maruho square:【連載 第2回】足の診方(前編)
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- 医療法人社団青泉会 下北沢病院理事長 久道 勝也 先生
動脈虚血の確認
下北沢病院でルーチンで行っている「足の診方」は、医師や看護師にとっても役に立つと考え、今回は「足の診方」について具体的にお話しさせてください。
足の問題で患者さんが来院した場合、その方がどのような訴えで来院したにせよ、最初に行うべきことは、足の動脈虚血の有無の確認です。この確認作業は、足の健康状態を正確に把握し、適切な治療方針を立てる上で不可欠です。動脈虚血が疑われる場合や存在する場合は、他にどのような症状が伴っていても、まずはその虚血状態の治療を優先させる必要があります。動脈虚血は足に酸素や栄養を供給する血流が不足している状態で、心臓でいえば心筋梗塞や狭心症の状態です。速やかに適切な治療が行われない場合には、症状の急速な悪化(しばしば数日というレベルです)を招き、最悪の場合は足の切断に至ることさえあります(図1)。このような結果は決して珍しいものではなく、多くの症例が報告されています。特に、治療開始が遅れたケースでは、通院過程で見逃されていたり、適切な治療が施されていなかったという指摘も血管の専門医からしばしばあります。このため、足の動脈虚血の診断と治療は、患者さんの足を守るために最も優先されるべきであり、この重要性を深く理解し、より良い治療結果を実現するためには、動脈虚血の早期発見と迅速な治療介入が鍵となることを常に念頭に置く必要があります。

診断方法
動脈虚血を疑うべき状況は、患者さんからの特定の訴え、具体的には、足が冷たい、しびれを感じる、痛みがある、特に歩行時や運動後に痛みが増す(これは間欠性跛行として知られていますね)などの症状が挙げられます。これらの症状は、動脈血流の流れが適切でない可能性が高く、特に足の動脈が狭窄しているか、何らかの理由で血流が阻害されていることを示唆しています。このような症状を訴える患者さんに対しては、速やかに詳細な診察を行う必要があります。
まず実施すべきは、視診による足の外観の確認です。この段階で注目するポイントは、拇趾背部の無毛状態、足背の皮膚にみられる不自然な光沢、および発赤や腫脹の有無です(図2)。拇趾背部の無毛状態は、血流不足による毛細血管の機能不全を示唆しており、足背の皮膚のテカテカした光沢は、栄養不足や血液供給の問題を反映していることが考えられます。また、発赤や腫脹は炎症や血流障害の兆候であり、これらの症状がみられた場合には、さらに詳しい診断が必要です。
次に行う触診では、膝窩動脈、足背動脈、そして後脛骨動脈の拍動を確認します。これらの動脈は足への血液供給の主要なルートを構成しており、拍動の確認は動脈血流の有無を評価する上で重要な手段です。膝窩動脈は膝周辺を両手で挟み込むようにして確認し、足背動脈は1趾と2趾の延長線上、後脛骨動脈は内果の後方で触診します(図3)。これらの動脈で拍動が感じられない、または拍動が微弱である場合には、動脈虚血の存在が強く疑われ、重大な問題が潜んでいる可能性があります。このような場合には、専門的な評価と治療のために、循環器内科や血管外科の専門医への紹介が推奨されます。その他にも、例えば通常は普通に治るはずの皮膚のキズがいつまでも治らない。例年しもやけになるが、暖かくなると治癒するのに、今年はいつまでも治らず、趾尖部がかさぶたになったなどに対して常に動脈虚血を念頭におきます。
私は虚血に関してはある程度過剰診断になっても構わないと考えています。むしろ見逃して、なんとなく外用剤を使って経過を診て、ズルズルとねばってしまい、虚血状態が進み、治療介入が遅れるのは最悪です。動脈虚血の疑いがある場合には、その早期発見と治療は患者さんの足を救う上で極めて重要であり、診療科を問わず足を診る臨床家の責任です。動脈虚血が疑われる症状がある場合、直ちに専門施設へコンサルテーションを取り、専門的な診断と治療を求めるのが、重大な合併症を避けるためには必要です。これを実現するためには、循環器内科や血管外科の専門医と普段からの連携が不可欠です。


検査方法
医療機関によっては、皮膚科医が直接足の動脈血流状態を詳しく調べる検査を行うことができるでしょう。具体的には、Ankle-Brachial Index(ABI)検査やSkin Perfusion Pressure(SPP)検査があり(図4)、足への血液供給の状況をより正確に把握することが可能です。ABI検査は、上肢と下肢の血圧比を用いて下肢への血流状態を評価する方法で、0.9以下を示す場合、足への血流が不足していることを示し、虚血の可能性が高いと考えられます。一方、ABIが1.2以上である場合には、動脈硬化による血流障害の可能性が疑われます。
SPP検査は、皮膚の最小灌流圧を測定し、足の組織が正常に機能しているかを評価する検査で、40mmHg以上の値が得られると、傷の治癒が期待できます。これらの検査結果は、最適な治療法を選択する上で貴重な指標となります。

おわりに
動脈虚血の疑いがある患者さんを診療する際には、これらの検査を積極的に活用することが推奨されます。早期に正確な診断を行い、必要な場合には専門医への迅速な紹介を行うことで、患者さんの足を守り、最悪のシナリオを避けることができます。足の健康を守るためには、皮膚科医をはじめとするさまざまな医療分野の専門家が密接に連携し、患者さん一人ひとりの状況に応じた適切な診療を提供することが重要です。このような多職種間の協力によって、足の動脈虚血に対する適切な治療を行い、患者さんの生活の質の向上に寄与することが可能になります。少し見方を変えれば、多職種連携こそ、足の診療に携わる、醍醐味であり楽しさだともいえるかもしれません。