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maruho square:在宅医療現場でよく遭遇する爪疾患(前編)


    • 医療法人社団はやぶさ みずじゅんクリニック院長 水上 潤哉 先生

    はじめに

    大学病院に10年勤務した後、2014年5月に神奈川県相模原市中央区にさがみはらファミリークリニックを開設し、2020年3月に相模原市緑区にみずじゅんクリニックを開設しました。現在、医療法人としては、内科、皮膚科、アレルギー科を中心とした総合診療外来で年間約5万人の診療を行い、在宅医療では年間約100名のお看取りを含めて、これまで約4,000名の患者さんに訪問診療を行っています。

    在宅医療での皮膚疾患

    私自身が大学病院で、総合診療科、皮膚科の各々に医局員として勤務したこともあり、訪問診療で皮膚疾患の診療を依頼されることが少なくありません。在宅医療の現場では、褥瘡、湿疹、感染症や腫瘍など、皮膚科領域では多様な往診依頼がありますが、今回は意外に見逃されやすい爪の変形や生活への影響をご紹介します。

    足の痛みがある時には爪も必ずみる

    症例1:80歳代男性。脳性麻痺で自立歩行などは困難でしたが、意思疎通は可能で、これといった病気もなく、自宅で家族の介護を受けながら生活をしていました。新型コロナウイルス感染症に罹患し、自宅療養中に食欲不振などがあり、保健所から依頼があり自宅へ往診しました。診察のために体を動かしたところ足が痛いと訴えがありました。下肢の廃用はありましたが、浮腫や発赤はなく、痛みの原因として蜂窩織炎などは否定的でした。靴下を脱がせて足をみると、右足母趾の爪甲が異常に伸びていました(図1)。ご家族に状況を確認すると、もう長いこと爪を切っていないことに加えて、普通の爪切りでは切れなさそうなので、どうしようか困っているとのことでした。ニッパーを用いて爪甲を切除すると、右足第二趾の爪甲先端が当たっていた部位に潰瘍を認め、これが痛みの原因と判明しました(図2)。

    図1. 症例1:爪切り前
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    図1. 症例1:爪切り前
    図2. 症例1:爪切り後
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    図2. 症例1:爪切り後

    症例2:90歳代女性。認知症、廃用症候群で施設へ入所され、他院が訪問診療を行っている方です。爪甲の変形があり、爪白癬などを疑われ当院へ紹介があり往診しました。診察時、足趾の爪甲は変形があり、左足母趾の爪甲は皮膚に埋もれる形で変形を認めたため(図3)、ニッパーを用いて切除したところ、明瞭な皮膚の圧痕を認めました(図4)。下肢の浮腫のため、弾性包帯を着用していましたが、爪甲変形をこれ以上長期間放置していたら皮膚潰瘍を形成する危険性がある事例でした。

    図3. 症例2:爪切り前の皮膚への圧迫
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    図3. 症例2:爪切り前の皮膚への圧迫
    図4. 症例2:爪切り後の皮膚の圧痕
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    図4. 症例2:爪切り後の皮膚の圧痕

    症例3:80歳代女性。両足母趾の爪甲の変形が目立ち(図5)、右足母趾の爪甲は上向きで、逆方向に沿うような形の変形があり、左足母趾は外側へ伸び、左足示趾に接触するような形で変形しています。このような爪甲の状態では、歩行、移乗の際にけがをする危険性があることに加えて(図6)、爪切りの際には皮膚を誤って傷つけないように注意が必要です。

    図5. 症例3:爪甲の変形
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    図5. 症例3:爪甲の変形
    図6. 症例3:爪甲剥離と出血
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    図6. 症例3:爪甲剥離と出血

    おわりに

    在宅医療を受けている患者さんは自分で皮膚や爪の観察、ケアをできる人は多くはありません。医療従事者が積極的に関わり、定期的に観察を行い、適切なケアの実施、指導をすることで、足の健康維持、病変の予防、早期発見につなげることができます。
    爪の肥厚や陥入爪の痛みなどから歩行困難、転倒による骨折、寝たきりにつながる可能性もあります。バイタルサインなどの全身状態のチェックのみならず、皮膚や爪の状態をしっかりとみることで異常を早期に発見し、適切に介入することで、歩行状態の改善やADL(Activities of Daily Living)の向上を図り、療養生活を支援していくことが重要であると考えます。

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