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maruho square:IAD(失禁関連皮膚炎)を知ろう!


    • 医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック院長 安部 正敏 先生

    はじめに

    近年、皮膚科看護学の分野を中心にIAD(Incontinence-Associated Dermatitis:失禁関連皮膚炎)1)という概念が注目されている。これは以前、失禁関連皮膚障害と訳されたこともあった。その理由は、皮膚炎の用語の定義のためであり、失禁部における皮膚障害を示す用語としては、皮膚科学で定義する「皮膚炎」とは一致しない点があるためである。しかし、一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編集)『IADベストプラクティス』におけるIADの和訳は「失禁関連皮膚炎」とされ2)、今後統一が図られるものと思われる。

    なぜIADが重要なのか?

    失禁に対してはおむつを常用することで対処する場合が多く、皮膚科学領域では「おむつ皮膚炎」という病名が使われてきた。何故今改めてIADという用語がクローズアップされてきたのか。
    大まかにいえばIADは、失禁状態によりおむつ内などで何らかの皮膚トラブルが起こる状態を指す用語である。失禁環境にある皮膚局所の湿疹・皮膚炎では、カンジダなどの表在性皮膚真菌感染症、尿や便などの暴露による皮膚のびらんや潰瘍などさまざまな疾患が好発する3)。IADは失禁ケアにおいてこれらの状態に対し注意喚起を促すために重要な概念として急速に拡大した。しかし、保険医は保険診療をする際、『ICD-10(国際疾病分類)』に基づき、その状態をカテゴライズし最終的に診断名を決定し、その疾患に保険適用を有する薬剤などで治療を行う。残念ながらIADは『ICD-10』に収載されておらず、保険診療を行う際、診断名として用いることができず、医師と看護師、薬剤師間での相互理解が必要となる。
    次にIADの和訳である「失禁関連皮膚炎」の皮膚炎とは皮膚科学で定義される「湿疹・皮膚炎」とは同一ではないことに十分注意する必要がある。IADとは湿疹・皮膚炎、表在性皮膚真菌感染症、皮膚のびらんや潰瘍などさまざまな疾患により惹起され、それらが複雑に絡み合う病態である。IADには真菌症や物理的皮膚障害も含む、広義の意味での皮膚炎であることに十分注意しなければならない。

    IADの病態

    湿疹・皮膚炎の病態を考える上で、IADでもよく見られる接触皮膚炎の理解が必要である。接触皮膚炎は皮膚に接触した物質によるものであり、IADでは失禁部に長時間存在する尿や便などにより惹起される皮膚炎である。接触皮膚炎は①アレルギー性接触皮膚炎と②一次刺激性接触皮膚炎に分類される。

    アレルギー性接触皮膚炎:多くはⅣ型アレルギーにより生じる。Ⅳ型アレルギーはTリンパ球がアレルギー反応の主体となる。なんらかの抗原が体内に侵入後、半日から数日を経て症状が出現する。まず抗原を取り込んだランゲルハンス細胞(皮膚に存在するマクロファージ)がTリンパ球に情報を提示する。これにより活性化されたTリンパ球は、リンフォカインと総称されるさまざまな物質を放出する。その結果、Tリンパ球を主体とする炎症反応が皮膚、特に表皮で起こることにより、湿疹に合致する臨床症状を呈する。

    一次刺激性接触皮膚炎:アレルギー機序を介さない皮膚炎であり、原因物質の非常に強い刺激により起こる皮膚炎である。IADにおいて、尿失禁の存在は尿中の尿素がアンモニアに変化してこれが大きな刺激となり4,5)一次刺激性接触皮膚炎の原因となる。その上、皮膚pHを上昇させることで、更なる皮膚トラブルを惹起する。皮膚表面は概ね弱酸性のpH4.5程度であるが、尿はpH4.5~7.5、便はpH8.0~8.6であり、pHの変化だけでも大きな問題となる。便失禁においては、排泄物中の酵素・細菌などが一次刺激を起こすほか、腸管での水分吸収が不十分な水様便では、多くの消化酵素を含んでおり、更に強い刺激となる。水様便は表面により拡散し、障害される部位も拡大する。これらの強力な刺激により、失禁による病変部皮膚では表皮由来のDamage-Associated Molecular Patterns(DAMPs)、アデノシン三リン酸、熱ショックタンパク質、尿酸などが生成され、それらがケモカインやサイトカインなどを誘導することで皮膚における炎症が惹起され、最終的に湿疹の臨床像を呈する。また、おむつ部特有の摩擦刺激などにより表皮細胞は障害を受け、びらんや潰瘍を形成する。

