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maruho square:超高齢地域における在宅医療の推進~クリニックの理念にもとづいた地域活動~


    • 医療法人社団 清水メディカルクリニック 理事長 清水 政克 先生

    はじめに

    当院は兵庫県明石市と神戸市垂水区にまたがる明舞団地の中心に位置し、明石市・神戸市垂水区・神戸市西区を主なカバーエリアとして在宅医療を提供している連携型機能強化型在宅療養支援診療所です。明舞団地は兵庫県有数の高齢化率(40.9%:2017年)を誇っています。当院は在宅医療専門ではなく外来診療も行っていますが、外来通院が困難となった超高齢者が在宅医療へ移行するケースが最近ますます増加しています。
    本稿では、このような超高齢地域における当院の在宅医療の推進活動について、当院の理念に沿ってご紹介させていただきます。

    在宅医療の推進と多職種連携・地域連携

    理念1:近隣の医療・介護・保健機関と協働し、地域に「治し、支える」医療を提供します。
    これまで高齢者などを対象とした一般的な訪問診療に取り組んでいましたが、5年ほど前から医療的ケア児を対象にした小児在宅の対応も始めました。きっかけは医療的ケアが必要な子どもがご自宅で過ごすにはどうしても訪問診療が必要ですが、医療的ケア児に対応できるクリニックが近くにないケースが多く、小児基幹病院から当院に相談があったからです。スタッフ全員初体験で手探り状態でしたが、小児科のトレーニングを受けている後期研修医の協力も得ながらひとつずつ小児在宅症例を積み重ねていったところ、徐々に医療的ケア児の訪問診療依頼が増加しました。先日には、スタッフ一丸となって1歳に満たない子どもの在宅看取りを支援することもできました。これからも小児在宅医療には重点的に取り組んでいくつもりです。
    また、残念ながら在宅看取りとなった方のご家族に対するグリーフケア(悲嘆ケア)にも力を入れています。具体的には、在宅看取りを行う前から「ディグニティセラピー」という家族ケアを行ったり、在宅看取りをしたあとには遺族会「そよかぜの会」を開催したりしています。最近では、「めいまい保健室」(後述)での遺族会カフェ「そよかぜカフェ」も毎月開催しています。
    連携している多職種とは定期的に「ケア子屋勉強会」という事例検討会を開催しています。この勉強会では行政の区域を越えた顔の見える連携の構築を目指しており、医療的な視点ではなく看護・介護やケア的な視点からの議論を行うようにしています。医師はあくまで司会・進行のみで、勉強会の主役は看護職と介護職としています。コロナ禍で一旦休止していましたが2023年春から再始動する予定です。さらに、弁護士や社会福祉士、社会福祉法人理事などと介護事故などに関する勉強会も定期的に開催しており、虐待や成年後見などについての法的な知識を得るようにしています。

    在宅医療の啓蒙・啓発とまちづくり活動

    理念2:地域の人々が、療養場所や最期の場所を自由に選択できるような「地域づくり」に貢献します。
    在宅医療の啓蒙・啓発のため、地域の多職種と在宅医療に関する寸劇を市民向けに開催し、その動画コンテンツを用いて地域住民に在宅医療の周知・広報を行っています。かつては「通院できなくなったら入院するもの」というのがこの地域の方々の認識でしたが、当院が在宅医療を立ち上げてから、在宅医療を利用すれば自宅で治療したり、終末期を過ごしたりできることが少しずつ地域に浸透してきたように感じています。
    また、在宅医療を地域住民に浸透させていくもうひとつの活動として、無料よろず相談所の「めいまい保健室」を稼働しています。これは医療・介護を介したまちづくり活動の一環であり、コミュニティヘルスの増進やACP(Advance Care Planning)の推進、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の育成を目的としています。毎月タイムテーブルを作成し、相談員が介護や福祉に関する相談や健康相談を受けたり、体操教室やアロマテラピーを実施したり、映画上映会などのイベントを開催したりしています。そして地域包括支援センターなどの行政とも協働し、地域の空き家対策などにも取り組んでいます。

