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maruho square チーム医療と薬剤師:薬剤師が多職種連携において求められているものは何か?~栃木市在宅医療推進のための地域における多職種連携研修会に参加して


高齢化に伴い、自宅や介護施設で高度な医療を受ける高齢者が増えている今、医療と介護の多職種連携・協働を円滑に行うことが求められている。しかし、病院内に比べて在宅医療の現場では、多職種間の情報共有や意見交換が行えておらず、薬剤師もその一員として十分に関われていないのが現状である。そこで、行政主催の『多職種連携研修会』に薬剤師の立場で参加した株式会社メディカルグリーン(大沢調剤薬局片柳店)の上野将明先生から、当研修会の開催経緯と概要、それにより明確になった、薬剤師が在宅医療に対して臨むべき姿勢などについてお話を伺った。

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株式会社メディカルグリーン在宅医療推進担当マネージャー/大沢調剤薬局片柳店 管理薬剤師 上野 将明 先生
  • 株式会社メディカルグリーン 在宅医療推進担当マネージャー/大沢調剤薬局片柳店 管理薬剤師 上野 将明 先生

在宅医療・介護の円滑な連携を目指し、行政主導による多職種連携研修会を実施

どのような経緯で『多職種連携研修会』の実施に至ったのでしょうか。
【上野】「在宅医療・介護関係者の研修こそが在宅医療・介護連携推進事業全体を遂行する上でのエンジンになるものであり、自治体からの働きかけを契機に一連の取り組みを実施していくことで、事業の展開を図ることが効果的」との仮説に基づいた、株式会社富士通総研による厚生労働省平成27年度老人保健健康増進等事業『地域の実情に応じた在宅医療・介護連携を推進するための多職種研修プログラムに関する調査研究事業』1)の対象フィールドに栃木市が選ばれたことから、栃木市地域包括ケア推進課主導で『多職種連携研修会(以下、研修会)』が実施されることになりました。
その実施にあたり、まずは地域の課題を関係者自らが共有し、解決に向けた研修プログラムを検討することが多職種連携の動機付けと関係醸成にもつながるとされ、栃木市の医療・介護関係者の代表者として医師、看護師各2名、歯科医師、薬剤師、ケアマネジャー、訪問介護サービス管理者、相談支援員、保健師各1名、行政側担当者2名の計12名(2グループ)によるワーキングチームが発足し、私も薬剤師の立場で参画することになりました。
研修会に向けたワーキングは2015年10月、11月に計2回実施され、第1回ワーキングでは、各職種の視点から「地域包括ケアを進める上でなぜ連携が必要なのか」「栃木市において多職種連携を進めていく上で課題と考えられること」について、第2回は第1回を踏まえて「栃木市において多職種連携を進めていくために行うべきこと」についてグループワークを実施し、栃木市における課題の抽出と共有、それを解決する研修会のプログラムを検討しました。次に、ワーキングチームメンバー10名を含む計36名が6グループに分かれ、ワーキングで検討したプログラムに基づいた研修会を同年12月、2016年1月の2回に分けて実施しました()。いずれもメンバーの選出・募集および当日の運営・進行は行政主導です。
図:多職種連携研修会
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図:多職種連携研修会
ワーキングと研修会で得られた成果について教えてください。
【上野】複数の異なる専門職が対等な立場で一堂に会したので、様々な視点から課題が挙げられ、共有することができました。その結果、栃木市には「利用者・住民のみならず専門職の中でも在宅医療に対する理解が不足していること(在宅医療を知らない・知る機会がないなど)」「在宅医療資源が少ないこと(在宅医療に対応できる介護事業所や、訪問診療ができる医師の不足など)」「連携がうまくいかないこと(互いの職種専門性に対する理解不足、情報共有・連携方法の仕組みがない、伝達内容の不足など)」といった課題が存在することが浮き彫りになりました。それらへの対策として、①同職種間・多職種間の勉強会・講習会の実施(人材・リーダー育成、他職種への理解、職種間の関係醸成など)、②連絡ツール・連携方法の構築(医療介護資源マップ・連携方法ルールの作成、ITや医療ソーシャルワーカーの活用)、③市民フォーラム開催などによる市民啓発の実施などが必要だと分かりました。
研修会後の2016年3月に実施した『振り返り会議』では、研修会の参加者アンケート結果を基に良かった点や改善すべき点などについて、ワーキングチームで共有・議論しました。その結果、行政主導による有意義な研修会の実施により、参加者の動機付けと関係醸成は果たされたこと、せっかくなので調査研究終了後も行政主導の勉強会を企画・実施すべきとの結論に至りました。そこで、①~③の対策や振り返り会議で挙がった改善すべき点を踏まえ、栃木市主体でワーキングチームを含めた多職種のメンバー(2017年10月現在で24名)によって構成された『在宅医療・介護連携推進会議』を発足することになり、2016年7月より月1回開催しています。