    なお、湿疹も①急性湿疹と②慢性湿疹の分類がある。

    急性湿疹:概ね発症直後で、紅斑、丘疹、漿液性丘疹、びらんなどで構成され、概ね皮膚表面は湿潤する。

    慢性湿疹:皮膚表面は乾燥傾向であり、苔癬化などを生ずる長期化した局面である。

    一言に湿疹といっても、さまざま疾患発生機序が存在し、最終的に特有の臨床像を形成する。なお、湿疹とはあくまで診断名であることに注意すべきである。湿疹は、一般に湿疹三角形と呼ばれる三要素を満たしていることで診断する。重要な点は、①瘙痒②点状状態③多様性であり、漿液性丘疹や充実性丘疹といった多彩な小型の皮疹が同時に存在し、瘙痒を伴う臨床像が診断に重要である。

    IADでよくみられる表在性皮膚真菌感染症の多くはカンジダ症であり、その発症メカニズムとして、カンジダはそもそも腸管の常在菌であり、失禁状態の皮膚は、表面が湿潤環境下におかれることが多く、増殖が促され失禁部に病変を形成する。表皮にカンジダが多数存在すると、表皮細胞にあるToll Like Receptor(TLR)2と4を介してIL-8などのサイトカインが誘導される。特にIL-8は好中球を遊走させるため、皮膚表面に膿が付着したような臨床像が形成される。その湿潤した臨床像が湿疹と類似することがあるため、注意深い鑑別が必要となる。
    診断には顕微鏡で直接カンジダを観察することが必須である。皮疹部より採取した鱗屑、爪片、毛、粘膜などの試料をスライドグラス上に載せ、10~30%KOH(potassium hydroxide)を数滴たらしカバーグラスをかぶせる。この状態で数分間静置する。その後、カバーグラスを軽度圧迫し、100倍の顕微鏡観察し、真菌要素を確認する。カンジダであれば仮性菌糸がみられるが、皮膚科専門医以外はそこまでの鑑別は必須ではない。なお、KOHにジメチルスルホキシドを約20%混合すると鱗屑への浸透性が高まり、より観察が容易となる。

    IADの臨床像

    失禁がある患者さんでは、早期からIADを把握するため、毎日皮膚を観察することが重要となる。特に尿量、便量やその性状、皮膚表面の色調変化つまり紅斑、紫斑、鱗屑、水疱、膿疱、びらん、潰瘍の有無を十分に観察する。可能な限り、正しい用語でアセスメントし記録に残す習慣をつけたい。また、真菌感染が疑われる際には、積極的に真菌検査を行うことが求められる。なお、IADは高齢者、特に糖尿病や脳血管障害などの基礎疾患を持つ患者さんや、低栄養、抗癌剤使用中の高齢者などに発生しやすく、十分な注意が必要である。
    典型的な皮疹は、通常失禁部に一致して、比較的境界明瞭な紅斑を呈する(図1)。びらんや潰瘍を有する場合もあり、また紅斑上に小水疱、膿疱を呈する場合がある(図2)。紅斑の色調は淡紅色調から暗紫紅色までさまざまである。下痢の場合、便中の水分含有量は当然増えるため、液状便により常に皮膚に刺激が加わる病態となってしまう。下痢にも①2日間程度持続する急性下痢と②慢性的に継続する慢性下痢が存在する。

    図1. IADの臨床像
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    図1. IADの臨床像
    図2. 高度なIADの臨床像
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    図2. 高度なIADの臨床像

    急性下痢:ウイルス感染症などによる感染性のものと、薬剤などによる非感染性のものがある。ありふれた症状であるため、誰しも1度は経験したことがあると思われる。この場合局所ケアも重要であるが、全身状態をアセスメントすることがより重要である。脱水にならないように十分注意するほか、消化管出血の有無などについても気を配らねばならない。

