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maruho square:帯状疱疹の薬物療法の注意点


  • 総合病院 聖隷三方原病院 皮膚科 白濱 茂穂 先生

1)帯状疱疹とは?

体の片側半分に、帯状に痛みを伴う紅斑や小水疱などの皮膚病変が生じる

帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus :VZV)の再活性化によって生じるウイルス感染症である。初感染では、気道粘膜や眼粘膜からVZVが侵入し、ウイルス血症をきたす。肝臓、脾臓などの臓器で増殖したのち、全身に水疱を形成し水痘(図1左)となる。
水痘罹患後、VZVは水痘部位の知覚神経から求心性に三叉神経節または脊椎後根神経節などの神経細胞や外套細胞に水痘治癒後も生涯にわたり潜伏感染する。その後、加齢、疲労、ストレスなどにより宿主のVZVに対する免疫力が低下した際、特定の神経節でVZVが再活性化し、神経を傷害しながら末端まで順行性に移動して帯状疱疹が発症する(図1右)。
臨床症状は片側の神経支配領域に一致した疼痛や知覚異常が神経分布に沿って、浮腫性紅斑、紅色丘疹、集簇した小水疱が帯状に生じる。再活性時にウイルス血症をきたすと、全身に水疱が散発する水痘に類似した汎発性帯状疱疹がみられることもある。
潜伏部位が神経節なので、強い痛みを訴えることが多い。これらの痛みを総称して、帯状疱疹関連疼痛(zoster-associated pain:ZAP)と呼ぶ。ZAPは侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に大別される。急性期の疼痛が侵害受容性疼痛であるのに対し、皮疹治癒後に持続する帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgia:PHN)では神経障害性疼痛および痛みの記憶による心因性疼痛が病態である。

図1
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図1

2)鑑別疾患

治療をすすめる上で診断は重要である

まず、治療する上で正しい診断が重要である。帯状疱疹の典型例では臨床症状から診断は容易につく。しかし、時に皮疹や疼痛が軽微な場合、単純疱疹やその他の疾患(毛包炎、伝染性膿痂疹などの細菌感染や接触性皮膚炎)との鑑別を要する。最も重要なのは単純疱疹との鑑別になるかと思われる。毛包炎は比較的限局した部位に毛孔一致性に紅色丘疹と小膿疱をみる。単発あるいは多発。軽度の痛みあるいはかゆみがある。水疱を生じることはほとんどない。伝染性膿痂疹は主に夏期に小児を中心に出現する。痛痒さがあるが、神経痛様の症状は少ない。
ヘルペス疾患であれば、抗ヘルペスウイルス薬の投与となる。しかしながら、帯状疱疹、単純疱疹では投与される薬の種類や投与量が変わってくる。細菌などの感染症であれば、抗菌薬の投与、皮膚のバリア低下による皮膚炎ではステロイド外用薬や保湿剤などの塗布になる。そのため、正確な診断を行うことはとても重要である。帯状疱疹、単純疱疹の診断の補助としてイムノクロマト法を用いたVZV抗原キット(デルマクイック®VZV)、単純疱疹抗原キット(デルマクイック®HSV)などの診断キットを活用する。

3)治療方針

早期の抗ヘルペスウイルス薬の投与、疼痛の緩和

急性期疼痛の管理を十分に行い、皮疹を速やかに消退させ、PHN、瘢痕などの発生予防を目標とする。治療の第一選択は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与である。これら薬剤の薬理作用はウイルスの増殖を抑制することである。そのため、できるだけ早期の投与が望まれる。早期の抗ヘルペスウイルス薬の投与は、ウイルス増殖による皮疹の重症化と急性期疼痛を最小限に抑えることができる。皮疹治癒後に持続するPHNの治療法は疼痛の時期および重症度に応じた対応が必要になる。

