maruho square 皮膚科クリニックの在宅医療奮闘記:世界の中心でAIを叫んだけもの
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- 小川皮フ科医院 院長 小川 純己 先生
皮膚科在宅医療の高齢化
皮膚科在宅医療の担い手不足については、毎回お伝えしているとおりです。ニーズの増加に対し、医療提供側の数は頭打ち、もしくは減少傾向です。これは医療全体にいえることかもしれませんが、地域医療、在宅医療の分野はその影響が一番強く出ている印象です。
経験不足、時間不足、報酬不足と、見事に三重苦が重なると新規参入は望むべくもありません。経験が無いことを片手間にやれと言っても無理ですし、おまけに報酬もわずかとなれば、何のためにするのかを説明するのは難しいでしょう。誰もやりたがらない〇〇委員を使命感だけ焚きつけてやってもらうのは、今どき流行らない国営放送の道徳ドラマみたいです。
改善するための対策
今あるマンパワーだけで何とかする解決策としては、1)在宅チーム医療、2)遠隔診療、3)AIの活用が考えられます。
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在宅チーム医療
皮膚科医にとっては、ダブルワークあるいはパート診療のようなイメージです。すでに確立された在宅チームに皮膚科医が参加し、在宅のノウハウを上手く吸収しながら、実地検査、診療、相談業務を遂行します。医療従事者との情報交換も限られた範囲で完了しますし、医療事務も在宅チームに委ねることが可能です。
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遠隔診療
コロナ禍で導入を試みた医療機関も多いことでしょう。開始までのハードルが、ハード面・ソフト面共に高く、導入後も時間的制約や対面診療とは異なるトラブルが続出し、やむなくオンライン診療の看板を下ろしたという話を聞きます。在宅医療に特化した遠隔診療が確立すれば良いのですが、現時点では、個々人で試行錯誤している状況が続いています。その他にもSNSやメールを利用した相談システムがありますが、依然として試験運用の域を超えていません。
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AIの活用
各方面でAIの活用が叫ばれています。資料収集、サマリー作成、スライド作成から論文執筆まで、その活用法は枚挙にいとまがありません。一般人もスマホのAIを十分に活用していますので、受診した患者さんから「AIに聞いたらこんな答えが返ってきたけど」という話を聞くのも珍しくありません。
皮膚科学は形態学から出発していますので、画像認識が診断の核心になります。他科の先生が一番困るのは、「症状は分かるけど、診断名が分からない」ことだと思います。内科症例検討で、カンファレンスの最後に皮膚科医が呼ばれ、「この皮疹は〇〇の診断ですか」と確認されるシーンがありました。首実検のようで、何となくモヤモヤした記憶がありますが、現代ではAIが首実検を代行してくれます。
今回、在宅医療の現場で撮影した臨床写真を使って、AIがどういう回答を示すか試してみました。使用したのは、OpenAIのChatGPT(GPT-5.2)です。
AIで画像診断(在宅医療版)
- ① 足趾の末梢循環不全
図1の画像をアップロードし、質問は単純に「この画像の病名を教えてください」としました。

最初に、『※重要 画像のみから確定的な病名診断はできません。以下は医学的に考えられる可能性の高い疾患候補と、その根拠です。緊急性が高い所見が含まれます。』という断り書きが示されます。
続いて、
『画像所見の要点
- 足背~足趾全体の著明な腫脹
- 暗紫色~赤紫色の皮膚変化
- 皮膚の強い緊張・光沢
- 爪の変形・肥厚・黄変(複数趾)
- 炎症が局所ではなく足全体に波及』
私からみても、ちゃんとした臨床所見の記載になっています。ここまでしっかり所見が取れるのは驚きです。
画像だけなので、皮膚温や圧痛の有無、細かい皮膚の張力などは情報として得られませんが、この情報だけを元にAIが示した疾患は、『最も疑われる疾患:①蜂窩織炎、
強く考慮すべき併存・鑑別疾患:②壊死性軟部組織感染症(重症感染)、③糖尿病性足感染、④深部静脈血栓症(deep venous thrombosis : DVT)』でした。
状態の危険性として、『「様子見をしてはいけないレベル」です。以下が1つでもあれば当日中の受診(救急含む)が必要です。』とアラートが表示されました。
『●発熱・悪寒 ●強い痛み、または感覚低下 ●急速に腫れが拡大 ●糖尿病・透析・免疫低下がある ●歩行困難』