    慢性下痢:悪性腫瘍や過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や患者本人の持続的下剤摂取などにより生じる。改善には腸内細菌叢を整えるために乳酸菌や食物繊維を摂ることが重要である。また、炎症性腸疾患では、原因の治療とともに、低脂肪食、低残渣食を摂取するように努める。

    IADの治療

    おむつ皮膚炎の治療に関しては、埼玉医科大学病院皮膚科常深祐一郎教授が示す治療アルゴリズムが参考になる6)図3)。このアルゴリズムにおけるおむつ皮膚炎は、湿疹・皮膚炎とともにカンジダや白癬菌による皮膚真菌症を含んだ、広い概念のおむつ皮膚炎である。
    この背景として、介護保険施設入所者での皮膚検討が挙げられる7)。この報告では、171例中124例、7割以上に、臀部に紅斑や小水疱、浸軟、鱗片などの皮疹が観察された。うち、直接鏡検によって真菌類が検出された例は、白癬菌とカンジダ属をあわせて9例であり、大部分は湿疹・皮膚炎であった。このことから、おむつ皮膚炎にはまず初期対応として湿疹・皮膚炎の治療にステロイド薬を使用し、改善がみられない場合は真菌感染症も疑い直接鏡検を行うという、治療アルゴリズムが提唱された6)。本アルゴリズムは、おむつ皮膚炎が疑われる場合のファーストチョイスには、ミディアム以下のステロイド外用薬を使うことからスタートする。ファーストチョイスとして抗真菌薬を使用すると、一時的に真菌が検出しにくくなり、確定診断が困難になるため患者さんの不利益となる。
    治療薬として用いる副腎皮質ステロイド含有外用薬として、混合死菌浮遊液/ヒドロコルチゾン配合剤がある。このヒドロコルチゾンはウィーククラスの副腎皮質ステロイド薬であり、ヒドロコルチゾンの抗炎症作用に加えて、混合死菌浮遊液の感染防御作用と創傷治癒促進作用によって二次感染の予防とびらんなどの治癒促進が期待できる。有効性について、治癒も含めた「改善以上」は、1週間後に48.9%、3週間後では57.8%であり、不変例は33.3%、悪化例は8.9%で、不変ないし悪化例のうち、直接鏡検による真菌検出例は無かった。また、この悪化例は、混合死菌浮遊液/ヒドロコルチゾン配合剤よる接触性皮膚炎や細菌感染症の可能性が否定できないため、有害事象に含めている6)。これらの結果からも、高齢者のおむつ皮膚炎に、ファーストチョイスとして混合死菌浮遊液/ヒドロコルチゾン配合剤の塗布が有効であると考えられる。
    また、使用しているステロイド外用薬で症状が改善しない、あるいは悪化するようであれば、皮膚科医の診察が必要となる。皮膚表在性真菌感染症が疑われるので、直接鏡検にて真菌の有無を確認する。直接鏡検で真菌が検出されなかった場合は、ステロイド外用薬のランクアップを検討する。ミディアムクラスのデキサメタゾン軟膏やストロングクラスのデキサメタゾン吉草酸エステルなど、症状に合わせて皮膚科医の指示で使用することが重要である。直接鏡検でカンジダ菌や白癬菌などの真菌が検出された場合は、ステロイド外用薬を中止し、外用抗真菌薬で治療する。外用抗真菌薬は軟膏、クリーム、液剤などの剤形が存在するが、おむつ皮膚炎の場合、創面での固着性が良く、接触皮膚炎発生が比較的少ない軟膏剤を選択するのがコツである。白癬菌、カンジタともに高い抗真菌活性を示す、ラノコナゾール、ルリコナゾールなど、軟膏を含めた多種の剤形薬剤が使用されることが多い。
    このように病態に合わせた適切な治療を行うことによって、おむつ皮膚炎、IADは改善する。主治医や皮膚科医と連携し、早期の対処に努めることが重要である。

    図3. おむつ皮膚炎の治療アルゴリズム
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    図3. おむつ皮膚炎の治療アルゴリズム