大沢調剤薬局片柳店(栃木市片柳町1-6-35)

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大沢調剤薬局片柳店(栃木市片柳町1-6-35)
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大沢調剤薬局片柳店(栃木市片柳町1-6-35)

在宅医療・介護連携推進会議を中心に連携体制の構築、ケアの質向上を目指す

『在宅医療・介護連携推進会議』では、どのような活動がなされていますか。
【上野】下部組織として『多職種連携部会』と『研修・広報部会』を設け、前者では市内の医療・介護施設の案内・サービスをまとめた医療介護資源マップや、情報共有ツール『どこでも連絡帳』(http://dokoren.jp/)や『とちまるネット』(http://tochimarunet.jp/)を活用した連携方法ルールの作成にあたっています。後者では、同職種間・多職種間の連携研修会や市民向けの在宅医療・介護セミナーの開催、専門職向けの情報提供などを行っています。
多職種間の連携研修会として立ち上がった『あじさいの会』は、各職種が持ち回りで当番となって開催します。第1回は看護師会担当で、第2回は私たち薬剤師会が担当として、薬の正しい飲み方に関する講演の後、グループワークを実施しました。在宅医療に携わりたいと思っている薬剤師は決して少なくないので、アプローチのきっかけになればと考えています。
一連の取り組みで明らかになった「薬剤師に求められていること」を踏まえ、今後の展望をお聞かせください。
【上野】研修会を通じ、他職種は薬剤師に対し「薬剤師目線で得た情報を各方面へ伝えることでより連携がスムーズにいくので、医療と介護のパイプ役になってほしい」「在宅医療に不可欠であり、薬の管理・指導を全面的に依頼したい」などの要望があることが分かりました。一方で「顔の見える関係性が築きにくく、コミュニケーションや連携をとりにくい」「薬剤師が在宅医療で何をどこまでできるかが分からない」「薬剤師に依頼するメリットを感じない」などの厳しい意見も多くあり、薬剤師自身も「経験不足・人材不足で依頼が来てもできる人がおらず、何をすればよいのか分からない」といった問題を抱えていることが明らかになりました。
そこで、薬剤師においては特に「顔の見える関係性の構築」「無菌調剤・在宅調剤のスキル向上」が必要と考え、在宅医療に取り組みたいと考えている薬局(薬剤師・事務職員)を対象に、在宅医療の進め方やレセプト業務に関する研修会を私が講師となって実施しました。今後も、薬剤師個人のスキルを高める同職種間研修会と、薬剤師の存在意義を他職種に知ってもらい顔の見える関係を構築する多職種間研修会を並行して企画していく予定です。
「かかりつけ薬剤師」制度が始まり、患者さんが薬剤師を選ぶ時代になった今、薬局の中だけを見ていると波に乗り遅れてしまいます。薬のことだけでなく医療、介護、行政にも向き合い、他職種からの依頼も「受ける前に(受けるかどうか)悩む」のではなく「受けてから(どう進めるか)悩む」ことで、「必要とされる薬剤師」でありたいと考えています。
ありがとうございました。
参考文献:

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