以上のアラートに加え、
『推奨される受診先
- 救急外来
- 皮膚科/形成外科
- 必要に応じて整形外科・感染症科
※血液検査 ・画像検査 ・点滴抗生物質治療が必要になる可能性があります。』
蜂窩織炎に対する指示としては、正しく満点の記載になっています。今回の症例は、冬場に生じた末梢冷感を伴う紫斑ないしチアノーゼでした。発熱などの炎症所見はありませんでした。これらをAIに追加記載すると、より良い診断が返ってきた可能性はあります。よくいわれるように、壁打ちとして鍛えていくと、どんどん正解に近づいていく感じです。
- ② 鼻部の基底細胞がん
次に腫瘍の診断を試してみました。顔の色素性病変が心配というのはよくある質問です。在宅医療でもときどき質問されます。図2の画像を アップロードし、「顔のほくろが心配です。がんですか?」としました。

AIの返事は次の文章で始まります。『ご心配になるのはもっともです。まず大切な点として、画像だけで「がんかどうか」を確定診断することはできません。その前提の上で、医学的観点からみた評価をお伝えします。』寄り添いの文言に続いて画像診断の限界を明示し、その上での評価であることを断っています。よくできています。
『画像から読み取れる所見
- 鼻翼(小鼻)付近にある黒~暗褐色の結節性病変
- 表面が不整・痂皮(かさぶた)様
- 周囲に毛細血管拡張(赤い細い血管)
- 顔面の日光曝露部位
- 周囲皮膚に日光による変化(しみ・赤み)
これらは、単なる「ほくろ(良性母斑)」とは一致しにくい所見です。』色素性病変だけでなく、周囲の皮膚変化、特に顔面の光老化についても触れているところにうならされます。
AIの挙げた鑑別疾患は、①基底細胞がん(最も疑われる)、②悪性黒色腫(メラノーマ)、③脂漏性角化症(良性)でした。並べる順番も絶妙です。
『「がんですか?」への率直な答え
- 良性の単なるほくろの可能性は低い
- 皮膚がん(特に基底細胞がん)の疑いはあります。ただし、早期であれば治療成績は非常に良好です。』
ここまで切り込んでいます。危険性の高いものについては、最初に、しっかり良性の可能性は低いと明言しています。 『早急に受診すべき理由 以下に当てはまる場合は特に重要です。
- 最近大きくなった
- かさぶた・出血を繰り返す
- 形がいびつ
- 色が濃くなった
- 数カ月以上治らない』
次のアクションの指標も明確です。具体的な悪性を疑わせる所見が列挙されており、受診のきっかけの根拠になります。
皮膚科医の対応も『●ダーモスコピー(拡大観察)●必要に応じて部分切除または生検を行い、確定診断が可能です。』と記載されています。この通りに皮膚科医が行動しなかった場合、もしかすると患者側に不信感が生まれるかもしれません。微に入り細に入り、しっかりと記載されている印象です。
『おれはみんなを愛してる、おまえたちみんなを!』
皮膚科分野における在宅医療でのAIお試し企画はいかがでしたでしょうか。画像から所見を読み取る精度とそのバリエーションには正直驚きました。画像の粗さや、撮影条件なども考慮した上でこの所見を提示できるなら、十分に在宅医療で利用可能な技術といえます。ただし、その評価やアセスメントから診断については、分野により得意・不得意がある印象です。画像以外のデータも付加すると、さらに精度の高い診断にたどり着くことができるのは、以前より指摘されています。
今後の展望としては、他職種やかかりつけ医が臨床写真を撮影し、一旦AIに投げてから、その所見、これからのアプローチについてアウトプットします。アクションが必要なものについては皮膚科医に確認し、重症度、緊急性、治療のオプションを決定する、というのが実務的な運用だとの感想を持ちました。ちょうど、心電図の自動解析のような立ち位置だと思います。
皆さんはどうお感じになられましたか。臨床写真のAI画像診断は、皮膚科医にとってまさしく開けてはならない「パンドラの箱」なのでしょうか。中に希望の煙は残っているのでしょうか。
- 参考文献
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- 大塚 篤司, 皮膚科の診断に迷ったらChatGPTに全部聞いちゃえ!, 中外医学社, 2025
- ローレンス・ティアニー, 松村 正巳, ティアニー先生の診断入門 第2版, 医学書院, 2011
- ハーラン・エリスン,( 浅倉 久志, 伊藤 典夫訳), 世界の中心で愛を叫んだけもの, 早川書房, 1979
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