    教育・人材育成・研究

    理念3:地域に「安心」を提供できる人材を育成します。
    当院は訪問診療で在宅緩和ケアを地域に提供していますが、在宅緩和ケアのキーワードは「安心感」です()。地域に安心感を提供できる人材を育成するために当院では、一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会認定後期研修プログラムで緩和ケアをサブスペシャルティとした「神戸・明石・家庭医療専門医養成プログラム」を運営しています。社会医療法人愛仁会明石医療センター総合内科、神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科、公益財団法人甲南会甲南医療センター緩和ケア病棟と協力して、家庭医療と緩和ケアを専門的に対応できる医師の養成を行い、「在宅看取り経験のあるホスピタリスト」を地域に輩出することを目標としています。プログラムは緩和ケア病棟で研修を終えてから当院で在宅緩和ケアに6~12カ月従事するスケジュールで、緩和ケア病棟で学んだ専門的緩和ケアを在宅医療という地域のフィールドで実践します。総合診療専門医養成プログラムと家庭医療専門医養成プログラムがあり、これまで本プログラム卒業生の総合診療専門医認定試験及び新・家庭医療専門医認定試験の合格率はともに100%となっています。在宅緩和ケアを提供し、在宅看取りまで経験したことのある医師は「こんな状態では家に帰ることはできませんよ」とは決して言わないでしょう。「どんな状態でも家に帰ることはできますよ」ときっと言ってくれるはずです。そう信じながら、毎日OJTで後期研修医の指導を行っています。また、初期研修医の地域医療研修も受け入れており、医師になったばかりの早い時期から在宅医療を肌で感じてもらえるようにしています。

    図. 在宅緩和ケアのモデル
    記事/インライン画像
    図. 在宅緩和ケアのモデル

    (Sarmento VP, et al: BMJ Support Palliat care 7(4):390-403, 2017より引用改変)

    一方、すでに研修期間を終えて緩和ケアを専門とする医師にとっても、在宅緩和ケアの経験は必須です。当院では神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科のfaculty developmentとして在宅緩和ケアのトレーニングを行っており、がんだけではなく、非がん・小児の緩和ケアや地域の多職種連携を現場で実践しながら学んでもらっています。また、神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科と合同でweb抄読会を行い、最新の知見を共有して院内スタッフのスキルアップにも取り組んでいます。
    さらに、将来の開業を予定している医師を積極的に非常勤雇用し、開業時には当院の在宅医療に関するノウハウを全て提供することにより、地域の在宅医療推進に繋がることを期待しています。また、在宅緩和ケアに関する外国人医療者の見学受け入れも行っており、これまでにブラジル、アメリカ、タイ、スペイン、インドネシアから多職種の方々にお越しいただきました。学会での発表も積極的に奨励しており、連携する訪問看護ステーションなどと共同で事例報告や活動報告などを発表しています。卒前の学生教育としては、神戸学院大学の非常勤講師を拝命し、将来の薬剤師・管理栄養士・リハビリ職・社会福祉士などの多職種連携を促進する専門職連携教育(interprofessional education:IPE)のカリキュラムに参加し、地域の在宅療養支援診療所の学生実習受け入れ調整なども行っています。

    おわりに

    これからの医療は、「治す医療から治し支える医療」「病院完結型医療から地域完結型医療」への転換が必要です。そのなかで地域の中心的役割を果たすのは在宅医療であり、地域包括ケアの構築とは、在宅医療の推進に他なりません。
    外来通院が困難になった患者さんのご自宅を訪問すると、患者さんもご家族も大変喜ばれます。この患者さんはこの家で住まわれていたのか、こういう趣味があったのか、これまでこんな生活をしてきたのか、など家でしか分からないことは多くあります。私たちがよく知っていると思っている患者さんの心の内は、実は全然違うものなのかもしれません。患者さんにとって本当に一番大切なことは一体何なのか、在宅医療ならそれを知ることができるのではないでしょうか。

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