メインコンテンツに移動

maruho square:在宅医療から始まる地域での医療実践 ~人財活用と地域多面展開~


  • 医療法人社団オレンジ理事長 紅谷 浩之 先生

はじめに

医療法人社団オレンジは2011年に福井県福井市で在宅医療専門クリニック「オレンジホームケアクリニック」の開設をスタートに、地域に求められる医療や福祉・ケアをさまざまな場所で、さまざまな形で展開しています。
僻地診療所で地域医療を行う中で、地域住民のニーズは必ずしも既存の制度の枠組みに収まるものではないこと、そもそもリソースの少ない地域では既存の枠組みを押し付けようとしてもうまくいかないことに気づきました。
であれば、制度や枠組みは一旦忘れて、地域住民のニーズにとことん向き合う方が良いと考えるようになりました。「医療者と患者」のように役割を分けずに、同じ地域に住む住民同士というスタンスを大事にしながら話を聞くことで、さまざまなニーズに気づくことができ、新しい解決方法が見つかることも分かりました。そして「解決」というと問題をゼロにすることのように考えてしまいがちですが、どちらかというと「納得」に近い、問題はなくならないけれど、皆が受け入れられることで安心して暮らせる、そんなゴールもあることを知りました。
今、少子高齢化、多死時代、医師偏在、地域消滅、孤独死問題、新型コロナウイルス感染症などこれまでになかった新しい課題で社会は溢れています。新しい課題に取り組もうとした時に、これまでやってきたやり方で乗り越えられればスムーズではありますが、どうもそううまくはいかないようです。既存のやり方・制度と新しい課題・ニーズにズレが生じてきていると感じます。
そういう時にとるべき手法は明らかです。既存のやり方・制度に固執するのではなく、新しいニーズにしっかり向き合って、新しい手法を選ぶことに躊躇せずアイデアを皆(医療者だけでなく、地域に暮らす人、みんな)で出し合って試行錯誤していくことです。

医療の役割

外来、入院、白衣、病院、今の当たり前の形ではなく、そもそも「医療」の役割ってなんだったのかというところまで戻って考えてみると「医療の役割は人の健康を守り、人を幸せにすること」という原点にたどり着きます。戦争の時代にはその時代の、災害や復興の時にはその状況に合わせた、医療の役割があるはずです。
今、目の前にある新しい課題、そして、価値観やライフスタイルが全く異なる多様性の時代に求められる新しい医療の形を模索することが重要と考えます。
そのような、地域の現場、すなわち最前線にある課題に工夫しながら取り組む医療を「地域医療」と定義しなおして、オレンジは現場のニーズに応える「ニーズベースの活動」に力を入れていくことになりました。

ニーズベースの活動

福井県で初の在宅医療専門クリニック「オレンジホームケアクリニック」、医療的ケア児の第3の居場所「オレンジキッズケアラボ」、街角で誰でも気軽に相談できる「みんなの保健室」、薬よりもつながりを処方する外来クリニック「つながるクリニック」などの活動が生まれてきました。いずれも、きっかけは地域のニーズからです。そしてさらに、2020年以降には、『症状や状態、年齢じゃなくって好きなことする仲間として出会おう』をコンセプトにした「ほっちのロッヂ(軽井沢)」、美味しい、かわいい、心地よい、を出会いのきっかけにする、パンケーキの美味しいカフェ「まあるカフェ」、縮小する地域に伴走するまちづくり系診療所「勝山オレンジクリニック(勝山市)」「奥能登ごちゃまるクリニック(輪島市)」なども活動を開始しました。