4)抗ヘルペスウイルス薬

大きく核酸類似体と非核酸類似体の2種類に分類され、作用機序が異なる

核酸類似体としてはアデニンアラビノシド(adeninearabinoside:Ara-A)とも呼ばれるビダラビン(vidarabine)、アシクロビル(aciclovir:ACV)、バラシクロビル塩酸塩(valaciclovir hydrochloride:VACV)、ファムシクロビル(famciclovir:FCV)があり、非核酸類似体としては、アメナメビル(amenamevir:AMNV)がある。
ウイルスdeoxyribonucleic acid(DNA)複製時、2重らせん構造のDNAが紐解かれて1本鎖になる。1本鎖になる際、ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体が必要である。その後、l本鎖DNAは塩基がDNA合成酵素(ポリメラーゼ)に取り込まれてDNA伸長反応が進んでいく(図2)。
抗ヘルペスウイルス薬の作用機序として、核酸類似体はデオキシヌクレオチド(deoxynucleotide : dNTP)を競合的に阻害し、DNA合成を阻害する(図2)。一方、AMNVはヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の酵素活性を阻害し、2本鎖DNAを1本鎖に紐解かせないようにする(図2)。

図2
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図2

5)各抗ヘルペスウイルス薬の特徴

I:核酸類似体

図3
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図3
  • a)ビダラビン(アデニンアラビノシド:Ara-A)

    Ara-Aはアデノシンの類似体である。宿主細胞由来のチミジンキナーゼ(thymidine kinase:TK)によってリン酸化される。他の核酸類似体と違って、ウイルス由来TKを必要としない。したがって薬剤はウイルス感染細胞のみならず、すべての細胞に薬理作用を示すことになる。そのため、他の抗ウイルス薬より骨髄機能抑制をきたしやすい。
    Ara-Aは宿主細胞由来のキナーゼによって、リン酸化〔一リン酸化:monophosphate(MP)、二リン酸化:diphosphate(DP)、三リン酸化:triphosphate(TP)〕され、活性化Ara-A-TPがデオキシアデノシン三リン酸(deoxyadenosine triphosphate:dATP)を競合的に阻害し(図3)、DNA伸長反応を阻害する。1日1回の点滴静注によって治療効果が得られるが、ACVより治療効果は落ちる1)

  • b)アシクロビル(ACV)

    ACVはウイルス感染細胞内でウイルス由来TKによりリン酸化されACV-MPとなる。その後は細胞由来TKによってDP、TPにされ、ACV-TPがデオキシグアノシン三リン酸(deoxyguanosine triphosphate:dGTP)を競合阻害して(図3)、DNA複製を阻止する。ACVはウイルス由来TKを利用するため、ウイルス感染細胞内のみに作用し正常細胞には影響が少ない。ACV内服治療は、腸管からの吸収が悪いため、有効血中濃度を維持するためには、腎機能正常の成人には1日5回内服が必要である。入院治療を行う場合には、一般的にはACV点滴が行われている。

  • c)バラシクロビル塩酸塩(VACV)

    VACVはACVとL-バリンがエステル結合を介して連結した構造をもつことで、ACVの経口吸収性を改善したプロドラッグである。VACVは経口投与後、速やかに消化管より吸収されたのち、肝臓にて加水分解されて活性代謝物であるACVになる。ACVは血中からヘルペスウイルス感染細胞へ取り込まれ、その後はACVと同じように、ウイルス由来TK、細胞由来TKにより、リン酸化が進みACV-TPがdGTPを競合阻害する(図3)。経口吸収性が改善したことにより、腎機能正常成人では1日3回の内服で、ACV内服と比較して皮疹の改善は同等、疼痛の改善は優れている2)

  • d)ファムシクロビル(FCV)

    FCVはペンシクロビル(penciclovir:PCV)のプロドラッグである。FCVが消化管で吸収されたのち、肝臓でPCVに代謝され、ウイルス感染細胞内において、ウイルス由来TKによってリン酸化され、PVC-MPになる。その後は細胞由来TKによって、DP、TPにされ、PCV-TPがdGTPを競合阻害して(図3)、DNA伸長反応を阻害する。ウイルス感染細胞内での反応なので正常細胞の影響は少ない。*本邦未承認
    VZV感染細胞内では、PCV-TPの半減期(9.1時間)がACV-TPの半減期(0.8時間)より長い(in vitroの解析)ことが分かり、FCVは長時間にわたり感染細胞内でウイルスの複製を阻止できる。臨床的な治療効果評価ではFCVとVACVは同程度とされている3)