    常深 祐一郎、他: 看護研究 2015; 48(2): 180-188より一部改変

    IADの予防的スキンケア

    おむつを常時使用している高齢者では、一旦IADが改善しても、再燃するリスクが高い状態が継続するため、治療法をよく理解しておくとともに、日頃からの予防的ケアが重要である。失禁により皮膚が浸軟した状態になると、皮膚バリア機能が低下し、これらの刺激や真菌感染への抵抗力が落ち、ますます症状を悪化させる。IADを予防するためには、これらの要因を取り除く必要がある。そのためには、皮膚を清潔に保ち、皮膚のバリア機能を向上させるスキンケアが重要である。スキンケアの基本として、洗浄、被覆、保湿、水分除去の4要素がある。
    まず、皮膚に排泄物が付着しないように保清することが第一である。失禁には、腹圧性、切迫性、溢流性、機能性などのタイプがあり適切なアセスメントを行う。下痢患者では排便が頻回になり、物理的に皮膚を障害しないよう、便座の温水洗浄機能や人工清拭剤などを使用し、過度な物理的刺激を与えないようにしながら保清を図る。洗浄剤を使用する場合には、刺激の少ない弱酸性の製品を使用するようにする。また、水での洗浄が不要な乳化クリームなどを使用するのも有効である。
    おむつ内は湿潤環境であるため、過度な水分を除去する。排泄物を吸収したパッドやおむつを皮膚に接したまま放置すると、IAD発生リスクが格段に上昇するため、患者の排泄パターンを把握し、排泄後は速やかに交換することが重要となる。おむつ交換や陰部洗浄、入浴時の清拭・洗浄の際も、できるだけ皮膚に物理的や化学的刺激を与えないように努めるべきである。ゴシゴシこするように拭いたり洗ったりするのは厳禁である。ぬるま湯を含ませたやわらかい布や、おしりふきシートで押さえるように拭き取ることが求められる。また、よく泡立てた弱酸性の洗浄剤でやさしく洗い、ぬるま湯でしっかり洗い流して、保清に努める。水分を取る際もこすり拭きはせず、やわらかいタオルで押さえ拭きを行う。このように洗い方や拭き方を見直すだけで、症状が改善することも少なくない。
    次に、おむつ部の皮膚バリア機能を向上させ、刺激や感染への抵抗力を高めることが重要である。洗浄によって皮脂やセラミド、天然保湿因子などの保湿成分が減少すると、皮膚の乾燥、脆弱化につながる。このため、皮膚バリア機能の向上と修復を図るためには、洗浄後の保湿が大変重要となる。
    特に高齢者の場合は皮膚が乾燥傾向になりやすい。介護保険施設を利用する高齢者を対象とした調査では、老人保健施設利用者の70.5%、特別養護老人ホーム利用者の94.1%が皮脂欠乏症であったとする報告がある8)。保湿は洗浄とセットで行うのが原則であり、お風呂上がりは皮膚の浸透・吸収力が高まっているので、保湿に最適なタイミングであるといえる。保湿剤は排泄物が付着する可能性がある全ての部位に使用することが重要である。
    保湿剤はのびがよく、油分を含有したものが適している。なかでも、ヘパリン類似物質ローションで、水の中に油が入ったローション基剤のものは、塗り心地の向上とともに、油によるエモリエント効果も期待できる。また、ヘパリン類似物質軟膏で、外相が油性成分のものは、水で落ちにくくなる結果有用性が高い。有形便で保護剤を使用しない場合は、このような剤形の保湿剤は有力な選択肢となる。更に、洗浄・保湿の後に、必要に応じ皮膚被膜剤や撥水性の皮膚保護剤を塗布する。排泄物が皮膚に付着するのを予防し、刺激から皮膚を守るために効果的である。
    以上のように、適切なスキンケアによって皮膚への刺激を取り除き、皮膚バリア機能を向上させることが、IADの予防につながることを日頃から意識してケアを行うことが重要である。

    参考文献
    • Gray M, et al.: J Wound Ostomy Continence Nurs 2007; 34(1): 45-54
    • 日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編集): IADベストプラクティス. 照林社(東京)2019.
    • Beele H, et al.: Drugs Aging 2018; 35(1): 1-10
    • Beeckman D: J Tissue Viability 2017; 26(1): 47-56
    • Ersser SJ, et al.: Int J Nurs Stud 2005; 42(7): 823-835
    • 常深 祐一郎, 他 : 看護研究 2015; 48(2): 180-188
    • Nakagami G,et al.: Arch Gerontol Geriatr 2014; 58(2): 201-204
    • Kimura N, et al.: J Dermatol 2013; 40(9): 770-771

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