メインコンテンツに移動

maruho square:患者さんと「ともに在る」・地域と「ともに有る」・ 仲間と「ともに歩る」医療 ~在宅NSTの取り組み~


  • 医療法人社団日翔会理事長 渡辺 克哉 先生

はじめに

私たちのナチュラルケアグループは、超高齢化社会に必要とされる総合医を目指しています。ふだんから近くにいて、いつでも相談に乗ってくれて、どんな病気でもすぐに診てくれる、かかりつけ医師による医療・・・そんなプライマリ・ケアの充実が重要であると考え、グループ全体でよりよい在宅医療の提供ができるように取り組んでいます(図1)。
大阪府・滋賀県を中心とした「医療法人社団日翔会」、大阪府・兵庫県を中心とした「医療法人慶春会」、京都府を中心とした「医療法人社団啓至会」の3つの医療法人、関係クリニックの兵庫県西宮市「つだクリニック」、兵庫県神戸市中央区「松田・神戸クリニック」、合計12拠点を運営しており、グループ全体の従業員総数は約520名となりました。
患者さんが自宅・施設など病院外で療養するためには、介護や緊急時の対応など生活に生じるさまざまな問題を解決しなければなりません。24時間365日の対応や気軽な相談を受けるには、医師1人では限界があります。このため、連携医療機関・医師を多数揃えるとともに、多職種連携し、患者さん・地域・仲間と「ともに“ある”」医療を信条として、プライマリ・ケアの充実に励んでいます。
本稿では、当グループの在宅医療におけるさまざまな取り組みのうち、最近とりわけ力を入れている在宅NSTについてご紹介させて頂きます。

図1. ナチュラルケアグループ 訪問診療エリア
記事/インライン画像
図1. ナチュラルケアグループ 訪問診療エリア

在宅NST
(nutrition support team:栄養サポートチーム)

当グループでは、患者さんの食支援として、2011年から歯科による嚥下往診を開始しました。嚥下内視鏡検査によって、場所を選ばない客観的評価は可能となりましたが、その検査結果を更に活かすため、2014年から嚥下内視鏡検査前後のフォロー及びコーディネートに言語聴覚士を起用し、2015年には管理栄養士を起用しました。試行錯誤を繰り返し、現在では、在宅NSTが多職種連携で患者さんの食支援に取り組むようになっています。在宅NSTの多職種連携は、言語聴覚士と管理栄養士を中心に、医師、歯科医師、看護師など多くの医療職の他、ケアマネージャーや医事課などの事務職も関わっています。この他、嚥下補助食品、調理器具などの開発企業、シェフや板前の皆さまの協力を得て、食支援の幅の拡充を目指しています。
また、在宅医療の食支援は、一時的ではなく、年単位で考える必要があります。正直に話すと収支は赤字の状態ですが、当グループの「ともに“ある”」医療、プライマリ・ケアの充実には、在宅NSTが不可欠だと考えており、在宅医療でもNSTが当たり前になるよう組織として模索しています。その1つとして、在宅医療を手掛けている他医療機関の医師の先生方に、当グループの在宅NSTを活用してもらう活動を既に始めています。特に、1人で在宅医療を手掛けている先生方にとって、自院でNSTを抱えるにはコスト負担が大きすぎるため、そこに当グループの在宅NSTを起用してもらうというワークシェアリングです。他医療機関の先生方は、低コストでNSTの食支援を患者さんに提案できるようになり、在宅医療におけるNSTの定着や、地域包括ケアシステムにも貢献できると考えています。

食支援における「気付き」の重要性と実践

在宅医療の現場において、低栄養の患者さんは非常に多いです。低栄養からフレイルやサルコペニアを経て要介護状態へ進行するため、できる限り早い段階で対策を取るのが栄養管理の一番の目的になります。ただし、医師の診療中に、患者さんから「低栄養です」と断定できるような主訴はほとんどなく、気付きにくいという問題があります。
低栄養に気付く最たるサインは体重減少であるため、訪問診療時には可能な限り体重測定を行うようにしています。体重以外のサインとして、“患者さんに何となく活気がない”状態は低栄養を反映していることもあるため、患者さんを日々近くで見ている方々の「ちょっとおかしい、いつもと違う」という発信には特に注意するようにしています。
当グループにおいて、65歳以上の訪問診療中の患者さん2,476人を対象にCOUNT(controlling nutrition status)値及び血清ALB値を測定し、栄養評価を行ったところ、COUNT値判定で59.5%、血清ALB値判定で37.9%の方が低栄養に該当しました(図2)。主訴がなく気付きにくい低栄養を早期に発見するため、COUNT値を採血結果表に表記するようにしています。

