メインコンテンツに移動

maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「薬剤師3.0」実現のための処方箋(7)


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

医師と薬剤師では患者さんの見方が少し異なると、以前から考えてきたことがありました。その見方の違いを知り、あるべき姿に統一していくことは、医師と薬剤師の連携を強化するだけでなく、病院薬剤師と薬局薬剤師の連携、いわゆる「薬薬連携」のあり方を変えることになると思っています。今回は、患者さんを一枚の写真と見るか、映画フィルムの一コマと見るかという観点から、お話ししたいと思います。

研修医時代に言われた衝撃の一言

1996年ごろですから、もう25年以上前の話になりますが、私が医師になって研修医時代を過ごしていたころのことです。当時は、レントゲンフィルムを読影するためにウラに蛍光灯が何本も入っている専用の機器(シャウカステンと呼びます)にかけて、紙のカルテにスケッチすることが大事だと教えられていました。今なら、画面上でコピーアンドペーストすれば良いだけなのかもしれませんが、スケッチするというのは、その医師がどこが大事だと思っているのかが如実に表れるので、研修医としては、結構緊張しながら、そして頭をひねりながら、描くのが通例でした。
ある日、私がいつものように胸部レントゲンフィルムをかけたシャウカステンの前にカルテを広げて、熱心にスケッチをしていると、指導医の先生に「狹間君、そのレントゲン、写真と思って見ていると失敗するで!」と言われました。「レントゲン写真」というぐらいですから、一体どういうこと!?と私はきっといぶかしげな表情を浮かべたのだと思います。そんな私に、にやりと笑いながら「それは、写真とは違う。映画のフィルムの一コマなんだ」とおっしゃるのです。さらに、はてなマークが一杯の私に、「その写真の前の写真もあれば、あなたがこういうふうにしたいと思う写真もあるだろ?」と続けられました。確かにそうです。その写真は、右肺に肺炎像を疑った患者さんだったと思いますが、数日前のレントゲン写真には影は写っていませんでした。その後、熱が出て、呼吸音を聞いたり、痰の性状を確認したり、血液検査をしたりして肺炎を疑って撮影したレントゲン写真でした。右下肺野に白い肺炎像を認めたので、やっぱりと思ってスケッチしていたところだったのです。そして、肺炎に対しては抗生物質を点滴で投与しようと考えており、5日後には、再度採血とレントゲンをオーダーして効果を確認しようと考えていました。
これは、まさに無意識ではありますが、目の前の患者さんを映画のフィルムの一コマとして捉えていることであり、その視点がなければ、患者さんの状態を本当に良くしていくことは難しくなると思ったのです。
それから25年余り、医師として、何とか現場で働くことができているのは、このものの見方があるからかもしれないと思っています。これは変革を迫られる薬剤師にとっても重要なことではないかと考えます。

写真と考えると、服用後のフォローは難しい

薬剤師の仕事は、対物中心の業務から対人中心の業務へとシフトしはじめています。私が申し上げている「薬剤師3.0」というあり方の実現には、まさに、薬というモノを渡すことがクライマックスの対物業務から、患者さんというヒトを良くすることを目的とした対人業務にシフトすることが重要だと考えてきました。とはいえ、戸惑いが多いのも事実です。忙しすぎるとか、人手が足りないとか、色々な理由から対人業務へのシフトに踏み切れない事例を見聞きしますが、実は、根本にあるのは、薬剤師自身が対人業務の重要性や意味合いを納得できていないことではないかと感じています。
おそらく、「調剤薬局」と呼び習わされた薬局での業務において、薬剤師の目の前に現れる患者さんは一枚の写真として見えているのではないかと思うのです。処方箋には病名も治療経過も記されておらず、単に処方された薬の種類と用法・用量、投与日数が記載されているだけです。また、患者さん自身も、自分のことはあまり多く語りたがらないことも少なくないでしょう。だとすれば、薬剤師にとって、その患者さんは「○○歳、男性で○○という薬が処方された人」という写真のように見えるのも無理はありません。そして、その方が求める薬を早く・正しく調剤し、分かりやすい服薬指導とともに薬をお渡しすることで、その写真は完成します。この写真完成業務を1日最大40回行うことが、「調剤薬局」の仕事として認識されているのではないでしょうか。
このような状況のなかで、服用後のフォローとか、薬学的アセスメントとか、医師へのフィードバックなどと言われても、写真はすでに完成しているのですから、それほど重要性を感じることは難しいでしょう。

患者さんを映画のフィルムの一コマと見る重要性

薬剤師が、25年余り前の私が教わったように、患者さんを映画のフィルムの一コマとして見ることができればどうでしょう?目の前に処方箋を持ってこられた患者さんには、その薬をもらうまでの経緯があるはずです。急に発症した病気やケガなのか、ガンを含めて長く付き合っている慢性疾患なのか。そして、症状は急速に悪くなっているのか、安定しているのか、改善傾向にあるのか。薬はずっと変わらずに使っているものなのか、今回追加されたものなのか、再開されたものなのか。そして、これらの薬を使うことで、患者さんの状態はどうなっていくことを医療チームとしては目指しているのか、ということを考えるのが、映画のフィルムの一コマとして見るということです。
こうなると、初めて担当する方の問診も、いつも来られている方への最初の声かけも、今までとはひと味もふた味も違ったものになるのではないでしょうか。初めての方であれば、いつごろから体調不良がおこったのかを確認するでしょうし、何度も来られている方であれば、前回処方された(=薬剤師が調剤した)薬を服用した後、きちんとコンプライアンスは保たれていたか、効果はきちんと得られていたか、薬剤によると考えられる有害事象はおこっていなかったのかということを、まずチェックするというのは、それほど違和感なくできるのではないでしょうか。そして、その映画のストーリーを理解して、薬を調剤し、説明して渡した後には、やはり、その後の経過を薬剤師がフォローして、薬学的にアセスメントし、これは大変!と思った内容については、医師に適切に報告して、薬物治療の適正化につなげていく取り組みが自然に行えると思うのです。
つまり、昨今、何度も言われる「対物から対人へのシフト」というのは、患者さんを写真としてではなく、映画のフィルムの一コマとして捉えることで、一気に取り組みやすくなるのではと感じています。

おわりに

今回は、患者さんをどう見るのかということで、私自身の経験をもとにした見え方の違いをご説明しました。医師への情報提供をすることが難しいということはよく聞きますが、これも、写真として見てしまっていることの表れではないかと思います。私たち自身も含めて人は、一人ひとり壮大な映画を生きているようなものかもしれません。患者さん一人ひとりの映画のストーリーを理解し、より良い結末を迎えられるように、私たちが脇役の登場人物として何ができるのかを考えていくことは、結果的に「かかりつけ」として患者さんとの信頼関係を築き、業務に当たることができるきっかけになるのではないでしょうか。

記事/インライン画像
患者さんを映画のフィルムの一コマと見る重要性
患者さんを映画のフィルムの一コマと見る重要性

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