maruho square 皮膚科クリニックの在宅医療奮闘記:皮膚科の在宅医療
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- 小川皮フ科医院 院長 小川 純己 先生
はじめに
皆様、こんにちは。京都市山科区で皮膚科を開業(図)している小川純己です。半径2km程の小さな盆地に13万人が生活している地域で、主に自転車を使っての在宅医療をしています。連載2回目は、実際に往診を行ってビックリしたことを中心にお届けします。

在宅医療あるある話?
在宅医療をする場合、いつ行うかが問題になると思います。1人で診察している場合、標榜している診療時間内に対応するのは困難です。
往診を実際に行っている皮膚科の先生に話を聞いてみると、午前診、午後診の合間に、あるいは午後診が終わった後にという先生が多いようです。休診日や土曜の午後にまとめてというパターンもあるそうです。
私は午前診と午後診の合間、午後のひとときに患家を訪問しています。ケアマネジャーや訪問看護師も活動中の時間なので、患家で待ち合わせて、情報を共有するのにも都合が良いです。私は自転車移動なので、夜はなるべく避けるようにしています。夜間の移動は交通事故の危険性が高まり、暗がりで患家を発見することが困難になることもあります。
さて、そんな在宅医療の中で印象深かったエピソードをいくつか紹介します。
case1. 悲しいご対面
その日は曇り空だったため、徒歩で患家に向かいました。自転車往診の最大の難敵は雨天です。ゲリラ豪雨で全身濡れ鼠になったことは一度や二度ではありません。念のために傘を手にしての訪問でした。角を曲がってその家の前まで行くと、見慣れない車が停まっていて何かの準備をしているようでした。「あっ・・・」何と、お通夜の準備の真っ最中でした。患者さんが3日前にお亡くなりになり、当院には家族からも、訪問看護師やケアマネジャーからも、その連絡が入っていませんでした。
家族と面会し、霊前にお参りしてから、最期の状況を教えてもらいました。お互いに何となく気まずかったです。このことから得られた教訓は、「他人宅を訪問する在宅医療では、以前の国際旅客便のように(当日の)リコンファームが重要」ということです。ひと手間ですが、確認することで新たな情報が得られることもあります。
case2. 運転は気合いだっ!!
秋の紅葉で有名な門跡の参道をさらに越えて、谷川に沿った細道沿いの患家を訪問しました。主治医の先生から、山奥の坂道で自転車は厳しい旨を聞いていましたので、初回は車を使って移動しました。
昼なお暗い山道で木漏れ日だけが頼りです。道の谷側はガードレールがあるものの、すぐ下は渓流です。山側は切り立った崖になっており、道幅はきっちり車1台分、すれ違いは待避所まで一切逃げ道無しです。運転手の緊張は最高に高まります。何とか無事に患家に辿り着きました。
診療が終わり、帰り支度を始めたころ、患家の家族に「一本道はすれ違いが大変ですね」と聞いてみました。すると「あの道を通るときは気合いが大事だ」との力強いお返事が返ってきました。気合い不足を十分に自覚している私は、それ以降、その患家への訪問は、時間とパワーに十分余裕を見込んでから、自転車で行くことにしています。
保険請求の注意点 【往診】
- 1)往診の加算
往診では、①緊急往診加算(325~850点)、②夜間・休日往診加算(650~1,700点)、③深夜往診加算(1,300~2,700点)があります。在宅療養支援診療所か在宅療養支援病院かなどの施設基準により点数が 異なります(表)。
①緊急往診加算は、標榜時間内に、患者さんまたは看護に当たっている者からの緊急の求めに応じて往診を行った場合に加算できます。具体的には、往診の結果、急性心筋梗塞、脳血管障害、急性腹症など が予想される場合、また小児の低体温、痙攣、意識障害、急性呼吸不全など、あるいは終末期などが想定されていますので、皮膚科での算定は難しそうです。
②夜間・休日の定義について確認しておきましょう。夜間とは、午後6時から午前8時までの標榜時間以外の時間帯、休日とは、日曜日、国民の休日および年末年始(12/29~1/3)を指します。平日の休診日では加算できませんのでご注意ください。
③深夜とは、午後10時から午前6時までの、標榜時間以外の時間帯です。

令和4年(2022年)診療報酬点数
- 2)同一患家への往診
同一患家で2人以上の患者さんを診療した場合は、2人目以降の患者さんについては往診料を算定せず、初診料又は再診料もしくは外来診療料のみを算定します。
例を示します。初めての患家を訪問して、その家庭内の2人の患者さんを初診として診察した場合、
Aさん「初診料288点+往診料720点」
Bさん「初診料288点」を算定します。
往診料はその患家を訪問するための点数になるため、1邸宅単位で算定されます。 - 3)交通費
「往診に要した交通費は、患家の負担とする」と往診料の注5に記載されています。
これの補足として、通知17では、「交通費には自家用車による費用を含む」、通知18では「自転車、スクーター等の費用は往診料に含まれているので前項は適用されず、したがって「注5」に規定する患家の負担となる交通費には該当しない」とあるので、自転車訪問の私は、交通費を請求したことはありません。言葉通りに解釈すると、タクシー代は請求できそうですね。 - 4)往診が認められないケース
通知1、「定期的ないし計画的に患家又は他の保険医療機関に赴いて診療を行った場合には算定できない」
通知20、「保険診療を行う目的をもって定期又は不定期に事業所へ赴き、被保険者(患者)を診療する場合は、往診料として取り扱うことは認められない」
通知23、「定期的又は計画的に行われる対診の場合は往診料を算定できない」
以上のように複数の通知で、定期的又は計画的に行われる在宅医療では、「往診料」を算定できないとあります。前回の復習ですが、
往診:突発的な症状の変化に対し、困ったときの臨時の手段
訪問診療:定期的かつ計画的に訪問し、診療、治療、処方、療養相談、指導を行う
という位置づけです。
在宅医療の対象者は、原則として「在宅(施設)で療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者」です。通院の困難さは寝たきり度や認知症による日常生活自立度、介護者の状況などに左右されます。1度だけなら何とかサービスを利用して診療所まで辿り着くことができたが、継続して通院するのは難しいというケースもままあります。以降は在宅医療でということになるのですが、往診料は患家の求めに応じて訪問し算定するものでありますので、継続して訪問が必要な場合は、診療計画を作り訪問診療料を算定するということが必要かと考えます。次回は訪問診療料について、みていきます。
診療報酬に関しての小川皮フ科医院へのお問い合わせはご遠慮お願い致します。