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maruho square:在宅専門クリニックが中心となり在宅看取りの文化をつくる ~地域づくりから社会貢献まで~


  • 医療法人SIRIUS いしが在宅ケアクリニック理事長 石賀 丈士 先生

はじめに

2009年7月に三重県四日市市山城町に在宅医療専門クリニック「いしが在宅ケアクリニック」を開設しました。約13年間の活動で、5,300名以上の方々に訪問診療を行い、3,500名以上の方々を在宅で看取ってきました。現在は医師10名、スタッフ総勢51名で活動しています。

在宅看取りがあたりまえの世の中を目指して

私が医師になるきっかけは祖母の影響が大きく関係しています。全盲で認知症の祖母はまったく医療のお世話になることなく自宅で暮らし、亡くなる前日まで普通にごはんを食べ、自然なかたちで最期を迎えました。そんな祖母の生き方や死を見てきた私にとって、大学病院で苦痛に満ちて亡くなっていく患者さんたちの姿は衝撃的でした。私が生まれた1975年は自宅と病院で亡くなる人がちょうど半々の時代でしたが、現在の日本は国民の大多数が病院で亡くなるという世界でも類をみないおかしな国であり、自宅で亡くなる人はたったの1割強しかいません。また自宅死の半数も看取りではない検死や孤独死となっています。そうした現実を変えるために「いしが在宅ケアクリニック」を開設し、地域づくり、人材育成を行っています。

理念

私たちは地域に在宅医療や看取りの文化を根付かせるためには、地域の医療介護人材の育成が重要であると考えます。そのため、当院では訪問診療以外の機能はすべて外部と連携・アウトソーシングすることで地域を育てるということを第一のミッションとし活動を開始しました。各地の在宅専門クリニックでは、規模が大きくなるとどうしても訪問看護ステーション、サービス付き高齢者向け住宅、老人ホーム、有床診療所などを作ることが多くなっていますが、私たちはあくまで訪問診療以外の事業は行わず外部との連携を深め、地域の人材育成を行っていくことを理念としています。

四日市モデル

在宅医療を急速に普及させるためには、在宅医療専門クリニックだけでは難しく、医師会かかりつけ医との連携は欠かすことができません。そのため開院時に四日市独自のモデルを考案しました。救急医療モデルのように在宅医療を一次・二次・三次に分類し、一次・二次在宅をかかりつけ医が担い、老衰・認知症・脳梗塞後遺症など比較的安定した患者さんを多く受け持ち、三次在宅を在宅専門診療所が担い、がん・難病・介護難民・医療依存度が高い患者さんを多く受け持つという徹底した住み分けを行っています。この仕組みが機能することにより、かかりつけ医と在宅医の共存や助け合いがうまく機能しています。

医療介護連携の仕組み

四日市市では全国に先駆けて病院死5割以下を目指し、医療介護ネットワークの構築を進めてきました。また四日市医師会では在宅医療推進委員会を発足し、これまで60回以上も在宅医療に関する勉強会や座談会を行ってきました。これによりかかりつけ医と在宅医の顔の見える関係構築が進み、それぞれのスキルアップにも大いに役立っています。さらに医療介護の垣根をなくし連携推進のため、地域ネットワーク会議を構築し、北・中・南の3ブロックごとに活動しています。そして在宅患者紹介元の病院と、かかりつけ医や在宅医をつなぐ仕組みとして地域連携室連絡会があり、紹介先の状況や在宅医療における問題点や課題について定期的に報告し話し合う仕組みがあります。四日市市における看取りの場も、2007年(自宅13.6%、施設4.8%、病院79.7%)から2020年(自宅20.4%、施設17.1%、病院58.6%)と大きく変化しました。自宅で家族を看取った経験を持つ家族が増えてきたことで、四日市市では自宅で看取るということがあたりまえという文化ができつつあります。当院も四日市市も在宅看取りの実績では常に全国トップレベルとなっています。また病院勤務医の負担が軽減し、救急医療の充実や手術件数の増加など良い循環が生まれています。

いのちの授業

在宅の現場で家族を看取らなければならない子どもには、いのちの大切さや看取りに際しての説明をしっかり行っています。また家族を看取るまでの期間を支え、その後の人生を前向きに生きることができるようサポートしています。しかし日本では家族の看取りを経験できる人はごくわずかです。そのため講演会や小中学校での「いのちの授業」などを行うことで一般市民の看取りへの意識を変える活動も行っています。これまで300回以上の講演活動を行ってきました。特に集中的に多くの講演会を行った四日市市では、在宅看取りは自然なことだという文化もできつつあると感じています。

地域への還元

2020年3月に当院は延床554坪の新社屋に移転しました(図1)。新社屋には講演やイベントを行うことができる「Zaitacホール(定員70名)」(図2)があり、またおしゃれなカフェのような「シリウスキッチン」(図3)を地域の多職種の休憩スペースおよび患者さんやご家族が気軽に立ち寄れる相談所として設置しました。地域への還元として、多職種、NPO法人、患者さんやご家族やご遺族に無料開放予定ですが、コロナ禍で実行が遅れています。コロナ禍が収束し、近々全面的に開放できることを期待しています。現在は代替利用として新型コロナワクチンの接種会場として活用しています。

図1:いしが在宅ケアクリニック外観
記事/インライン画像
図1:いしが在宅ケアクリニック外観
図2:Zaitac ホール
記事/インライン画像
図2:Zaitac ホール
図3:シリウス キッチン
記事/インライン画像
図3:シリウス キッチン

社会貢献と気候危機対策

2022年2月24日に突如始まったロシアによる一方的なウクライナへの侵略に対しては、強い憤りと悲しみを持ちつつも、現地に赴く勇気もなく医療者として無力感を感じています。当院ではこれまでも、地域以外への貢献として「国境なき医師団」や「ジャパンハート」などに寄付を行ってきましたが、2022年2月24日から寄付額を大幅に増額しました。具体的には、訪問診療や往診1件につき100円を寄付することを決め、月に20万円弱をウクライナ中心に、人道支援や医療支援目的に寄付を法人として行っています。自分たちの訪問診療実績や往診実績が、一歩ずつでも世界をより良い方向に進めるという意識がスタッフのモチベーションになっています。
そして環境問題や気候危機に対しても法人としても個人としても常に関心を持ち続けています。そのため新社屋で使用する電力はすべて再生可能エネルギーでつくられた電力を購入し使用しています。そして2030年までには往診車などもすべて電気自動車にかえる予定です。またこれからの社会は電力の自給自足も求められる時代になると考えており、当法人で使用する電力に相当する電力をまかなえるソーラー発電所も個人で建設中です。

おわりに

2022年7月現在、当院の理念に賛同し当院で修業し、巣立った志の高い医師が、全国6か所で在宅医療専門クリニックを開設し活躍しています。これからも四日市で培われた仕組みが全国に広がり、質の高い在宅医療の普及が進み、国民の満足度が向上することを期待しています。そして最終的には、在宅医療や在宅看取りを望むすべての人々が必要とする医療やサービスを受けら れる時代が来ることを夢見ています。

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