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maruho square:在宅患者に接する際によく遭遇する 皮膚疾患(後編) ~帯状疱疹~


  • 総合病院 聖隷三方原病院 皮膚科 白濱 茂穂 先生

帯状疱疹はどういう病気?

帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus : VZV)によるウイルス性疾患で、日常診療で比較的よく遭遇する疾患の1つです。典型的な臨床像は片側の神経支配領域に一致した疼痛や知覚異常が生じた後に、浮腫性紅斑、紅色丘疹、小水疱などが帯状~列序性に生じてきます(図1)。VZVは初感染では水痘として発症しますが、水痘治癒後も生涯にわたり三叉神経節や脊椎後根神経節などの神経細胞に潜伏感染します。その後、加齢、疲労、ストレスなどにより宿主のVZVに対する免疫力が低下した際、特定の神経節でVZVが再活性化し、神経を傷害しながら皮膚に到達して帯状疱疹が発症します。多くは1~2週間程度で皮膚症状の改善とともに痛みも軽減します。しかしながら、一部の症例では3か月以上経過しても残存する帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgia : PHN)を生じることがあります。

鑑別診断は?

典型的な病変(図1)であれば、診断は比較的容易です。しかしながら、時に皮疹や疼痛が軽微な場合、あるいは単純ヘルペスを含めたその他の疾患(丹毒、毛包炎などの細菌感染や接触性皮膚炎)との鑑別を要することがあります1)。迅速かつ簡便にVZVを検出できるデルマクイックRVZVなどの診断キットを活用すると診断の補助になります。

図1. 典型的な帯状疱疹の臨床像
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図1. 典型的な帯状疱疹の臨床像

帯状疱疹の治療方針

急性期の疼痛管理を十分に行い、皮疹を速やかに消退させて、PHNや皮膚病変の瘢痕などが生じないようにすることを目標とします。治療の第一選択は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与です。これら薬剤の薬理作用はウイルスの増殖を抑制することです。そのため、できるだけ早期の投与が望まれます。早期の抗ヘルペスウイルス薬の投与は、ウイルス増殖による皮疹の重症化や急性期疼痛を最小限に抑えることができます。治療開始に多少の遅れがあったとしても、水疱の新生がみられる時期にはウイルスが検出されるため、抗ウイルス治療は有効と考えられます。

A:抗ヘルペスウイルス薬の種類

抗ヘルペスウイルス薬には点滴・内服・外用があります。免疫不全患者を除き、治療には主に内服薬を用います。従来使用されている内服抗ヘルペスウイルス薬はファムシクロビル(FCV)、バラシクロビル塩酸塩(VACV)、アシクロビル(ACV)でした。さらに、2017年7月には「帯状疱疹」の適応症で製造販売承認を取得した本邦で創製されたアメナメビルが追加されました。

B:薬理作用

FCVはペンシクロビル(PCV)、VACVはACVのプロドラッグです。これらプロドラッグは感染細胞内でウイルス由来のチミジンキナーゼにより1リン酸化され、その後、細胞内酵素により3リン酸化体まで変換されます。PCV‐3リン酸およびACV‐3リン酸はウイルスDNAポリメラーゼの基質の一つであるデオキシグアノシン3リン酸と競合拮抗することによりウイルスDNA鎖の伸長を阻害します。つまりDNAの合成を阻害し、ウイルスの複製を抑制します。また、これら薬剤はすべて腎排泄型の薬剤になります。
一方、アメナメビルは、ウイルスDNAの複製に必須であるヘリカーゼ・プライマーゼ複合体の酵素活性を直接阻害します(図2)。ヘリカーゼの活性を阻害することで、ウイルスDNAの開裂を抑制し、さらに、プライマーゼの活性を阻害することでDNA複製の起点となるRNAプライマーの合成を抑制します。また、これまでの薬剤と異なり、主に糞便中に排泄されます。

図2. アメナメビルの作用機序
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図2. アメナメビルの作用機序

(アメナメビル:アメナリーフ®錠200mgインタビューフォームより作成)

C:投与上の注意点

アメナメビル以外の薬剤はすべて腎排泄型であるため、腎機能に応じた用量設定を行わないと急性腎不全などの薬剤性腎障害をおこす可能性があります。抗ヘルペスウイルス薬による急性腎不全は、尿中薬物濃度が腎尿細管での溶解度を超えた時に結晶化し(図3)、その結晶が尿細管腔を閉塞することでおこると考えられています。腎機能は加齢に伴い生理的に低下するため、腎不全と指摘されたことのない高齢者を治療する際にも注意を必要とします2)
一方、アメナメビルは主に糞便中に排泄されるため腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに基づく用量調節は不要になります。注意点としては、アメナメビルは空腹時に投与すると吸収されにくいため、必ず食後に服用するよう指導します。また、併用禁忌としてはリファンピシンがあります。アメナメビルおよびリファンピシンのCYP3A誘導作用により相互に代謝が促進され、相互に血中濃度が低下し、アメナメビルおよびリファンピシンの作用が減弱するおそれがあるためです3)

図3. 抗ヘルペスウイルス薬の針状結晶
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図3. 抗ヘルペスウイルス薬の針状結晶

D:痛みに対して

VZVにおける急性期疼痛に対しては、抗ヘルペスウイルス薬の併用として非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンの内服が一般的です。NSAIDsはプロスタグランディンの産生を抑制するため、腎血流量が少なくなり、そのため、適切な量の抗ヘルペスウイルス薬を投与していても、NSAIDsを併用すると腎障害をおこす可能性があります。そのため、特に高齢者ではアセトアミノフェンの併用が推奨されています。アセトアミノフェンは症候性神経痛に対して1回300~1,000mg、1日総量として4,000mgを限度とする投与ができますが、現実的には1回600mg~800mgを1日3~4回投与されていることが多いと思われます。神経障害性疼痛において、疼痛治療薬(プレガバリン)は、急性期疼痛をコントロールした後に少量から開始し増量することで有効性が期待できます。高齢者ではめまい、ふらつきの副作用が出やすいため、注意が必要です。その他、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン塩酸塩)などが有効です4)

引用文献:
  • 白濱茂穂ほか編集:目からウロコのヘルペス診療ハンドブックその診断・治療で大丈夫?:p40,南江堂,2017
  • 戸倉新樹ほか編集:ここが大事!高齢者皮膚診療のコツとピットフォール:p158,南江堂,2019
  • 五十嵐敦之 編集:皮膚疾患 全身療法薬Up-to-date:p50,南江堂,2020
  • 一般社団法人日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ編集:神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)III.神経障害性疼痛の薬物療法,真興交易 医書出版部,2016

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