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服薬指導に役立つ皮膚外用剤の基礎知識 No.4:保湿剤の指導の現状・塗布量・塗布回数・塗布タイミング・塗布順序・寛解維持効果


アトピー性皮膚炎では低下している角層の水分含有量を改善し、皮膚バリア機能を回復・維持するために、保湿剤の使用は重要です。アトピー性皮膚炎以外の皮膚疾患においても保湿を考慮すべき疾患は皮脂欠乏症など多岐にわたります。これらの疾患において保湿剤を適正に使用していただくために、今回は保湿剤の効果的な使い方とその服薬指導について考えます。

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保湿剤の指導の現状

皮膚科、小児科をはじめとする複数の診療科の医師を対象とした、保湿剤の処方実態などに関するアンケート調査結果1)があります。
保湿剤の患者指導において塗布量を「FTU(finger-tip unit)や1円玉大などの具体的な量や、べたつくくらい、テカって見えるくらい、ティッシュペーパーがくっつくくらいと指導している」は皮膚科73.6%、小児科71.4%でしたが、内科・放射線科では36.1%と皮膚科、小児科の半分程度でした。内科・放射線科では「患部に適量塗布と指導している」が45.8%で最も多く、「塗布量は指導していない」を合わせると63.9%で、具体的な塗布量が指導されていませんでした。
保湿剤は皮膚科、小児科以外にも多くの診療科で処方されており、治療効果を期待通りに発揮させるためには、薬剤師による塗布量や塗布方法などの服薬指導が重要です。

塗布量・塗布回数

塗布量と保湿効果をヘパリン類似物質含有製剤で検討した報告2)があります。健康成人8例を対象に前腕内側部に脱脂処置により人工的に乾燥皮膚を作成し、塗布量を1mg/cm2と3mg/cm2で、塗布2時間後に薬剤を除去して、除去後4時間までの効果をみています。薬剤除去1、2、4時間後において塗布量1mg/cm2より3mg/cm2の方が保湿効果は有意に高くなりました(Aspin-WelchのT検定、p<0.05)(図1)。

図1:ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型)の塗布量と保湿効果の関係
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図1:ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型)の塗布量と保湿効果の関係

一方、ヘパリン類似物質含有製剤を用いた1日1回14日間の人工乾燥皮膚への反復塗布では、0.5~3mg/cm2と塗布量の増加に伴う保湿効果の有意な差は認められませんでした3)。このように保湿剤の連用では塗布量は必ずしも効果に影響しませんが、ある程度十分な量を塗布することが保湿効果をより高めると考えられます。
また、塗布回数と保湿効果の検討では、ヘパリン類似物質含有ローションを塗布量2mg/cm2で14日間反復塗布した場合、1日1回塗布より1日2回塗布の方が保湿効果は有意に高くなりました(paired-t検定、p<0.05)(図2)3)。ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型)でも、同様に有意差が認められました(paired-t検定、p<0.05)3)。保湿剤は、塗布回数を少なくとも1日2回塗布することが効果を高めると考えられます。

図2:ヘパリン類似物質含有ローションの効果に及ぼす塗布量および塗布回数
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図2:ヘパリン類似物質含有ローションの効果に及ぼす塗布量および塗布回数

塗布タイミング

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」4)(以下、ガイドライン)では「入浴後は急速に皮膚から水分が蒸発拡散し、ドライスキンの状態になっていくため、入浴後長時間保湿剤を塗らないまま放置すべきではない」と記載されています。
海外の報告では、アトピー性皮膚炎の小児患者と健康な被験者に10分間の入浴直後と30分後の塗布タイミングで保湿剤(市販の皮膚軟化剤)を塗布して効果を比較しています。
入浴前の角層中水分率を100%とした場合、各群の角層中水分率は、アトピー性皮膚炎の小児患者の入浴直後塗布群は平均141.6%、30分後塗布群は平均141%、健康な被験者の入浴直後塗布群は平均168.8%、30分後塗布群は平均178.6%で、いずれも入浴直後と30分後の角層中水分率に差は認められていません5)
ただし、この試験では入浴の水温は33.9±1.2℃であり、日本のガイドライン4)上の「入浴・シャワー浴時の湯の温度は、おおむね38~40℃がよいと考えられる」との記載に示された温度とは異なっていることや単回塗布による比較であることは注意が必要です。
通常、保湿剤は連用します。連用時の保湿剤の塗布タイミングと効果の関係については、健康成人8例に保湿剤(尿素製剤およびヘパリン類似物質含有製剤)をそれぞれ14日間連続塗布して検討した報告があります。角層中水分量を電気伝導度により測定した結果、水温40℃で20分間の入浴1分後塗布と入浴1時間後塗布との間に有意な差は認められませんでした(図3)6)
これらの試験結果から、保湿剤の塗布タイミングは入浴直後といった時間にこだわりすぎず、入浴後1時間以内を目安に塗布するように説明するとよいでしょう。
ただし、医師の説明と異なると患者さんの混乱を招くので、事前に医師からの説明の確認が大切です。