II:非核酸類似体

  • アメナメビル(AMNV)

    AMNVは核酸類似体と異なりへリカーゼ・プライマーゼ複合体の酵素活性を阻害することで(図2)、ウイルスのDNA複製を阻止する従来の作用機序と異なる薬剤として、2017年に世界に先駆けて本邦で発売された。
    AMNVは主に糞便中に排泄されるため腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに基づく用量調節は不要である。1日1回400mgを食後に内服することにより24時間有効血中濃度を維持することができる。AMNVはVACVと比較して、治癒までの期間、疼痛消失までの期間、ウイルス消失までの期間において、非劣勢つまり同等の効果が認められた4)
    透析患者においては、これまでの核酸類似体では、透析により薬剤が70%ほど除去されていた。しかし、AMNVはほとんど除去されないため5)、透析のスケジュールに合わせて、投与量や投与するタイミングなどを調節することなく、非透析患者と同じ投与方法でよいとされる。

6)抗ヘルペスウイルス薬の注意点

I:核酸類似体

  • a)薬剤による腎障害

    非核酸類似体のAMNV以外の従来の核酸類似体薬剤は腎排泄性であるため、腎機能に応じた用量調節を行わないと急性腎不全などの薬剤性腎障害を起こす可能性がある。腎機能は加齢に伴い生理的に低下するため、腎不全と指摘されたことのない高齢者を治療する際にも十分に注意を要する。ACVは大部分が糸球体濾過と尿細管分泌によって腎より排泄される。過剰投与時には、腎臓内のACV、VACVの血中濃度が過度に上昇する。これら薬剤は尿への溶解度が低いため、尿細管から集合管で結晶化(図4)を起こしてくるため、閉塞性の急性腎障害を呈してくる。

図4
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図4
  • b)薬剤性脳症(アシクロビル脳症)

    薬剤性脳症は、ACVや、そのプロドラッグであるVACVなどにより引き起こされる精神神経症状である。腎不全状態では容易に血中濃度が上昇し、急性腎障害あるいは中枢神経障害(薬剤性脳症)を引き起こし得る。意識障害、幻覚、不随意運動の頻度が高く、多彩である。薬剤性脳症は、ACVの主要代謝物である9-carboxyme-thoxymethyl-guanine(CMMG)が神経に作用し毒性をきたすとの報告がある6)7)。さらに、透析患者に生じた帯状疱疹で薬剤性脳症発症群と非発症群の血中ACV濃度とCMMG濃度を比較した研究では7)、ACV濃度は両群間で有意差はないが、CMMG濃度は脳症発症群で有意に高かったことが示されている。したがって、ACVそのものより代謝産物であるCMMGのほうが血中に蓄積しやすく、このことが脳症の発症に関与しているのではないかと推測されている。

  • c)薬剤性脳症とVZV脳髄膜炎の鑑別

    VZVによる中枢神経系合併症が帯状疱疹に伴う場合、髄膜炎症例では髄液中にVZVのDNAが確認されることからウイルスの直接浸潤が成因であると考えられる。明らかに髄膜炎の症状を呈さないまでも、それに近い病態は多くの症例で起きていると思われる。脳炎を起こしやすい因子としては汎発性皮疹、脳神経領域帯状疱疹、高齢、2回以上の帯状疱疹の既往、免疫機能の低下が挙げられている。
    また、薬剤性脳症との鑑別が問題となる。 ACVの血中濃度の測定は時間を要するものであり、これらを迅速に鑑別することは容易ではない。Rashiqらは8)、ACV投与中に精神神経症状が出現した35症例を検討した。その結果、薬剤性脳症は高齢者、腎不全患者、他の神経毒性を有する患者さんに多くみられ、その症状は用量依存性で突然発症し、発熱、頭痛、脳髄液所見の異常、巣症状(痙攣発作、片麻痺、脳神経麻痺)を欠くことにより、ウイルス脳炎と鑑別し得ると報告している。

