メインコンテンツに移動

maruho square:在宅患者に接する際によく遭遇する 皮膚疾患(前編) ~皮脂欠乏性皮膚炎、スキン-テア~


  • 総合病院 聖隷三方原病院 皮膚科 白濱 茂穂 先生

皮脂欠乏性皮膚炎

皮脂欠乏症:皮膚はなぜ加齢と伴に乾燥するか?

皮脂欠乏症(図1)は皮膚の水分量が低下し、皮膚が乾燥している状態です。皮膚に潤いを与える因子として、角層内の角層細胞間物質と天然保湿因子が重要です。角層細胞間物質は角層細胞と角層細胞の間を覆っているセラミドや脂肪酸などの脂質で、水分の蒸散と異物浸入を防止し、表皮バリア機能の主体をなします。天然保湿因子は角質細胞内に存在するアミノ酸、尿素、フィラグリンなどで保湿機能をもつ物質です。皮脂欠乏症は老化などにより角層細胞間物質や天然保湿因子が減少するために皮膚に乾燥が生じてきます。そして、冬期乾燥する時期には、より顕著になります。乾燥した肌は敏感肌になり、下着で擦れるなど、些細な刺激で強い痒みを感じ、掻破することにより湿疹ができ、皮脂欠乏性皮膚炎になります。皮脂欠乏症は入浴時の洗い過ぎの生活習慣によっても引きおこされます。

図1. 高齢者の乾燥した皮膚
記事/インライン画像
高齢者の乾燥した皮膚

皮脂欠乏性皮膚炎の治療方針

まず、洗い過ぎる生活習慣を是正します。そして皮膚が乾燥しているので、保湿剤を外用する必要性があります。保湿剤としては、①ヘパリン類似物質含有軟膏、②白色ワセリン、③尿素軟膏などがあります。
モルモットを用いた実験的ドライスキンモデルにおいて、ヘパリン類似物質含有軟膏であるヒルドイド®ソフト軟膏がこれら3種類の中で、水分の蒸発率が低く、水分の角層保持能がすぐれていたという報告があります1)

理想的な外用方法:1FTUの活用

患者さんに同じように処方しても、その治療結果に差が生じる原因の1つに、外用する塗布量や塗布方法があげられます。つまりうまく塗布されていないということです。成人の人差し指の先端から遠位指節間関節の長さまで出した外用剤の量は約0.5gです(図22)3)。これを1 finger tip unit(FTU)と単位づけられています。ローションでは1円玉大に相当します。この0.5gの理想的な外用面積は、成人の片手のひら面積約2枚分、つまり両手分の面積に相当します。この量を外用すると、外用部位がテカテカしている感じで、ティッシュが1枚くっついて剥がれない程度が目安になります。よく塗りこむ、あるいは薄く伸ばして外用する方がいますが、皮膚を横から観察すると皮膚には凹凸がありますので、このような方法では、外用できていない部分が生じてきます。
1FTUを使用して、成人の全身に外用するとしたら、1回使用量は約20gになります(図3)。従って、「たっぷり塗る」という感覚で外用するのが理想的と思われます。そのため、小さなチューブを数本処方するよりも、大きめの容器で処方し、外用のモチベーションを高めるのも1つかと思います。

図2. 塗る量の目安
記事/インライン画像
塗る量の目安
図3. 1回使用量の目安
記事/インライン画像
1回使用量の目安

皮膚が乾燥しているのは冬期だけ?

皮脂欠乏症は、冬期にその乾燥が顕著になりますので、冬期だけ保湿剤を使用する方も多いと思います。しかし、夏になると、肌が決して若くなるわけではありません。夏でも、皮膚は乾燥しているので、高齢者などの皮脂欠乏症状態の方は夏場でも保湿剤は必要です。塗りやすさを考慮すると、季節による基剤の使い分けも必要になってくると思います。水中油型クリーム剤は1年中使用可能ですが、夏場汗ばむ時にはフォーム剤やローション剤、秋から冬にかけては油中水型が理想的と考えます。

炎症(湿疹)が生じたら?

皮脂欠乏性皮膚炎は、掻破によって湿疹病変ができているので、抗炎症を目的としてステロイド外用剤を併用します。全身に保湿剤を外用し、湿疹部位にステロイド外用剤を重層するのも1つの方法です。ステロイド外用剤もその塗布量は1FTUに準じます。かゆみが強い場合には抗止痒剤の併用も効果的です。

スキン‐テア(skin-tear:皮膚裂傷)

スキン‐テアとは

摩擦・ずれによって皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷を意味します4)。皮膚が脆弱となりバリア機能が低下している高齢者に発生しやすいです(図4)。
医療用テープを剥がす際に一緒に皮膚が剥がれた、リハビリ時に身体を支持していたら皮膚が裂けた、手足がベッド柵に擦れて皮膚が剥けたなど、何気ない日々の行動で発生することもあります。発生リスクとしては、低栄養、長期間ステロイド剤・抗凝固剤の服用、抗がん剤の服用や、皮膚の乾燥や長期のステロイド外用剤の使用により皮膚が脆弱化している場合があります。

図4. 些細な刺激によるスキン‐テア
記事/インライン画像
些細な刺激によるスキン‐テア

予防のためのスキンケア

スキン-テアを引きおこしやすい皮膚は乾燥しています。皮脂欠乏症で述べたように高齢者では1年を通して保湿剤の塗布が必要な状態になっています。皮膚を保護するために、低刺激性でローション剤などの伸びが良い保湿剤を摩擦がおこらないように皮溝に沿って優しく外用します。また、手足を持ち上げる時は、下から支えるようにして皮膚に圧がかからないようにすることも大切です。
湿疹病変にはステロイド外用剤の塗布が必要になりますが、ステロイド外用剤には、さまざまな種類があり、作用の強さに違いがあります。公益社団法人日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、医療用ステロイド外用剤の作用の強さを、強いものから弱いものまで5つのランクに分類しています。強い外用剤の方が効果も強いため、よく効くからといって、強めの外用剤を漠然と塗り続けることは良くありません。症状が軽快したら、必ず、強さを弱めに切り替えていくことが大切です。強い外用剤を塗り続けて、皮膚の萎縮やステロイド紫斑をおこさないように気をつけることが、スキン‐テアの予防につながります。

本記事は、第15回日本薬局学会学術総会ランチョンセミナー「薬局薬剤師が在宅患者に接する際によく遭遇する皮膚疾患」を基に再構成しています。

引用文献:
  • 土肥孝彰ら:西日皮膚 74(1):48-56,2012
  • Long CC, et al.:Clin Exp Dermatol 16(6):444-447,1991
  • 中村光裕ら:皮膚の科学 5(4):311-316,2006
  • 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編集):スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理: p6,(株)照林社,2015

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