図3:入浴後の塗布タイミングと電気伝導度変化量の関係(保湿剤を14日間連続塗布した場合)
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図3:入浴後の塗布タイミングと電気伝導度変化量の関係(保湿剤を14日間連続塗布した場合)

塗布順序

皮膚外用剤は同じ塗布部位で併用することがあります。服薬指導の時に患者さんから塗布順序について質問され、回答に困った経験はありませんか。ここでは外用療法の塗布順序による効果や副作用の報告から、考え方を理解しておきましょう。

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塗布順序と効果の関係

健康ヒト皮膚でステロイド外用剤(デキサメタゾン吉草酸エステル軟膏0.12%)と保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤)の塗布順序による皮膚内移行性への影響を検討した報告によると、角層より下へのデキサメタゾン吉草酸エステルの皮膚内移行性に差がないことが示されています7)
臨床効果については、アトピー性湿疹の小児46例に対するステロイド外用剤と保湿剤の塗布順序に関する報告8)があります。保湿剤塗布後にステロイド外用剤を塗布する群とステロイド外用剤塗布後に保湿剤を塗布する群とでEASIスコア、影響を受けた体表面積の割合、またはかゆみスコアに統計的に有意な差はなく(Mann-Whitney U-test、p>0.05)、有害事象においても差はありませんでした。

Eczema Area and Severity Indexの略。アトピー性皮膚炎の皮膚所見の重症度と病変範囲から全身のアトピー性皮膚炎の重症度を数値化した評価指標。

塗布順序と副作用の関係

ヘアレスラットを用いたステロイド外用剤(クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏)と保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤および尿素製剤)の塗布順序と副作用への影響を検討した報告があります9)
塗布順序を変えても、体重、臓器重量(脾臓、副腎)および皮膚の厚さにおいて有意な差は認められず(Dunnettの多重検定、p>0.05)、全身性および局所性の副作用は塗布順序に影響されないことが示されました。

塗布順序の考え方

これらの結果から塗布順序の違いによる効果や副作用に差はないため、患者さんの服薬アドヒアランスに応じて塗布順序を考慮することが重要なポイントとなります。
一般に、ステロイド外用剤と保湿剤の塗布順序は、先にステロイド外用剤を塗って、後から保湿剤を塗ると、先に塗ったステロイド外用剤を正常な皮膚まで広げて皮膚萎縮を起こす可能性があることから、皮膚科医の多くは先に保湿剤を塗るように説明しています。
また、添付文書の用法では、ステロイド外用剤は「塗布」、保湿剤は「塗擦」または「塗布」と記載されています。先にステロイド外用剤を塗布し、後から保湿剤を塗擦すると、先に塗布したステロイド外用剤も塗擦することになるため、先に保湿剤を塗擦してからステロイド外用剤を塗布する方がより適切な用法といえます。
一方、服薬アドヒアランスは塗布量が増えると低下するため、先に保湿剤を塗るように説明すると、保湿剤だけ塗ってステロイド外用剤を塗らない患者さんがいることから、先にステロイド外用剤を塗るように説明する皮膚科医もいます。
これらをふまえて、患者さんに医師から指示された塗布順序を確認するほか、普段から処方箋を出している医師と連携し、患者さんへの皮膚外用剤の使用に関する説明が異なることがないように注意しましょう。

寛解維持効果

アトピー性皮膚炎において抗炎症作用のある外用剤などの治療で皮膚炎が寛解した後にも保湿剤を継続して使用(1日2回朝、夕;入浴後に適量塗擦)することは、寛解維持に有用です10)
ガイドライン4)には保湿剤について1日2回の効果3)と、寛解状態の維持に有効10)であることが記載されています。
患者さんには十分な説明を行った上で、保湿剤の1日2回の使用を継続するよう指導するとよいでしょう。

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出典:
  • 常深祐一郎ら:日皮会誌,2021;131(6)1511-1524
  • 中村光裕ら:皮膚の科学,2006;5(4):311-316
  • 大谷真里子ら:日皮会誌,2012;122(1):39-43
  • アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:日皮会誌,2018;128(12):2431-2502
  • Chiang C.et al.:Pediatr Dermatol.2009;26(3):273-278
  • 野澤茜ら:日皮会誌,2011;121(7):1421-1426
  • 大井一弥ら:西日本皮膚,2011;73(3):248-252
  • Ng SY.et al.:Pediatr Dermatol,2016;33(2):160-164
  • 大谷道輝ら:日皮会誌,2013;123(14):3117-3122
  • 川島眞ら:日皮会誌,2007;117(7):1139-1145
服薬指導に役立つ皮膚外用剤の基礎知識 No.4
  1. 保湿剤の指導の現状・塗布量・塗布回数・塗布タイミング・塗布順序・寛解維持効果
  2. 【よくあるご質問】皮膚外用剤の保存方法について教えてください。

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