬などの処方提案によって薬物療法の適正化に関与しなくてはいけません。これらの取り組みによって、フレイルの可能性がある高齢者の早期発見に貢献できると考えます。

まとめ

地域の薬局薬剤師は、フレイル予防・介護予防の最前線に位置していると言っても過言ではありません。生活習慣の改善や医薬品の適正使用を通じ、高齢者医療に貢献することが重要であると考えます。

75歳以降の高齢者で歯科受診率が低下するとの報告がある7)

参考文献:
  1. 鳥羽研二, ほか. 日老医誌. 1999 ; 36(3) : 181-185.
  2. 葛谷雅文. 日老医誌. 2009 ; 46(4) : 279-285.
  3. 小口和代, ほか. リハ医. 2000 ; 37(6) : 375-382.
  4. 小口和代, ほか. リハ医. 2000 ; 37(6) : 383-388.
  5. 北海道総合保健医療協議会, ほか. Best Nurse. 2006 ; 17(6) : 16-19.
  6. Stoschus B, et al. Dysphagia. 1993 ; 8(2) : 154-159.
  7. 厚生労働省患者調査(2005年). 年齢階級別歯科推計患者数及び受療率.

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