II:非核酸類似体

  • アメナメビルは必ず食後に服用するように指導する

    AMNVは空腹時に投与すると吸収されにくいため、必ず食後に服用するように指導する。食事の影響としては、健康成人(24例)にAMNV800mgを空腹時に投与したとき、AMNVの最高血中濃度(Cmax)および血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は食後投与と比較してそれぞれ約0.64倍および0.52倍に減少した(外国人データ)9)。そのため、食後内服指導はとても重要である。
    併用禁忌としてはリファンピシンがある。AMNVおよびリファンピシンのCYP3A誘導作用により相互に代謝が促進され相互に血中濃度が低下し、AMNVおよびリファンピシンの作用が減弱するおそれがある。

7)痛み対応の注意点

  • a)抗ヘルペスウイルス薬への痛み止めや脱水の影響

    ZAPにおける急性期疼痛に対しては、抗ウイルス薬の併用として非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン(acetaminophen)の内服が一般的である。NSAIDsはプロスタグランディンの産生を抑制するため、腎血流量が少なくなる。そのため、適切な抗ウイルス薬を投与していても、NSAIDsを併用すると腎障害を起こす可能性がある。VACV単独投与よりNSAIDsを併用したほうが急性腎障害を起こすリスクが高いとの報告もあり、高齢者が薬剤性脳症を発症しやすい理由の1つであると思われる。そのため、高齢者ではアセトアミノフェンの併用が推奨される。
    核酸類似体であるACVや特にVACVを投与する場合には、水分を勧め、脱水を予防した状態で内服することが望まれる。また、併用薬中の腎排泄性にも注意が必要である。高齢者においては、慢性腎臓病が進んでいても、血清クレアチニン値が正常範囲で、腎機能低下に気づきにくいことがある。

  • b)神経障害性疼痛

    一般社団法人日本ペインクリニック学会では、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』10)を出している。薬物療法アルゴリズムとして、第1選択薬としてはCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン、ガバペンチン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるデュロキセチン塩酸塩、三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン塩酸塩などが挙げられる。強い痛みが持続するようなら、早めに麻酔科医、ペインクリニック医と協力して患者さんをケアしていくことは重要である。*適応症は承認外

まとめ

  • 抗ヘルペスウイルス薬の作用機序は、ヘルペスウイルスの増殖抑制なので早期に投与を開始することが大切である。
  • 腎排泄型の核酸類似体の抗ヘルペスウイルス薬を使用する場合、高齢者では腎機能が低下している可能性があるので薬剤の用量を調節する必要性がある。
  • 核酸類似体の薬剤では、腎機能に応じた用量調節を行わないと急性腎不全などの薬剤性腎障害を起こす可能性がある。
  • AMNVは主に糞便中に排泄されるため腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに基づく用量調節は不要である。
  • AMNV投与における注意点としては、空腹時に投与すると吸収されにくいため、必ず食後に服用するよう指導する必要性がある。併用禁忌としてはリファンピシンがある。
  • 高齢者の急性疼痛は腎障害を考慮してアセトアミノフェンが推奨される。
  • 神経障害性疼痛は日本ペインクリニック学会の『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン』に従って抗てんかん薬や三環系抗うつ薬などの鎮痛薬を活用していく。

*適応症は承認外も含む

参考文献:
  1. Shepp DH, et al: Am J Med 85(2A):96-98, 1988
  2. Lin WR, et al: J Microbiol Immunol Infect 34(2):138-142, 2001
  3. Tyring SK, et al: Arch Fam Med 9(9):863-869, 2000
  4. Kawashima M, et al: J Dermatol 44(11):1219-1227, 2017
  5. Tsuruoka S. et al: Adv Ther 37(11):4758-4764, 2020
  6. Helldén A, et al: J Antimicrob Chemother 57(5):945-949, 2006
  7. 東川 竜也, ほか: 医療薬学 33(7):585-590, 2007
  8. Rashiq S. et al: J Intern Med 234(5):507-511, 1993
  9. Kusawake T. et al: Adv Ther 34(12):2625-2637, 2017
  10. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版
    (一般社団法人日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ), 真興交易(株)医書出版部, 2016

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