図2. 65歳以上の訪問診療中の患者さんのCOUNT値、血清ALB値
記事/インライン画像
​ 図2. 65歳以上の訪問診療中の患者さんのCOUNT値、血清ALB値 記事/インライン画像 図2. 65歳以上の訪問診療中の患者さんのCOUNT値、血清ALB値 [ドラッグして移動] ​

症例1

44歳 女性。食道癌末期、手術不可能。
病状進行で経口摂取困難となり中心静脈栄養管理中。
月1回 病院通院で抗がん剤投与中。

食事動作は問題ないものの食欲がなく、通院先の病院医師からはプリン・ゼリーであれば摂取可能と言われている症例で、患者さんの希望は「G店のとんこつラーメンが食べたい」でした。
在宅NSTからG店に事情を踏まえてラーメンを提供してもらえないか相談のメールを送ったところ、G店の社長からすぐ快諾のお返事を頂きました。抗がん剤治療の合間を縫って日程を調整し、G店に用意頂いたテイクアウトのラーメン1食分とラーメン鉢を持ってご自宅を訪問、管理栄養士が仕上げ調理を行い、言語聴覚士立ち合いのもと患者さんに提供しました。食欲がないために中心静脈栄養管理していたのが嘘のように、取り分けた麺少々とチャーシューを食べ切って、G店にテイクアウトがあることを知らなかった、これから娘さんにラーメンを買ってきてもらうことにする、と笑顔が見られました。
当グループの在宅NSTが一番大切にしている「食事を楽しむ」という当たり前の気持ちを取り戻すことができたと同時に、娘さんのグリーフケアを食支援で行えた症例です。

症例2

72歳男性。パーキンソン病、2014年発症(Yahr:V)、発症7年目。
誤嚥性肺炎で緊急入院加療後、嚥下リハビリを受けるも嚥下機能低下あり、胃瘻造設。
自宅で過ごしたいと本人・家族より希望があり、訪問看護及びリハビリを導入して自宅退院。

*Hoehn & Yahrの重症度分類:V)車いすでの生活や寝たきりとなる

入院時の嚥下リハビリで行っていたプリンやゼリーから、週1回の訪問嚥下訓練を開始しました。舌の動きが小さく、送り込みも弱いものの、ムセ込みはなく摂取が可能で、発熱や喀痰量増加なく経過していたところ、家族から「おにぎりが食べたいと手で三角を作っている」という情報をもらい、患者さんに好物を尋ねると「お寿司」とのことで、在宅NSTの言語聴覚士、管理栄養士にお寿司を食べられないか相談しました。
1カ月をかけて、お粥、重湯を取り除いたお粥、さらに米飯を混ぜてと、徐々に食形態の難易度を上げて訓練を重ねました。いよいよ本番、患者さんの大好物であるまぐろの握り寿司を用意したところ、訓練時の2倍はあった量のお寿司を全て食べ切ることができました。一口量、すし飯のべたつき感など、在宅NSTメンバーにとって課題は残っているようですが、患者さん、家族ともに大変喜ばれ、「大切な人と食べる」という日常を取り戻すお手伝いができた症例でした。

おわりに

ナチュラルケアグループ在宅NSTの始まりは、ある患者さんの「うなぎが食べたい」という言葉でした。好物のうなぎを嚥下障害により食べることができず、食の楽しみや意欲を失っている状態でした。食が楽しめなくなれば当然ながら低栄養となり、何かしらの対策を取らなければ要介護状態へと進行します。高齢化が進み、在宅医療の普及が進められている現在、NSTの需要が増えることは予想されますが、そこにはコストの壁が立ちはだかります。まだまだ「在宅医療の食支援にNSTが当たり前」というには程遠い状態です。当グループの在宅NSTでの取り組みが、ひいては在宅医療という医療環境の充実に繋がるよう、グループ全体で目指していきます。

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