生活支援型診療所

この、福井県勝山市、石川県輪島市の2つのクリニックは、「生活支援型診療所」とも呼んでいます。人口減少・超高齢社会が国内でも最速で進んでいる地域では、どのような医療が求められるのかを現場に立って観察・課題抽出・実験的実践・社会実装を行おうという取り組みです。
従来の開業医モデル「外来メイン+ときどき在宅」だけでは縮小地域を生活レベルから支えるのは困難と考えており「まちづくり+ちょっと外来+ときどき往診+オンライン診療+人生会議+在宅看取り」という組み合わせを考えてスタートしました。
具体的には、住民自身や住民同士のつながりを大切にして、安定している人の通院頻度を下げて、いざというときの往診体制で安心を保証しながらも、医療人材や社会保障費も足りていない分をオンライン診療や多職種の連携でカバーし、地域で最期まで暮らしたいという思いを最大限に支えていくというものです。
「奥能登ごちゃまるクリニック」は、生活支援型診療所として新設したため、外来・在宅型の既存の考え方と異なりすぎて、地元金融機関の融資を受けることができませんでした。ですが、地域に密着するのであれば初期費用も地域活動を応援していただける方から集めようとクラウドファンディングに取り組み、全202名の方々から4,534,000円の支援をいただくことができました。まさに地域の皆さんの応援による、地域の皆さんと共に動く活動になっていく実感を持つことができました。ちなみに、オレンジグループでは医療的ケア児のサポートなど、これまで全9件のクラウドファンディングを実施しており、支援者はのべ1,409人、支援総額は27,011,500円となっています。地域の新しいニーズに取り組むためにクラウドファンディングを今後も活用し、全国・全世界から支援をエネルギーにしていきたいと考えています。これらの生活支援の取り組みの延長として、コミュニティナースカンパニー株式会社(島根県)との連携による、コミュニティナースが自宅を訪問する自費サービス「ナスくる」や、西濃運輸グループとの連携により、医療難民・買い物難民に薬や生活備品を届けるサービスなども模索中です。

オンライン診療の活用

新型コロナウイルス感染症をきっかけに、オンライン診療にも積極的に取り組んでいます。オンライン診療は「効率」や「手軽さ」、さらに「コロナ禍における通院回避」に注目がいきがちですが、私たちは、全ての人に医療を平等に届けるツールと考えました。
つまり、外来通院で落ち着いている人や若者を中心に外来診療の簡易版としてオンライン診療を進めるだけではなく、在宅医療や在宅ケアの中で、より丁寧によりその人らしい療養を支えるためにオンライン診療を活用すべき(在宅医療の補強,充実の手段)と考えました。
現在、3つの作戦を計画・実行中です。
1つ目は「D to P with S」によるオンライン在宅主治医(D)です。在宅患者(P)に対してオンライン診療を行う上で課題となる、「高齢者が機器を操作できるか」「症状や体調を伝えられるか」「顔色や足取りなど全体像での判断ができるか」「圧痛の確認など触れる診察ができるか」などの点を、現地にその人のことをよく知るスペシャリスト(S)、すなわち訪問看護師や施設看護師、薬剤師、ヘルパー、ケアマネジャーなどに同席してもらうことで解消するという考えです。現在、数名の高齢者を3ヶ所の連携施設とともに診療を継続しています。
2つ目は、オンライン診療と巡回診療との組み合わせによる地域丸ごとサポートです。医療過疎地域へ対面の巡回診療と、看護師のみが訪問してのオンライン診療を組み合わせることで、無医地区にも継続した医療を届ける取り組みです。こちらも福井市の1地区に現在も継続して診療を行っています。
3つ目は、障害者施設のオンライン嘱託医です。障害者施設に入所している方々は、現在の仕組み上、継続した医療を受けることが難しい場合があり、状況によってはやむを得ず無診療投薬のような形(家族のみが受診、施設職員のみが対応)が行われてしまっている現状もあります。障害者(知的障害、精神障害、発達障害など)に対する専門医が少ないこと、障害福祉のサービスとして診療同行などが困難であること、家族も病気や高齢のため対応が困難なことなどが原因としてはあげられますが、ご本人や介護者(家族、施設職員、訪問介護職員など)は相談先を求めている現状があります。それをオンライン嘱託医として少しでも改善できないかと、障害者施設を運営する社会福祉法人と、連携を開始したところです。

おわりに

これまでの医療の分類としては、多岐にわたる活動をしていると思われがちな当法人の取り組みですが、実際は「地域のニーズに応えるために、既存の手法から離れて考える」「医療福祉チームとして、今求められることを制度に囚われず実現する」という軸に基づいて地域活動を展開しているという意識でいます。
そのような現場で動けるチームを構築するために大事にしているのは、フラットなチームづくり、マルチタスクによる柔軟な働き方、共感を大切にした話し合いなどを行っており「スタッフがハッピーでないと患者さんをハッピーにはできない」ということを意識して人財育成・チーム力醸成を行っています。
部分部分は特殊な取り組みと言われることも多い当法人のアプローチですが、スタッフも地域住民も含めて、関わる人を大切にしたいという思いは、全ての医療チームに共通することではないかと思います。ぜひ、皆様の取り組みも共有していただき有意義な情報交換ができましたら幸いです。

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