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maruho square 皮膚科クリニックの在宅医療奮闘記:皮膚科在宅診療の終点、あれこれ


  • 小川皮フ科医院 院長 小川 純己 先生

はじめに

今回は、皮膚科在宅診療の終点について考えてみます。
終点というと、ゴール、目的、到達点というイメージがありますが、必ずしも目的が適うとは限りません。不慮の出来事で、在宅診療の継続が困難になることもあります。症状が安定すれば、かかりつけ医、訪問診療医にバトンを渡すことも可能になります。訪問診療を専門にするのでなければ、時間のやりくりができないとお考えの皮膚科医に、皮膚科在宅診療の終点のあれこれをお届けします。

プロブレムリスト

診療録の最初のページには、病名および転帰を記載する欄があります。フレマン(1年目のレジデント)時代、レセプト業務をするに当り、先輩医師から、「診療が終了した病名は治癒を付けて消しといてね」と申し送られました。大病院の外来では受け持ち患者以外を診察することが多いので、カルテの表紙にずらずらと病名が並んでいると、現時点でのプロブレムリストが分からず難儀します。一方事務的には、レセプトとの整合性がとれているか、すなわち医療資源が適切に分配されているかを評価する役割を果たしているのでしょう。患者追跡は疫学的にも必要なことと思われます。在宅医療の臨床の場では、その病名に関して変化が生じたときに、転帰を記載することになります。

在宅診療の終点(転帰)分類

転帰には、治癒、軽快、中止、継続、転院、死亡などの種類があります。皮膚科の在宅診療における転帰のイメージを一つ一つみていきましょう。

  1. 治癒:退院時転帰の定義によると、「退院時に、退院後に外来通院治療の必要が全くない、または、それに準ずると判断されたもの。」とされています。退院時を在宅診療終了と読み替えると、継続して訪問診療する必要が無い状態といえます。褥瘡消失、中毒疹治癒、体部白癬消失、疥癬治癒などがこれに相当するでしょう。例えば、褥瘡のリスクマネジメントが行われ、創部が完全に上皮化した状態なら、継続してスキンケアは必要になるでしょうが、一旦皮膚科医の手を離れても良いと思われます。急性疾患や感染症などが完全にコントロールされていれば、再罹患の可能性は高くないため、治癒にて診療終了で良いでしょう。
  2. 軽快ないし寛解:軽快の定義は、「疾患に対して治療行為を行い改善がみられたもの。原則として、その退院時点では外来等において継続的な治療を必要とするものであるが、必ずしもその後の外来通院の有無については問わない。」寛解の定義は、「血液疾患などで、根治療法を試みたが、再発のおそれがあり、あくまで一時的な改善をみたもの。」となっています。症状は軽快したが、継続的な治療、経過観察が必要ということでしょう。アトピー性皮膚炎、類天疱瘡、乾癬、膠原病など慢性疾患が該当します。疾患によってはステロイド薬の用量など微調整が必要になるかもしれませんが、症状が安定していれば、かかりつけ医、訪問診療主治医にバトンを預けても良いと考えます。
  3. 不変:不変の定義は、「当該疾患に対して改善を目的として治療行為を施したが、それ以上の改善がみられず不変と判断されたもの。ただし、検査のみを目的とした場合の転帰としては適用しない。」慢性湿疹、多形慢性痒疹などがこれに相当するでしょうか。他にこれといって原因のない痒みを主体とした皮膚症状は、抗ヒスタミン薬の内服、ステロイド薬、保湿剤の外用などで加療しますが、なかなか治療に反応しないことがあります。症状に合わせて対症療法的に内服、外用を続けることになります。外科的な治療を希望されない良性腫瘍は、不変というより、「診断のみ」で治療しない場合に該当します。
  4. 増悪:「当該疾患に対して改善を目的として治療行為を施したが、改善がみられず悪化という転帰を辿ったもの。」が増悪です。「ぞうあく」と読みます。医学用語では「悪寒(おかん)」とか、「悪阻(おそ)」とか、悪を「お」と読むことが多いのですが、「ぞうお」ですと「憎悪」となり、憎むことになります。在宅診療だと、もともと全身状態が良くなく、褥瘡が治療に関わらずどんどん悪くなったりすることがあります。メトロニダゾールで対応している皮膚癌などもこれに相当するでしょうか。
  5. 転医あるいは転院:原病など増悪時の緊急対応がこれに相当するでしょう。皮膚科疾患の増悪であれば、前項に該当します。施設ですと、誤嚥性肺炎や尿路感染症などで入院になり、当日受診がキャンセルになることがあります。
  6. 死亡:原病などによるものが多く、皮膚疾患で死亡することは稀です。フレマン時代の思い出ですが、当時の研修施設に「皮膚科は患者をsterben(死亡)させちゃいけない」と公言していた上級医がいました。私は当時もとんがっていたので、「医者風情が患者の生死に纏わる心構えを、恣意的に行うなんて絶対におかしい」と、その考えに反発していました。上級医の真意は別の所にあったのかもしれませんが、私の脳裏には、ブラックジャックの名台詞、「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんかね・・・」が木霊していました。

あくまでも退院時の転帰に準じて、在宅診療の終点を分類してみました。「不変」は「継続」とほぼ同じ意味なので、在宅診療の場で転帰として使用することはないのかもしれません。

下腿潰瘍の症例

褥瘡、下腿潰瘍は不変、増悪の転帰を辿る場合がままあります。入院、転医の判断が難しいです。看取りの段階で、本人、家族が状況を受け入れ、主治医、医療従事者もその段取りをしているなら、皮膚科訪問医の使命は、段取りに合わせて下山準備に取り組むことです。二次感染に留意しながら、患部の清潔保持に努め、本人の苦痛および家族の負担をなるべく軽減するような包帯交換などの内容にします。
下腿潰瘍を主訴に、病院、診療所への通院が困難のため、皮膚科在宅医療を導入したケースがありました(図1)。下腿の血行不全がベースにあり、何回か血管外科で再建術を施行されていました。本人は居宅にこだわりがあり、保存的な治療で日常生活を過ごしたいとのご希望でした。何とか低空飛行で下肢状態を管理していましたが、冬場になって急速に皮膚潰瘍が増悪しました(図2)。下肢の機能維持のためには外科的治療が必要な旨を説明しましたが、専門機関を受診するものの入院加療は頑として拒否されました。やがて、疼痛のために家の中の移動ばかりか起き上がりもできなくなり、救急車の要請となりました。その頃には、創部の二次感染から敗血症になっており、救命のためには下肢切断が必要な状態でしたが、最後まで切断は拒否され、自身の初志を貫徹されました。当人が計画設定している生活プランと、医療従事者がベターと信じている治療内容が合致しない場合、どうするのが良いでしょう。身寄りの無い患者が、救命というお題目のもと、自分が予想もしていなかった状況に追い込まれるとしたら、投入された医療資源は何のためだったのでしょう。

図1. 初診時(右下腿の皮膚潰瘍。32x20mm)
記事/インライン画像
図1. 初診時(右下腿の皮膚潰瘍。32x20mm)
図2. 入院前(右下腿全周性に潰瘍が増大。遠位部に新生病変あり)
記事/インライン画像
図2. 入院前(右下腿全周性に潰瘍が増大。遠位部に新生病変あり)

利用者が在宅の場で自分の幸福を追求できるようにするのが、在宅医療の目指すものであったはずです。個人の価値観をできるだけ尊重し、限られた医療資源を適正に使用できればと、日々格闘しています。

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